田舎に住む女子高生たちが「罠(わな)」を駆使して野生の動物を捕まえる異色の漫画、『罠ガール』(電撃コミックスNEXT)が2巻時点で発行10万部を突破するスマッシュヒットとなっています。作者は実家が農家で、自身も罠猟免許を持つ緑山のぶひろさん。
大人顔負けの罠を仕掛けるちーちゃん(朝比奈千代丸)と、畑仕事を始めて3カ月という幼馴染のレモン(昼間レモン)。作中第1話では畑のほうれん草が荒らされ困り果てるレモンと、泣きつかれて渋々犯人のイノシシ退治を引き受けるちーちゃんのお話が描かれます。
イノシシには多少お金をかければ専用の“箱罠”などで対抗できますが、それは高校生のお小遣いではなかなか手の届かないシロモノ。そこでちーちゃんは、「自分もまだ素人」と謙遜しつつも、お手製の罠を作っていきます。材料はワイヤー、バネ、パイプキャップ、締付金具など、どれも手近にそろえられるもの。これらを組み合わせて、手製の“くくり罠”を作っていきます。これでイノシシが罠を踏めば、ギュっと足を捉え、逃げられなくなるという寸法です。
「へぇー」と感心するレモンをよそに、手際よく罠を作り終えたちーちゃん。次はイノシシの居場所に見当をつけるため、“獣道”をたどりつつ罠の設置場所を吟味していきます。道中「どうしたの? 罠仕掛けないの?」と不思議がるレモンと、「ここはシカしか通ってないかも イノシシの足跡が見当たらない…」と、イノシシがいつも同じ道を通る習性を説明するちーちゃん。読んでいると読者まで自然と罠に詳しくなってくる親切設計になっています。
「ちなみにレモンが今踏んでる丸い黒いのがシカの糞な」「ギャー」といった他愛ない会話も交えつつ、ついにイノシシがいそうなスポットを発見。丈夫な木にワイヤーをしっかりとむすびつけると、罠を地中に隠し、怪しまれないように土や葉でしっかりとカモフラージュ。
これで一件落着か――と思いきやそうともいかず。なかなか罠にかかってくれないイノシシになんとか対抗しようと、畑の横にテントを張って夜営をしてみたりと空回りもしつつ(仮に畑でイノシシと遭遇できても対抗手段がない……!)、5日目にしてようやく罠が動作した痕跡を見つけます。
ところが、罠のワイヤーをくくりつけた木の周囲にはイノシシが荒らしたとみられる痕が円状に広がっているものの、肝心のイノシシはどこにも見当たりません。棍棒(こんぼう)を手に、用心しながら木に近づいてみると――。
「フゴッ……」と、木の死角に潜んでいたイノシシがちーちゃんめがけて突進! とっさのことに凍りつき、尻もちをつくちーちゃんですが、「(ガキン)」っと罠が動作して、イノシシはすんでのところで動きを封じられます。まさに間一髪でした。
イノシシを捕まえた後も、お話は極めてシビア。畑に被害が出ている以上、イノシシは自分たちで“仕留め”なければなりません。罠はイノシシを飼うために仕掛けたわけではない――そう心を鬼にして、ちーちゃんは棍棒に「ぐっ」と力を入れます。なるべく苦しませずにイノシシを仕留めると、血抜き作業までを一気にこなしていきます。レモンも一緒に見届けて、最後は役所の人にイノシシを引き渡し、やっと一段落。イノシシはその後、イノシシ肉がほしい猟師やジビエ肉加工場の元へと運ばれていきます。
長きに渡った野生生物との戦いにもこれで終止符……というわけではなく、その数日後には「ぢーぢゃーん」と、また涙ながらに途方に暮れるレモンの姿が。今度は畑の野菜の葉がことごとくシカたちに食べられてしまったようです。「また罠で捕まえてよ〜」と泣きつくレモンに、「…そのうちな」と、なんだかんだで押しに弱いちーちゃんは答えるのでした。
同作は現在、単行本3巻まで発売中。サバサバした性格と思いきや、ついレモンを助けてしまうちょっぴりお人好しなちーちゃん。そしておっとりさんに見えて、イノシシの最期を見届けるなど、どこか芯を感じさせるレモン。この2人に加え、同級生で祖父が猟師の生徒会長・夜空つむじや、本職の猟師だけど極度の人見知りな清水夏芽といった新たな仲間を巻き込みつつ、罠ガールたちのスローでハードな日々が続いています。
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