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32平米ワンルーム×材料費2万5000円の賃貸DIY。空間を「仕切る」のではなく「重ねて」暮らすということ(1/2 ページ)

建築家による、自分たちが住む賃貸住宅のDIY改装。

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 あなたは今住んでいる賃貸の部屋に満足していますか。いや、賃貸の部屋に満足している人などいるのでしょうか。こうした部屋という部屋はほぼ全て、住人のことを知らない誰かが作った空間なので、住んでいて満足できるはずもありません。では、どうすれば満足する部屋に住むことができるのでしょうか。

 その答えは、ある哲学者が教えてくれました。どうやら「建てることは、住むことに根ざしていて、それこそが考えることなのだ」とのことなのです。1950年のハイデガーの講演「建てる・住まう・考える」の一節ですが、もっと誤読すれば、よく考えて・DIYして・住むことで生きることが豊かになるらしいのです。

 私たち夫婦は2人とも建築家で、「全ての空間と人は良い関係を結ぶことができる」をポリシーとし、建築設計事務所IN STUDIOを運営しています。豊かに生きたい私たちは、あるとき自分たちの賃貸住宅をDIY改装したことがありました。今回はそのケーススタディーをご紹介します。

賃貸DIY

「標準化した住宅」への失望と、新しい生活への想像

 結婚を期に夫婦で引っ越すことになり、新しい生活を想像しながら部屋を探しました。最寄り駅と駅までの距離と家賃を伝え、検索システムから出てきた物件。いくつも見て回った結果わかったことは、ほぼ全ての物件がいくつかの小さな部屋と水回りの集合であるということです。

 当たり前のようですが、住宅の空間構成はみごとに標準化しています。微差しかない住宅の間取りを前に新しい生活の想像を巡らしても、家具を置いたらあとは貧しい空間が残るだけだろうとしか思えず、希望がしぼんでいく感じがしてきました。

 そんなとき、良い生活を想像できる物件が見つかりました。少し大きな32平米のワンルームです。

 なぜ住宅は標準化するのか。

 住宅というものは、寝たり食べたり料理する空間であって、それらの機能は明確に仕切られた各部屋におさまるものだ、という住宅生産者の共通認識があり、そのうえで住宅は設計され、生産され、住まれています。だから、土地を分け、建物を建てたら住戸を分け、そのなかに部屋を分けることで、生活空間を生産するのだ、ということになっているようです。大量生産された住宅とは機能が成り立つまで空間を小さく小さく分けたものになっているのです。

 ですが、そんな細切れの部屋は人間の生活を本当に支えられているのでしょうか。生活とはそんなに単純なものでしょうか?

 生活とは、寝る、食べる、料理する、くつろぐ、持ち物をしまうといった、機能的活動の束です。ただしそれだけではなくて、家族の世界をつくって住むことであり、街に住むことです。人生をともにしてきた持ち物とともに生き、寝起きや食事を繰り返すなかで家族の時間を積み重ね、次第に街に定着していくことが生活ではないかと思います。

 空間を小さく分けていっても、よい生活空間は生まれそうにありません。そうであれば、空間にまとまりをもたせたり、重なりをもたせる設計をしてはどうだろうか。それが、私たちの新しい部屋でのチャレンジでした。

賃貸DIY
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空間をまとめ、重ねる設計

 買った材料は15枚のベニヤと12メートル分の2×4材で、およそ2万5000円。

 まずはベッドを置いて寝るための場所をつくります。ベッドの高さは20センチで、74センチの棚に囲まれています。子どもの大きな家族ならば壁で仕切る必要がありますが、私たちはこの程度の腰壁で問題ありません。棚はベッドの外を向いていて、キッチンの収納の役割を果たします。

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 次にテーブルと椅子をこの棚につけて置いて食事の場所をつくり、残りの場所を床座でくつろぐ場所に。

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 部屋の一面には持ち物を見せる棚を作りました。とても大きいサイズにしたことで、部屋の印象を決定づけています。元からあった押入れは扉を外して布地を掛けました。

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 こうしてできた部屋では、場所の重ねあわせが起こります。

 ベッドで寝ているとき、見上げた天井は窓際まで広くつながっていて、朝には外の光がなめてきます。テーブルで食事しているときは、ベッドの上のピンナップと、棚の本や飾り、育てているベランダの植物が見えます。私たちはよく自炊をするので、植物は時々摘み取られ、料理に加えられます。

 寝ているときも、食事するときも、そのとき使っていない空間まで場所の広がりに参加しているし、そのとき使っていない持ち物も場所に時間を感じさせるようふるまいます。重なりあい、まとまりをもった場所のなかで、毎日毎年生活のリズムは繰り返され、広がっていくのです。

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 空間は切り分けることもできますが、重ねて使うこともできる。そして重ねて使ったところで減るようなものではなく、むしろ良さが増えるものなのです。

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