「お前やってることは法律に引っかかってんだよ!」 コインハイブ事件、神奈川県警がすごむ取り調べ音声を入手(2/3 ページ)
【動画あり】弁護士は「推定無罪の原則を真っ向から否定している」と語りました。
モロさんが語る、神奈川県警の捜査姿勢
――2018年2月上旬にコンタクトしてきた神奈川県警の担当者はどの部署の方ですか。またどうやってモロさんの連絡先を把握したのでしょうか。
モロ:電話してきたのは神奈川県警港南警察署の方で、家宅捜索前の電話の時点では「生活安全課」を名乗っていましたが、取り調べでは「サイバー課を名乗って感づかれたらまずいからね」と言っていたので、実際にはサイバー犯罪対策課の方だったんだと思います。神奈川県警は私が契約しているサーバ会社の登録情報を全て持っていたので、そこから電話番号を知ったのではないでしょうか。
――何人の捜査員でモロさんの取り調べを担当しましたか。またどう喝していた捜査員はどういう立場の方か分かりますか。
モロ:取り調べに直接関わったのは4人で、1人から2人が入れ替わりで取調室にいました。過激な発言をした捜査員は30代後半くらいのガタイのいい体育会系の男性でしたが、立場や氏名を聞くことはできませんでした。取り調べの合間に捜査員たちが「今日はあの人が来てるから」と、厄介なOBを警戒する部活動生のようなやりとりをしていたので、恐らく他の3人に比べて立場が上の人なのではないかと思います。
――他にも威圧的に感じる場面はありましたか。
モロ:調書の修正を求めたときも「書き直して、印刷し直してだからあと数時間はかかる」「明日も来ないといけなくなる」といわれて断念しましたし、「休憩したい」と伝えた際も「今日一日で終わらなくなっちゃうよ」「早く終わらせないと、仕事休んでまたここまで来るの大変でしょ」と言われたりという感じでたびたびプレッシャーをかけられました。
――もっとも詳しく聞かれたのはどんな部分でしたか。
モロ:捜査員の方はしきりに「headで読み込んだということは、全てのページで効率よく金もうけをしようとしていたのだろう」と確認をしてきたのですが、そもそもどこで読み込んだから効率がいい、ということはなく、どのページで読み込むかもheadで読み込むかどうかとは全く関係のないことなので、その説明に1時間近く費やしたと思います。最終的に出来上がった調書には「全ページで読み込みたかったからheadで読み込みました」というようなことを書かれてしまい、こちらからお願いした修正もかないませんでした。
――“どんな形でも「反省してます」の一言が必要”と感じた部分もあったそうですね。
モロ:過激な捜査員の方がしきりに「反省してんのか?」と詰め寄ってきたときもそうですし、「自分の親がコインハイブ使われたらどう思う?」というやりとりに至るまでも何度もそう思わざるを得ないやりとりが続きました。例えばこんな感じです。
神奈川県警:GIGAZINEを見たということはコインハイブを使って炎上したケースは知ってるよね?
モロ:はい。
神奈川県警:炎上したということは悪いことをしてたんだよね?
モロ:それはケースバイケースだと思います。
神奈川県警:じゃあ、あなたは炎上なんて何とも思っていないということ?
モロ:そうは言ってません。
神奈川県警:じゃあ多くの場合はどう? 炎上するのは悪いことをしたケースのほうが多くない?
モロ:それはそうかもしれませんね。
神奈川県警:じゃあ、もしあなたが炎上してたらどうした?
モロ:一生懸命説明したと思います。
神奈川県警:でも許してくれない人も多いと思うよ?
モロ:多くの人は理解してくれるはずです。
神奈川県警:じゃあ少数派はどうでもいいの?
モロ:そうは言ってないでしょう。
神奈川県警:じゃあ少数の人たちに対しては申し訳ないと思う?
モロ:そう思う面もあります。
神奈川県警:申し訳ない?
モロ:まぁ……。
神奈川県警:申し訳ないということは反省してる?
モロ:はぁ……。
モロ:という感じで、「反省してます」と言うまで「じゃあ」「もし」と極端な「例えば」がひたすら続きますし、だんだん何の話か分からなくなりながら根気強く答えていっても、最後は「あなたの感覚はおかしいよ」と切り捨てられるだけでした。本当に露骨なので、あの場にいれば10人が10人「反省してますって言わせたいんだな」と感じると思います。
――「Coinhiveについての紹介記事」について現在は削除されていますね。削除に至った経緯を教えてください。
モロ:「他のクリエイターの人に同じ経験をしてほしくない」という思いから、家宅捜索の際に「これが犯罪だと思ってる人なんていないですよ。注意喚起してもいいですか?」と申し出ましたが、「それで犯罪者が捕らえられなくなったらあなたの罪になるからおすすめしない」という風に言われ、かないませんでした。そして家宅捜索から2日後の2月8日にあらためて、「削除だけでもだめですか?」と申し出ましたが家宅捜索のときと対応は変わらず、「自分が紹介記事を書いたことを隠す意図はない」「必要ならいつでも復元できるようにしておく」「魚拓もとる」と食い下がっていたら、数時間後に「おすすめはしないけど止めもしない」という形で黙認されました。このとき「止めないのは削除ですか? 注意喚起ですか? それとも両方ですか?」と確認したのですが、捜査員から「削除でしょ。常識で考えて」と言われたのが印象に残っています。どこの常識だろうと一人でモヤモヤしました。
――今回の刑事処分に異議を申し立てる裁判を決意された経緯を教えてください。
モロ:今回のように、新しい技術が専門知識のない警察の独断で裁かれてしまうと、今後Webの仕事をしていく上でとても大きな足かせとなりますし、業界全体が常に警察の目におびえることになってしまうと思ったからです。中には「事前に法律の専門家に相談しておけば」という声もありましたが、判例のない事件前の時点では、法律の専門家といえど何かをはっきり明言できる状況ではなかったと思います。Coinhiveで逮捕者が出た時点で警察に問い合わせた人もいましたが、その時もぼんやりとした回答で、今になってもまだ明確な基準は明かされていません。
当時Coinhiveを試した多くの人は「これならユーザーはもっと快適に自分のサイトを楽しんでくれるかも」と期待しながら新しい取り組みに挑戦したと思います。そういった方々が家宅捜索や逮捕、実名報道にさらされて「二度とPCを触りたくない」と感じてしまうのはとても残念なことです。どういった理由で犯罪とされるのか明確にならないままでは、いま技術的に盛り上がっているフロントエンドの領域も一変して地雷原の様相です。ユーザーのためにいち早く足掻いた技術者が割りを食うような現状は、絶対に正しくないと思います。
もうひとつだけ、技術的なことに造詣の深い弁護士の平野敬先生に出会えたことも幸運でした。何人かの弁護士の方に問い合わせたのですが大抵は話がかみ合わず、「ITに強い」とされている方でも「仮想通貨」や「マイニング」となるとやはり難しいようで、諦めかけていたところに知人が紹介してくれたのが平野先生でした。平野先生がいなければ裁判に移行することもできず、泣き寝入りするしかなかったと思います。
――本件について奥様や周囲の方は理解を示してくださっていますか。
モロ:妻はこの業界の人ではないのであまり詳しいことは分かっていないのですが、家宅捜索からずっと応援して、励ましてくれています。母や義母もそうですし、今もお世話になっている取引先の人たちや技術者の友人たちもずっと応援してくれていて、本当にありがたい限りです。私が今もインターネットを好きなままでいられるのも、そんな周りの人たちや平野先生、セキュリティ研究者の高木浩光先生のおかげです。心の底から感謝しています。
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