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渋谷の仮囲いの絵、実は物語になっていた SNSで大反響 制作者「完成は1年前だったので驚いた」

再整備中の宮下公園――その仮囲いに描かれた絵が、実は感動的な物語になっていたことを示す動画がTwitterで話題に。制作した365ブンノイチに取材しました。

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 再開発プロジェクトであちこちで工事が行われている2019年の渋谷――街を歩いていると至るところで仮囲いが目に入ります。その中、ある仮囲いに描かれたイラスト群が一つの感動的な物語になっている、ということを示した動画がTwitterで大きな驚きと感心を集めています。作品を手掛けたNPO法人、365ブンノイチに取材しました。

宮下公園の仮囲いに描かれたイラスト。実は1つの物語に……!(写真提供:365ブンノイチ)

仮囲いの“渋谷絵巻” 完成から1年後にSNSで話題に

 話題の仮囲いは、再整備工事中の宮下公園の周りに設置されたもの。端にはスクランブル交差点を愛犬と散歩している少女の絵が描かれています。

仮囲いの位置

渋谷を散歩する女の子と愛犬の絵が(画像提供:@imabari_yukaさん)

 その隣には、モヤイ像の前で少女と犬がうっかり離れ離れになってしまう絵。さらにその隣にはハチ公前広場で犬を探す少女の絵が。そう、仮囲いには進行方向に沿って、渋谷における少女と犬の物語が絵巻物のように描かれていたのです。長さも200メートルと、スケールもなかなか壮大。

二人は離れ離れに

 少女は渋谷でさまざまな人に助けてもらいます。109前では犬を見掛けなかったかギャルに尋ねたり、ストリートパフォーマーに協力してもらったり。逆に視覚障がいのある高齢者を道案内して人助けすることも――それでも犬は見つからず途方に暮れます。


車いすバスケットの人や、視覚障がい者との交流も

道路を挟んで反対の仮囲いでは、犬が女の子を探している姿が

 犬も犬で、スペイン坂やスクランブル交差点を不安そうにうろうろ。最終的にはある同性カップルから目撃情報をもらい、ハチ公像の前で2人は再会を果たします。最後は少女たちがその日出会った渋谷の人々と仲良く集合する姿で、物語は幕を閉じるのでした。

無事に再会、よかった……!!

 仮囲いの一部を見たとしても渋谷の日常をテーマにしたアートとして十分楽しめますが、端から端まで追うと一連のストーリーとしてさらに楽しめる、という仕掛けがなんともステキ。また同性カップルがハチ公前広場で待ち合わせていたり、少女が公園で車いすバスケットしている人に話し掛けたりと、多種多様な生活がいきいきと描かれているのも心があたたまります。

ハチ公像が再会する2人に顔を向ける演出がこれまたいい

 実はこのアートは、2018年4月に完成したもの。地域に寄り添ったクリエイティブ作品を制作するNPO法人・365ブンノイチが渋谷区から許可をもらった上で、「渋谷明治通りPROJECT」という名の下制作しました。

「渋谷明治通りPROJECT」の制作時の様子(写真提供:365ブンノイチ)

 しかし2019年3月24日、この仮囲いの物語にたまたま気付いた今治ゆかさん(@imabari_yuka)が、イラスト群を端から端まで歩いて撮影。Twitterへ「渋谷の工事中のシャッターの絵 普通に道歩いてて泣いてしまった」と投稿したところ、10万回近くリツイートされる大反響となりました。

 仮囲いの絵は知っていたけれども物語性には気付いていなかった人は多かったようで、ツイートには「全部見るとこうなってたんだ」「絵は見たことあったのに」「びっくり!」と驚きの声が続出。「2人が出会えてよかった」「ハチ公前で出会うのがいいですね」と物語にほっこりする声や、「いろんな人が登場するのがいい」「多様性が集う街、渋谷」と登場人物の多様性にときめく声も相次いで寄せられています。

制作者「まさか1年たってここまで話題になるなんて」

 完成から約1年たったタイミングで、SNSで大きく話題に。365ブンノイチのプロジェクトリーダーかつ理事の田村勇気さんは、「驚きでしかないですよね。1年たっているのにこのタイミングでここまで反響があるとは思っていませんでした」と話します。

制作風景

 この「渋谷明治通りPROJECT」は、東京都と渋谷区から許可をもらった上で、美大生100人を含む総勢200人で制作。シートに下書きをプロジェクターで投影しながら写し、本塗り作業と、200メートルに及ぶ大作を2カ月かけて完成させました。原画を担当したのは、アパレルブランドや雑誌『POPEYE』『BRUTUS』の表紙などを手掛けた人気イラストレーター・金安亮さんです。

 365ブンノイチがNPOとして活動を開始したのは2017年7月で、実質的にはこの「渋谷明治通りPROJECT」がデビュー作。完成したときもNHKなどマスメディアに報じられるなど注目されましたが、今回の動画ほど話題になったのは初めてだったといいます。

 「ストリートアートというのは、通りがかった人にアーティストの思いを強い表現でドンとぶつける、目に止まりやすい作品が多いです。しかし『渋谷明治通りPROJECT』では街の空気感を壊したくなかったので、かなり控えめに、メッセージもじわじわと伝わるような作品作りを意識しました」(田村さん)

 作品がSNSで再び脚光を浴びていることについては、「作品の感想をみなさんが書き込んでいるのを見ると、マスメディアで紹介されたときとはまた違い、一人一人に作品が知れ渡った感覚があります」。動画を投稿した今治ゆかさんが「泣きました」と紹介したことにも、「作品はほっこり癒やし系だと思っていたので、泣けるという言葉で紹介され話題になったのは意外でした」と、受け止め方の違いに驚きを見せます。

登場人物の多様性も話題に

 登場人物の多様性については、「渋谷区は『ちがいを ちからに 変える街』を合言葉に、ダイバーシティ(多様性)を理念に掲げていろんな方が新しい社会を作っていける街づくりを目指しています。そうした渋谷区が大切にしていることを作品に込めました」と説明。その多様性の描写が評価されていることにも、「優しい社会を伝えたかったので、みなさんに喜んでいただけてすごくうれしいです」と喜びをあらわにしました。

 「SNSで作品を楽しんでくださっているみなさんには、純粋に『ありがとうございます』という感謝の気持ちでいっぱいです。1年間ずっと絵は飾ってあったのですが、ここまでの反響は起こりませんでした。突然、良さに気付いて認めていただけて、苦労して作った甲斐があります」(田村さん)

現在は中目黒で別のアートプロジェクトを進行中

 現在は中目黒で、落書きされてしまった80メートルの壁をアートに変えていくプロジェクト「中目黒アートスクエア」を進行中。NHKの人気キャラ「どーもくん」を手掛けたごうだつねおさんが作画監督を務めながら、壁に中目黒の新しいキャラクターをみんなで描いていく取り組みです。「一般市民のみなさんが参加できる仕組みになっているので、いろんな方に参加いただけたらと思います」。

 なお「渋谷明治通りPROJECT」の作品は、宮下公園の工事が終わると同時に仮囲いごと撤去される予定。撤去後にどこかで展示する予定も特に決まっていないそうです。渋谷再開発中にしか見られないストリートアート――仮囲いの側を歩くときは、少しスピードをゆるめてゆっくり鑑賞したいです。

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