鳥取県・倉吉市にあるホテル「グリーンスコーレせきがね」で4月7日から、マンガ20万冊以上が読み放題のサービス「ふるいち 関金温泉まんが王国」が始まりました。
温泉+マンガという組み合わせはそう珍しくないものの、「20万冊以上」という数字はかなりのインパクト。20万……なんとなくすごそうですが、言葉を聞いただけではにわかに想像できない……。ということで現地を取材してみたところ、そこに広がる光景は、はてしなく本棚が続くマンガ好きにとっての天国でした。
背景には鳥取「まんが王国」構想
鳥取県といえば「まんが王国」をうたい、鳥取砂丘コナン空港や境港市の「水木しげるロード」などを整備して、地域活性や観光振興に結び付けている県です。
「ふるいち 関金温泉まんが王国」がある倉吉市も、2016年より市がWeb連動型の音楽企画「ひなビタ♪」とのコラボイベントを開催したり、2018年に約2000点のフィギュアを展示する「円形劇場 くらよしフィギュアミュージアム」をオープンさせたりと、サブカルチャーとの連動が目立ちます。
そんな鳥取県の構想に賛同し、後押しするために始まったのがこの企画。2018年の秋ごろから具体的な準備を始め、オープンまでに少しずつ本棚を増やしていったといいます。
廊下やロビーにはこれでもかと本棚が置かれ、さらにはマンガの本棚だけが置かれた専用部屋も5室。目録はデータ化されていませんが、少年、少女、青年といった具合に、区画によってジャンルごとに整理されているので本棚を眺めながら歩いているだけで読みたそうな本に出会えます。あとは本をピックアップして、ロビーなどのイスに座って没頭して読むだけ。
また内装を見れば、「痛ホテル」とも呼べるほど、ポスターやタペストリー、ぬいぐるみ、フィギュア、等身大パネルなどがそこかしこに展開されています。
特に本気ぶりが伝わってきたのが女性向けのコーナーです。畳敷きの元宴会場を3室使い、ボーイズラブ作品を含む3万冊を提供するうえ、一人一人の席が間仕切りされた読書ルームまで用意します。いずれの部屋も「男子禁制」なので、安心して自分の世界に没頭できるのがうれしいですね。
数だけでなく質にもこだわり
ホテル側によると、実は約20万冊というのは表に出ている分だけで、バックヤードも合わせると蔵書は約26万5000冊にのぼるとのこと。
ざっと調べてみたところ、マンガを置いている温泉やスーパー銭湯の蔵書が一般的に数千〜1万冊ほどといったところ。中国地方だと広島のマンガ図書館が約5万冊、一般的な中古書店のコミック在庫がだいたい7〜10万冊ほどらしいので、20万冊という数字がいかにものすごいかが分かります。
また、これだけの数をそろえるとなると相当なコストがかかったのでは――と心配になりますが、導入にあたっては古書店の在庫を活用することでコストを抑えたとのこと。今回のプロジェクトは、ホテルを運営するトラベルシリウスだけでなく、古書店チェーン「古本市場」で知られるテイツー、そして自衛隊岡山地方協力本部の萌えPRキャラを手掛けるインクの3社が関わっています。
数だけでなく、質という点でも力を入れています。インターネットカフェなどでは、流通在庫がある新しめの作品が中心となりますが、まんが王国では古かったり、マイナーだったりする作品までカバーしているとのこと。テイツーによれば、単純に古本の在庫を放出しただけでなく、店頭での売れ筋なんだけど、どうしても入れたかったという作品も「最後の一押し」で入れたとのことです。
利用料金は、温泉・ドリンクバー付きで12時間1000円、1泊36時間滞在なら5000円からと非常にリーズナブルなのがうれしいところ。さらにホテルから車で10分ほどのところには、レール内に竹が生えている景色で有名な旧国鉄倉吉線の廃線跡があります。撮影にもよさそうなので、コスプレイヤーさんにぜひ活用してほしいスポットです。
マンガは電子書籍が全盛ですが、物理的な本にも棚を眺めながら興味のありそうな作品を探したり、記憶の片隅に埋もれていた思い出の一作に出会えたりといったメリットがあります。4月7日には鳥取出身で漫画好きで知られる衆議院議員の石破茂氏や、「ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり」を執筆した小説家の柳内たくみ氏らを招いたオープニングイベントも開かれ、石破氏らはまんが王国内を巡回しつつ、ときには作品を手にとりながら“天国”を満喫していました。
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