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古田新太が女装家の教師を快演。土10「俺のスカート、どこ行った?」はジェンダーバイアスを恐れない傑作の予感

バイアスがあるのはしょうがない、だけど、変えていこう、そのたびごとに考えていこうという意志。

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 ドラマ「俺のスカート、どこ行った?」(日テレ土曜日よる10時)、略称「俺スカ」の評判がいい。ゲイで女装家の教師:原田のぶおを、古田新太が演じる学園ドラマだ。視聴率10.9%で好スタート。


俺のスカート、どこ行った? ゲイで女装家の教師を演じるのは古田新太 イラスト/たけだあや

ゲイで女装家の教師

 ゲイで女装家の教師という設定は、10年前だったら「もしも」力が強くて、奇想天外な思弁的ドラマになっていただろう。だが、いまや、起こり得る。いや、すでに起こっている。そういったリアリティを要するタイミングで、「俺のスカート、どこ行った?」は、ちゃんとしたドラマになっていただろうか?

 なっていた。

 第1話、素晴らしかった。しかも、破天荒でありながら、ちゃんとしているという絶妙なバランスを貫いた。

ゲイは性の向き。女装は表現の形

 「おっさんが女のかっこうしてたらキモいってのが常識だろ?」という生徒・東条正義(道枝駿佑)に、

 「はぁ? 知らねえのにおまえ程度のちんけな常識でキモいとか決めるのやめてくんない? いつかその決めつけがおまえを大人になってから苦しめるぞ」

 と原田のぶお先生。

 黒板に「LGBT」と書き、「Lはレズビアン。女性の同性愛者のこと。これはゲイのG。男性の同性愛者のこと。Bはバイセクシャル。男性も女性も好きになれる人。Tは……」

 「トランスジェンダー。心と体の性別が違う人のことですよね?」

 「心の性別って何よ? あえて言えば、社会が割り当てた性別とは別の性別で生きる人」と解説。信頼できる脚本だということがガンガンに伝わってくる。

 「ねっ? 私はG、ゲイ。そして女装もしている。ゲイは性の向き。女装は表現の形」

損してるヤツも見ろ

 名言も続出である。

 「ヤバイおじさん! セクハラしないでくださいねぇ」という野次に対して、壇上から降りて進み、男子生徒の前に行って原田のぶおが言うせりふ。

 「やばいおじさんよりやばい、かなりやばいおじさんなんだよ。下品な言葉叫んでるヤツとはランクが違うんだよ。恋してやろうか、この野郎」

 廊下を走る原田のぶお、「私が走ればこの廊下はパリコレになる!」

 顔で損しているという生徒に「得してるヤツばっか見るな。損してるヤツも見ろ」

 校長の言葉。「私たちが当たり前に設定していた常識は、原田先生からすると非常識なんでしょう。それはただただ私たちにとってのみ都合のいい常識だったのかもしれません」

バイアスは悪じゃない

 説教くさいドラマではない。ぐいぐい惹き込まれて楽しめるエンターテインメント作品だ。5分前に閉まっている校門をショベルカーでぶっ壊すという「こち亀」的な大暴れシーンもある。原田先生が、聖人君子ではなく、ダメな部分もみせる。

 「あんた しばらく人肌に触れてないでしょ? 私 分かるの そういうの」と、決めつけて、長井あゆみ先生(松下奈緒)に言い放つ。生徒の名前を覚えず、「おまえ」呼ばわりする。ろくに話も聞かずに、生徒がつけているマスクを取るように言う。

 ジェンダーバイアスどころか、あらゆるバイアスを使って、ズケズケと、人の気持ちに入り込んでくるキャラクターだ。だが、それが差別的にならないのは、原田のぶおが変わることを恐れてないからだ。バイアス滅びよと視野狭窄に陥ることなく、バイアスがあるのはしょうがない、だけど、変えていこう、そのたびごとに考えていこうという意志がある。

 飛び降りようとする生徒のところにいって、とにかく話し合う。まさか飛び降りないと思われてる生徒に飛び降りるように鼓舞し、人は変われることを示そうとする。コミュニケーションすることで、人が変わることを実現していく。決めつけを持続させず、すぐに変えていく。

 自らも、名前なんて覚えないと言っていたにもかかわらず、最後には覚えた生徒の名前を呼ぶ。「人は、時間さえあれば変われるんだ」ということを生徒に伝えようとしている。それを演じる古田新太の自然なふるまい、キャラクターの強さ。


俺のスカート、どこ行った? 屋上に立ち尽くす生徒を止めるのではなく、逆に飛び降りるように鼓舞する。人は変われることを示そうとする イラスト/たけだあや

出演陣のすごさ

 さらに、取り巻く先生たち。安定の抜けっぷり荒川良々、生活指導役の松下奈緒、「ぽこちんは どうしてるんですか?」の白石麻衣、保健体育の先生役をやらせると日本一の大倉孝二、「今日から俺は!!」でも先生役だったシソンヌのじろう。

 ばっちりの布陣。

 校長先生いとうせいこうが「ダイバーシティ、本当の意味で多種多様であること」と語るのもピッタリ。そして、明智秀一(永瀬廉:King&Prince)、東条正義(道枝駿佑;なにわ男子/関西ジャニーズJr.)、若林優馬(長尾謙杜;なにわ男子/関西ジャニーズJr.)、今泉茜(竹内愛紗)など、27人のフレッシュな2年3組のメンバーもいい。

画がカッコいい

 そして、なにしろ、画がカッコいい。

 オープニング、逃げる痴漢野郎を原田のぶおがジャンプキックするシーン。カット割りでごまかさずに、バッチリ一枚の画としてみせた。それと呼応するラストの生徒ジャンプ・シーン。ここでも、ジャンプする画をスローモーションでしっかりとみせて、飛びながらのピースの絶妙な角度で、「おおおおー!」と感動させた。

 脚本は加藤拓也。『博士の愛した数式』の舞台化、King&Princeの高橋海人、神宮寺勇太、岩橋玄樹のトリプル主演「部活、好きじゃなきゃダメですか?」の脚本などを手がける。音楽は、「トクサツガガガ」「ブラック・スキャンダル」「映画 怪物くん」の井筒昭雄。原田のぶおキャラクター監修は、女装パフォーマーのブルボンヌと、ゲイであり日本テレビ報道局社会部記者でもある白川大介。チーフプロデューサー池田健司、プロデューサー大倉寛子。演出、狩山俊輔・水野格。

 バカバカしくも破天荒でありながら、われわれの今を受け止めた名作ドラマになりそうな予感である。第2話、楽しみだ。

米光一成

ゲーム作家、デジタルハリウッド大学教授。代表作「ぷよぷよ」「はぁって言うゲーム」「はっきよいゲーム」等

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たけだあや

イラスト、粘土。京都府出身。

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