より多くの人に使いやすいカタチを目指すユニバーサルデザイン。その考え方は文字の世界にも広まっており、国内のフォントメーカー各社は「ユニバーサルデザインフォント(UDフォント)」を手掛けています。
書体を変えても、言葉の意味は同じ。ですが、“見え方”が変わると、言葉の在り方はどれくらい変わるものなのでしょうのか。大手フォントメーカー・モリサワに取材し、日本初というユニバーサルデザインの教科書体「UDデジタル教科書体」の開発者・高田氏、営業・盛田氏、瀬良氏に話を伺いました。
アルファベットを手書き風にするメリット
―― UDデジタル教科書体には欧文に特化したものも。これにはどのような特徴がありますか?
高田氏:今まで中学生で初めて習うアルファベットは、どの教科書を見ても丸と棒の組み合わせでデザインされていました。だから3年前にリリースしたUDデジタル教科書体は、この丸と棒の組み合わせの「Ball & Stick体」を採用していました。
―― 丸の右側に短い縦線があったら「a」、長いと「d」、長い縦線が左側についていたら「b」といった感じの書き方ですか。
私は、これは本当は良くないと思っていました。というのも、ロービジョンに関するヒアリングで「aとoを見間違えることがある」「aの丸い部分と2画目の縦線をうまくつけて書くのが難しい」と聞いていて。「bとd」「pとq」は鏡文字に間違えやすい子もいますし、どうにかならないかと。
「UD Digikyo Latin」などUDデジタル教科書体の新欧文(正体・イタリック体・書き学習用欧文)は、2018年、文部科学省から先生方に配布された小学校外国語教材のアルファベット形状に準じて、手書きの要素を取り入れたデザインにしています。
「bとd」「pとq」でも、手の動きに合わせて丸の形状や縦線の出方が少しずつ変わるので、文字同士を区別するための要素が多くなるんです。
それから、手書き風にすると、画数が少なくなるんですよ。例えば、以前、見せていただいた文部科学省のデジタル教材の書き方だと「W」は4画。でも、1画で書きますよね?
―― そうですね、左上からギザギザとひとつなぎに。
小学校英語の指導者養成をしているJ-SHINE(小学校英語指導者認定協議会)の先生方に聞いたんですが、漢字と違って、アルファベットの書き順は自由でいいそうです。
教育現場ならではの「大文字の書き学習向けフォント」
また、「UD Digikyo Writing」という書き学習用に作った欧文書体もあります。初めてアルファベットを学ぶ子どもでも、書き学習しやすいように考慮した欧文書体です。
―― どこが違うのですか?
市販の英語ノートには線が4本引かれていますが、文科省の小学校外国語教材ではペンマンシップ(英習字、運筆のこと)の部分も、この線の間隔が「5:9:5」相当になっています。でも、一般的なノートは「1:1:1」。比率が違うので、現場の先生たちから子どもたちが混乱すると聞きました。
子どもたちは4線にそって書こうとするものなのですが、英語教材の4線比率に合わせて「E」や「H」を書くと、真ん中の横線が上の方に行き過ぎてしまいます。でも、市販のノートでは、逆に線にそった方が文字のバランスが良くなるという。
―― あっちでは「線にそわずに書いた方が良い」、こっちでは「線にそって書いた方が良い」と、ややこしいことになってしまうわけですね。
かといって、まだ英語を知らない子どもに対して「自分で考えて、いい感じに書いて」みたいに指導するわけにもいかないでしょうしねえ……。
ですから、「UD Digikyo Writing」は、線の間隔の比率をなるべく一般的なノートに近づけて「5:6:5」。大文字の書き方を学習するとき、線にそって書けるギリギリの幅で調整しています。
日本の仮名でも、文中に使われる教科書体の拗促音(ようそくおん/小さい「ゃ」「っ」などのこと)は、通常の仮名の70%くらいの大きさ。でも、書写で教えるときは「マスの4分の1の大きさに書くように」と教えたりするんですよね。
“読む書体”と、なぞって学ぶ“書く書体”は違っていても良いと思います。その時々の用途や子どもの成長に合わせて使えるように書体の選択肢があるといいですね。
本企画は全6本の連載記事となっています
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