パワポの行間、初期設定だと見にくいプレゼンに? モリサワに聞く「フォントのユニバーサルデザイン」(4)
読みやすい行間の幅、プロポーショナルの有無によるフォントの選び方などを聞いてみました。
より多くの人に使いやすいカタチを目指すユニバーサルデザイン。その考え方は文字の世界にも広まっており、国内のフォントメーカー各社は「ユニバーサルデザインフォント(UDフォント)」を手掛けています。
書体を変えても、言葉の意味は同じ。ですが、“見え方”が変わると、言葉の在り方はどれくらい変わるものなのでしょうのか。大手フォントメーカー・モリサワに取材し、日本初というユニバーサルデザインの教科書体「UDデジタル教科書体」の開発者・高田氏、営業・盛田氏、瀬良氏に話を伺いました。
遠くからでも見やすいUDフォント、プレゼンで使うときの注意点は?
―― UDフォントを普段の生活で使うとしたら、どんなシーンが考えられますか?
瀬良氏:UDフォントは少し距離があっても、文字サイズが少々小さくても見えやすいので、「伝わりやすさ」が重要な局面で役立つのではないかなと思います。
例えば、プロジェクターの具合が悪く、プレゼン資料の文字がかすれて読みにくくなってしまうような場合、誤解があってはならない重要書類を説明する場合などに有用ではないかと。
ただ、UDフォントを使えば全て解決するといったことはなくて、目的に合った組版も重要。文章を組むとき、注意してほしいことの1つは行間です。
縦書きの場合、読み手の視線は行の頭から下っていき、行末についたところで次の行頭に移ります。行間の幅はこの視線の誘導に大きな役割を持っていて、行長が長く、視線が大きく移動する小説などでは広めになっています。
読みにくいときは行間を開けたり、行長を短くしたりして調整してください。
―― 具体的には、どれくらい行間を開ければいいですか?
セミナーなどで説明するときは、よく「文字の大きさの約50%ほどは開けてほしい」と言っています。文字が10ポイントなら、5ポイントですね。PowerPointの初期設定では20%ほどになっており、そのまま長文を書いたら、文字だらけのまっくろけなスライドになっちゃった……というのはよくある失敗例です。
スペース的に50%開けるのが厳しい場合もあるかと思いますが、読みやすさを意識して、ある程度行間を開ける意識を持つと良いと思います。
UDゴシックや丸ゴシックを使った場合は、それで文字の見た目の大きさや読みやすさが担保されるので、スペースが限られているときは、文字サイズを多少落としてでも行間を確保してもらった方が読みやすくなることが多いです。
ちなみに、「BIZ UD明朝/ゴシック」と、「UDデジタル教科書体」のうち2つの太さの書体は、Windows10標準搭載になっていますし、該当の「BIZ UD明朝/ゴシック」はMacでも無償ダウンロードできます。
等幅、プロポーショナルの使い方
高田氏:「プロポーショナル」の役割についてもお話しましょう。
フォントをデザインするときは、「仮想ボディー」と呼ばれる正方形を想定し、その中に実際に文字を描くスペース(字面)を設けます。和文の場合は通常、この仮想ボディーの幅で送られるので、字面率をどのくらいにしてデザインしていくかは、その書体のコンセプトにもつながる大切な基準になります。
「プロポーショナル」とは、文字形状に合わせて送る幅を変える機能のことです。例えば、平仮名の「り」と「ぷ」、小さい「っ」では文字の持つ横幅が異なるので、送り幅が変わります。反対に、一律して仮想ボディー分だけ文字を送る場合は「等幅」といいます。
瀬良氏:「UDデジタル教科書体」を例に紹介すると、「UDデジタル教科書体 N-R」などは「等幅」。名称末尾のアルファベットが「N『P』-R」のようになるのは「P付」、「N『K』-R」は「K付」といい、それぞれに以下のような違いがあります。
- 等幅:和文も英数字も等幅
- P付:仮名・漢字は等幅、英数字はプロポーショナル
- K付:漢字は等幅、仮名・英数字はプロポーショナル
そもそものデザインとして、和文は正方形に収まるようにできているのですが、欧文は文字に合わせて文字幅を変えることを前提としたつくり。大文字の「W」と小文字の「i」なんて幅が全然違いますよね。ですから、半角(仮想ボディーの半分の幅)送りの等幅の欧文は「読みにくい」「美しくない」といった違和感を覚えるかもしれません。
高田氏:教育関係で本文を組むなら、私は「P付」をオススメします。ただ、他のUDフォントと比べると小ぶりなので、プレゼンなどで大きな画面に写したりすると、仮名ではパラパラと隙間があいているように見えてしまうかも。文字をキュッとまとめて見せたいときは。「K付」の方が良いかもしれません。
―― 欧文が等幅になるタイプの使いどころは?
瀬良氏:身近なところなら「Excelでデータを作ったんだけど途中に半角の文字が入ってしまい、検索に引っ掛からない」といった場合は、等幅の方が便利。プロポーショナルの書体の欧文は半角も全角も同じ形に見えてしまうので、どこを修正したらいいのか分からないんですよ。
私の感覚ですが、同じフォントを使うにしても「和文は等幅のもの、英数字はプロポーショナルが効くもの」と使い分けた方が良いと思っています。いちいち切り替えるのは面倒ですが、Wordの場合、設定を使うと日本語/欧文部分で自動的にフォントが切り替えられます。そうすれば、余計なことを考えずに作業に集中できるんじゃないかな、と。
※日本語、英数字のフォント設定は、「Word 2019」などでは「ホーム>フォント右下のダイアログボックス起動ツール>フォント」から可能。詳細は日本マイクロソフトのサポートページからご確認ください。
(続く→今更ですけど、フォントって何であんなに多いんですか?)
本企画は全6本の連載記事となっています
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