英語になると突然できなくなる“隠れ識字障害”とは モリサワに聞く「フォントのユニバーサルデザイン」(番外編)

読書が大好きな子が英語でつまづいてしまうこともあるとか。

» 2019年06月18日 12時00分 公開
[ねとらぼ]

 より多くの人に使いやすいカタチを目指すユニバーサルデザイン。その考え方は文字の世界にも広まっており、国内のフォントメーカー各社は「ユニバーサルデザインフォント(UDフォント)」を手掛けています。

 本記事は、その中でも日本初というユニバーサルデザインの教科書体「UDデジタル教科書体」(モリサワ)の開発者・高田氏らに取材するインタビュー企画ですが、今回は関連情報として「教育現場における識字障害」を中心に話を伺いました。

識字障害がある人の文章の読み方

―― 第1回で「UDデジタル教科書体」を識字障害のある子どもが利用した事例がありました。そもそも識字障害とは、どのようなものなのでしょうか。

 高田氏:文科省の調査(※)では、発達障害の可能性がある小中学生が全体の6.5%。識字障害を含む学習障害の可能性がある生徒は全体の4.5%という結果が出ています。

※「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について」(2012年)。同調査は担任教員の回答に基づいており、「発達障害」ではなく「発達障害の可能性のある」生徒に関してまとめたものとしている。

 ただ魔法の書体は存在しないので、「この書体さえ使えば、誰でもたちまち読めるようになる」ということはありません。「UDデジタル教科書体」では慶應義塾大学、大阪医科大学LDセンターの協力のもと、述べ240人以上を対象に調査を行い、ロービジョン、識字障害などがある場合でも読みやすいというエビデンスを得ました。ですが、それぞれの書体環境の中で読みやすい書体に変えていただくことは、あくまでも“配慮の第一歩”と考えています。




「UDデジタル教科書体」に関しては、同じ文章でフォントを見比べられるアプリなども使い、エビデンスを得たとのこと

 大阪医科大学LDセンターの奥村智人先生によると、「読む」という作業は単純なようでいて実は複雑で、脳の中で行われている処理は4つのステップに分けられるそうです。

 例えば、「りんご」という文字を読むときは、まず文字を見る。見た文字を音に変換し、その音を言葉や文のまとまりとして認識する。それから、音を自分の語彙(ごい)と結び付けて、意味が分かるといった具合。つまずくポイントは人それぞれで、どこに困難を抱えているかによって、適切な配慮の仕方は変わる、と話されていました。

 例えば、自分がどこを読んでいるのか分からなくなってしまうケースなら、「読んでいるところ以外を隠す」とうまく読めるようになるかもしれません。その他には「文章に色付きのフィルムをかける」「文の区切りにスラッシュを入れる」「読み上げソフトを利用する」など、いろいろな工夫が考えられます。

 ところで、センター試験のニュースを覚えていますか? 「ある受験生が国語の問題文を定規を当てて読んでいて、不正行為に認定された」という。

―― 2019年1月末、ネット上で議論になりましたね。記事に対するコメントを見ると、「国語に定規はいらないのでは?」という声が多く寄せられています。

 「いらない」というのは、きっと知らないから出る言葉だと思います。

 文章に定規を当てるというのは、わりとよく知られている識字障害がある人の文章の読み方。私の周囲では「もしかしたら、その受験生にとっては問題を解くのに必要なものだったのかも」と心配する声があがっていました。注意事項はあるんでしょうが、もしそうだったらかわいそうだなぁと心が痛みました。

読売新聞によると、不正行為とされた根拠は「受験上の注意」に定規の使用禁止が記載されていたこと。該当箇所には「定規(定規の機能を備えた鉛筆等を含む。)、コンパス、電卓、そろばん、グラフ用紙など」と数学関連の補助具が並んでいる。

英語になった途端できなくなる「隠れディスレクシア」



 「隠れディスレクシア(ディスレクシアは識字障害のこと)」などと呼ばれているのですが、識字障害がある人の中には「日本語は普通に読めるけど、英語は読めない」というケースもあって。読書が大好きな子が、英語の勉強になった途端、つまずいてしまうことがあります。

―― どうしてそんなことが起こるのですか?

 例えば、日本語は仮名1つに対して1音ですが、アルファベットは1つの文字にさまざまな音があって、例えば「a」なら、「cat」「day」「case」「car」などでそれぞれ発音が違うんですよ。

 また、漢字は表意文字なので、読み方を知らなくても、字の形から意味が分かることが。でも、アルファベットは表音文字なのでそうはいかず、字のまとまりを正しい語順で読む必要があります。

 日本語でも「りんご」「ごりん」は同じ文字のまとまりですが、意味は違いますよね。英語の場合は、これがもっと複雑なんです。

―― そもそも読むためのルールが違う言語なんですね。

 障害であることが分からないと、周囲が「英語ができないのは努力不足」「もっといっぱい書いて練習しよう」といった対応をとってしまうかもしれません。それで頑張っても、その子に合った学び方じゃないことで、なかなか期待されているようにはできない、という。

 子どもが「自分はダメだ……」と思ってしまう前に、周囲の人に気付いてほしいところです。

―― 日本語の文章が読めるばかりに、“苦手が認めてもらえない”というのはツラいものがありますね……。

 2020年から小学5年生でアルファベットの読み書き学習が始まることもあって、識字障害の研究をされている先生などはとても心配されています。

 私は専門家ではなく、部分的な知識しかないのですが、読み書きの困難さがあるかどうかの判断や、その場合の配慮の仕方などの研究も進んでいるようですね。

(続く→パワポの行間、初期設定だと見にくいプレゼンに?

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2410/15/news110.jpg 「友達には気味悪がられた」 高畑裕太、40日間の“肉体改造”が完全別人! ぷよぷよボディ→腹筋バキバキで自画自賛「人生ハイライトの一枚」
  2. /nl/articles/2410/15/news117.jpg 90歳・田原総一朗、長年同じものを自分で用意し食べ続ける朝食風景を公開 “伝説”“中毒性がある”と評される姿に「謎の安心感と何気なさがたまらなく好き笑」
  3. /nl/articles/2410/15/news074.jpg 「そんなことある?」 バイト先で店長が誤発注→投げ売りされた“まさかの商品”が490万表示の反響
  4. /nl/articles/2410/15/news079.jpg 「ボットン便所を簡易水洗にしたい」→「どれどれ……」 建設会社スタッフが驚がくした“歴史的遺物”に大反響 「相当貴重なもの」
  5. /nl/articles/2410/14/news024.jpg 「おまえさんかい!!」 “キウイ柄”と信じていたタオル→めくると…… “衝撃の正体”が210万表示
  6. /nl/articles/2410/15/news177.jpg 「アイドル復帰に猛反対」→“300基以上の葬式の花”で抗議し人気アイドルがグループ脱退 「もはや集団いじめ」「やりすぎでは」と物議【韓国】
  7. /nl/articles/2410/14/news043.jpg 「これは悲しい」 保育園の芋ほりが中止→“残念すぎる理由”に「そんなことがあるんだ…」と430万表示
  8. /nl/articles/2410/12/news045.jpg 「ワロタw」 “最近のAIの賢さ”が一目で分かる会話が12万「いいね」の人気 「コントだ」「草」
  9. /nl/articles/2410/13/news078.jpg フリーアナウンサー、13歳娘が“超難関国家資格”に合格したことを報告 「ひー! すごすぎます」「おめでとうございます」
  10. /nl/articles/2410/15/news067.jpg 「初一人暮らしを舐めるなよ」 あの“高級アイス”の業務用で夢をかなえた人に「シビれる…憧れる…!」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  2. 東京駅で“あるはずのない落とし物”が見つかり話題に 深まる謎に「未使用なのか」「すげぇ」「意味が分からない」
  3. 「太ももの筋肉が段違い」 “すさまじい完成度”の春麗のコスプレに「ご本人ですか?」と21万いいねの反響
  4. 「数やば」 ハードオフで目撃した“まさかの光景”が124万表示 「初めてみた」「いってみたい」
  5. 授業参観のたびに「かっこいい」と言われた父が10年後…… 「時間止まってる?」驚愕の姿が1100万再生 大バズリしたモデルに話を聞いた
  6. フリーアナウンサー、13歳娘が“超難関国家資格”に合格したことを報告 「ひー! すごすぎます」「おめでとうございます」
  7. 人気日本人TikToker、タイ滞在中に交通事故で意識不明の重体 「サトミを信じてる」家族と友人が詳細や現状を報告
  8. 「諦めてて草」 マクドナルドが「大切なお知らせ」投稿→“あまりの内容”に騒然…… そして予想外の展開に
  9. 元“顔ぽっちゃり”のグラドル、ダイエットは「1番の整形」! 衝撃の“別人級ビフォーアフター”で遂げた「ミラクル変身」
  10. 天皇皇后両陛下、“195センチのタレント”とのショットに注目 そのインパクトに「遠近感バグった」「デカすぎて……」
先月の総合アクセスTOP10
  1. “緑の枝付きどんぐり”をうっかり持ち帰ると、ある日…… とんでもない目にあう前に注意「危ないところだった」
  2. 「しまむら」に行った58歳父→買ってきたTシャツが“まさかのデザイン”で3万いいね! 「同じ年だから気持ちわかる」「欲しい!」
  3. 友人に「100円でもいらない」と酷評されたビーズ作家、再会して言われたのは…… 批判を糧にした作品が「もはや芸術品」と490万再生
  4. 高校3年生で出会った2人が、15年後…… 世界中が感動した姿に「泣いてしまった」「幸せを分けてくださりありがとう」【タイ】
  5. 「ま、まじか!!」 68歳島田紳助、驚きの最新姿 上地雄輔が2ショット公開 「確実に若返ってる」とネット衝撃
  6. 荒れ放題の庭を、3年間ひたすら草刈りし続けたら…… 感動のビフォーアフターに「劇的に変わってる」「素晴らしい」
  7. 食べた桃の種を土に植え、4年育てたら…… 想像を超える成長→果実を大収穫する様子に「感動しました」「素晴らしい記録」
  8. 「天才!」 人気料理研究家による“目玉焼きの作り方”が目からウロコ 今すぐ試したいライフハックに「初めて知りました!」
  9. 「エグいもん売られてた」 ホビーオフに1万1000円で売られていた“まさかの商品”に「めちゃくちゃ欲しい」
  10. 義母「お米を送りました」→思わず二度見な“手紙”に11万いいね 「憧れる」「こういう大人になりたい」と感嘆の声