「色覚検査の攻略本」「本当は効かない色弱治療」はなぜ存在したのか 進学・就職制限を受けてきた「色弱」の歴史とこれから(1/3 ページ)
カラーバリアフリーの取り組みを行う団体・CUDOに話を伺いました。
カラフルな小さい丸で、数字が描かれた絵を見たことはありませんか? これは色覚検査に広く用いられている「石原色覚検査表」の図。学校での色覚検査は2002年から任意化されており、“この図を全く見たことがない若者”も少なからずいるのではないでしょうか。
人間が色を感じるのには、目の網膜にある「錐体」が関わっています。この視細胞は「L」「M」「S」と3種類あるのですが、各錐体の数やはたらきには個人差があり、日本人男性の約5%、女性の約0.2%は、識別しにくい色がある「色弱」だとされています。
かつて日本には色弱者に対する進学・就職制限が厳しい時代がありましたが、現在では「色弱者の多くが、支障なく日常生活を送っている」といわれています。その一方で、学校での検査任意化に伴い「進学・就職するまで色弱であることに気付かない若者が現れている」と問題視する報道も見られ、状況は複雑です。
色弱者を取り巻く状況は一体、どうなっているのか。カラーユニバーサルデザイン機構(CUDO)副理事長・伊賀公一氏に話を伺いました。
本記事はテーマ別に分けた3編構成となります
- 【中編】「赤ペンはむしろ見にくい」「プレゼン本の『良い例』は良くない例」 色弱者に聞く“本当に見やすいデザイン”とは?
- 【後編】一般色覚者にはほぼ分からない“小さくて大きな違い” JIS改訂で「日本社会における色のルール」はどう変わったのか
色弱の“都市伝説”
―― まず「色弱者には、どのように世界が見えているのか」というのは、そうでない人には理解しにくいところがあると思います。個人的に「僕は赤色が見えないから、焼き肉が苦手だ(友人談)」という話を聞いたことはありますが……
伊賀氏(以下略):色弱に関するエピソードの中には、“都市伝説化”されているものがあると思っています。
私自身も色弱ですが、機構の人間などが「焼き肉が苦手」「緑色の猫がいる」という話を書いており、それ以降、類似した話をよく聞くようになりました。意識し過ぎかもしれませんが、私たちの文章が影響していないかと思ったりします。
―― 「誰かの話を読んだり聞いたりして、自分にも似た経験があることに気付く人が現れた」という感じでしょうか
ええ。さまざまな人が「焼き肉が苦手」という話をしていますが、きっと“その話を最初にした人”がいるのだと思います。この手のエピソードは広まるにつれて、“最初の人”が言いたかった趣旨からズレていったように思います。
私などは、他人と一緒に焼き肉をして、網上の肉をあちこちに動かされたりね。焼けたときの見た目は肉の種類によって違いますから、牛、豚、鶏肉をゴチャゴチャに混ぜられたりすると、どれが食べ頃なのか把握しにくくなってしまうよね、ということを言いたかったですね。
ですが、このエピソードは都市伝説のように変な広まり方をして、「色弱だから肉の焼け具合がよく分からない」といわれるケースが出てきました。それで、やる前から苦手意識を抱いてしまって、焼き肉を諦めてしまう色弱者もいるんですよ。
―― 「他の人に肉をアレコレされた場合」という条件が抜けてしまったわけですね
「花見に行くと、桜のピンク色が分からなくて悲しい」という話もよく聞くのですが、“都市伝説化”する前は冗談のようなものだったのではないか、と思っています。色弱であっても、花見は楽しめると思うんですよね。桜の華やかさは分かりますし、暖かくて気持ちがいいし、ドンチャン騒ぎだし。
「○○色が見えない/分からない」とはどういうことか
―― 色の見え方は個人の感覚で、他の人からは捉えがたいもの。「色弱で○○色が見えない/見えにくい」というのはどう理解すればいいのでしょうか
その言い方は曖昧なので、「その色の部分だけ透明や白色に見えるのか」というような疑問が湧いてしまうかもしれませんね。“色の距離”という言葉を使って説明してみましょう。
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