英語になると突然できなくなる“隠れ識字障害”とは モリサワに聞く「フォントのユニバーサルデザイン」(番外編)
読書が大好きな子が英語でつまづいてしまうこともあるとか。
より多くの人に使いやすいカタチを目指すユニバーサルデザイン。その考え方は文字の世界にも広まっており、国内のフォントメーカー各社は「ユニバーサルデザインフォント(UDフォント)」を手掛けています。
本記事は、その中でも日本初というユニバーサルデザインの教科書体「UDデジタル教科書体」(モリサワ)の開発者・高田氏らに取材するインタビュー企画ですが、今回は関連情報として「教育現場における識字障害」を中心に話を伺いました。
識字障害がある人の文章の読み方
―― 第1回で「UDデジタル教科書体」を識字障害のある子どもが利用した事例がありました。そもそも識字障害とは、どのようなものなのでしょうか。
高田氏:文科省の調査(※)では、発達障害の可能性がある小中学生が全体の6.5%。識字障害を含む学習障害の可能性がある生徒は全体の4.5%という結果が出ています。
※「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について」(2012年)。同調査は担任教員の回答に基づいており、「発達障害」ではなく「発達障害の可能性のある」生徒に関してまとめたものとしている。
ただ魔法の書体は存在しないので、「この書体さえ使えば、誰でもたちまち読めるようになる」ということはありません。「UDデジタル教科書体」では慶應義塾大学、大阪医科大学LDセンターの協力のもと、述べ240人以上を対象に調査を行い、ロービジョン、識字障害などがある場合でも読みやすいというエビデンスを得ました。ですが、それぞれの書体環境の中で読みやすい書体に変えていただくことは、あくまでも“配慮の第一歩”と考えています。
大阪医科大学LDセンターの奥村智人先生によると、「読む」という作業は単純なようでいて実は複雑で、脳の中で行われている処理は4つのステップに分けられるそうです。
例えば、「りんご」という文字を読むときは、まず文字を見る。見た文字を音に変換し、その音を言葉や文のまとまりとして認識する。それから、音を自分の語彙(ごい)と結び付けて、意味が分かるといった具合。つまずくポイントは人それぞれで、どこに困難を抱えているかによって、適切な配慮の仕方は変わる、と話されていました。
例えば、自分がどこを読んでいるのか分からなくなってしまうケースなら、「読んでいるところ以外を隠す」とうまく読めるようになるかもしれません。その他には「文章に色付きのフィルムをかける」「文の区切りにスラッシュを入れる」「読み上げソフトを利用する」など、いろいろな工夫が考えられます。
ところで、センター試験のニュースを覚えていますか? 「ある受験生が国語の問題文を定規を当てて読んでいて、不正行為に認定された」という。
―― 2019年1月末、ネット上で議論になりましたね。記事に対するコメントを見ると、「国語に定規はいらないのでは?」という声が多く寄せられています。
「いらない」というのは、きっと知らないから出る言葉だと思います。
文章に定規を当てるというのは、わりとよく知られている識字障害がある人の文章の読み方。私の周囲では「もしかしたら、その受験生にとっては問題を解くのに必要なものだったのかも」と心配する声があがっていました。注意事項はあるんでしょうが、もしそうだったらかわいそうだなぁと心が痛みました。
※読売新聞によると、不正行為とされた根拠は「受験上の注意」に定規の使用禁止が記載されていたこと。該当箇所には「定規(定規の機能を備えた鉛筆等を含む。)、コンパス、電卓、そろばん、グラフ用紙など」と数学関連の補助具が並んでいる。
英語になった途端できなくなる「隠れディスレクシア」
「隠れディスレクシア(ディスレクシアは識字障害のこと)」などと呼ばれているのですが、識字障害がある人の中には「日本語は普通に読めるけど、英語は読めない」というケースもあって。読書が大好きな子が、英語の勉強になった途端、つまずいてしまうことがあります。
―― どうしてそんなことが起こるのですか?
例えば、日本語は仮名1つに対して1音ですが、アルファベットは1つの文字にさまざまな音があって、例えば「a」なら、「cat」「day」「case」「car」などでそれぞれ発音が違うんですよ。
また、漢字は表意文字なので、読み方を知らなくても、字の形から意味が分かることが。でも、アルファベットは表音文字なのでそうはいかず、字のまとまりを正しい語順で読む必要があります。
日本語でも「りんご」「ごりん」は同じ文字のまとまりですが、意味は違いますよね。英語の場合は、これがもっと複雑なんです。
―― そもそも読むためのルールが違う言語なんですね。
障害であることが分からないと、周囲が「英語ができないのは努力不足」「もっといっぱい書いて練習しよう」といった対応をとってしまうかもしれません。それで頑張っても、その子に合った学び方じゃないことで、なかなか期待されているようにはできない、という。
子どもが「自分はダメだ……」と思ってしまう前に、周囲の人に気付いてほしいところです。
―― 日本語の文章が読めるばかりに、“苦手が認めてもらえない”というのはツラいものがありますね……。
2020年から小学5年生でアルファベットの読み書き学習が始まることもあって、識字障害の研究をされている先生などはとても心配されています。
私は専門家ではなく、部分的な知識しかないのですが、読み書きの困難さがあるかどうかの判断や、その場合の配慮の仕方などの研究も進んでいるようですね。
本企画は全6本の連載記事となっています
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