「手作りのねぎとろだよ……」と、通学路で子どもたちに「ねぎとろらしき物体」を配る「ねぎとろおじさん」の漫画がひたすら不条理で怖いです。「どういうことなんだ」と読み進めてしまうような魅力もありますが、ねぎとろが食べられなくなりそうな気色悪さもあるので、閲覧時にはご覚悟を。
主人公の女の子が下校していると、何かを「ぬちっぬちっ」とこねる怪しい男が登場。「いまならまだ温かいから……」と、人肌のねぎとろ(?)を渡してきます。
一応受け取りはしたものの、女の子はこっそり道ばたのごみ捨て場にねぎとろを置いて帰宅。しかし、捨てたはずのブツがなぜかベッドの上に鎮座していることに気付き、恐れおののきます。
異様な事態に大騒ぎしていると、お姉さんが「あんたもねぎとろ集めてんの?」と声をかけてきました。彼女が言うには、「ねぎとろ集め」はひそかなブーム。主人公のクラスでも、一部の男子が熱心に集めていたのです。
奇妙な現象にモヤモヤし、主人公が浮かない顔で歩いていると、またもやねぎとろおじさんが登場。今度は「ねぎとろは私の皮膚をちぎってこねたものだ」と、衝撃的な事実を明かします。やはりあのねぎとろは普通のねぎとろではなく、おじさんの身体から生まれた謎の物体だったのだ……。
そして明くる日、ねぎとろはとうとう災いをもたらしました。たくさん集めていたクラスメイトの権助くんが、大量のねぎとろがからまった状態で死亡したというのです。
彼と同時期に姉がねぎとろを集め始めていたことを思い出し、不吉な予感を覚えた主人公は授業を抜け出し大急ぎで帰宅。恐る恐る姉の部屋のドアノブに手をかけます。
息をのんで開けたドアの先には、信じ難い光景がありました。部屋にはねぎとろがみっちり詰まっていて、おそらくお姉さんも権助くんと同じ目に……。
そして時は流れ、テレビが「ねぎとろを使って200人あまりの児童を殺害した男」の逮捕を報じました。ショックで寝込んでいた主人公はニュースを聞いて安心する一方、帰らぬ人となった姉を思って悲しみます。すると不思議なことに、自分に呼びかける姉の声が……?
しかし、声の方向にいたのはどこからか湧いてきたねぎとろ。不思議なことに、「ぬちっぬちっ」とうごめいて人の形をなし、姉の姿に変わります。元はねぎとろだと分かっていながら、大好きなお姉さんが復活したように見えて、主人公は「もうどこにも行かないでね……」と抱きつくのでした。
泣きじゃくる彼女に、「もうどこにも行かないよ……」と力強い返事が。しかし、さっきまで姉だったはずの“それ”は、いつか見たねぎとろおじさんに姿を変えていたのでした。こうして、何も説明されないまま漫画は閉幕。おじさんはねぎとろを練り固めて作られたねぎとろ人間だったのかもしれませんし、ねぎとろという不定型生命体が擬態して人間社会に潜り込んでいたのかもしれませんし、もしかしたらこの世の全てがねぎとろからできているだけなのかもしれません。
あまりにも不条理な展開と恐ろしい結末で、「理解できないし怖い」「怖くない話かと思ったら怖くて怖い」「何が怖いのか分からない怖さ」と、多くの読者を震え上がらせたこの漫画。もともとは漫画家の長イキアキヒコ(@sinitoma)さんが、2017年にWebメディア「オモコロ」で公開した作品で、同サイトの漫画集『オモコロマガジンぬ』のvol.2にも収録されています。
作品提供:長イキアキヒコ(@sinitoma)さん
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