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おまわりさん、そのパンツ一丁の人は「僕達の大学の先生です」 元・京大生への取材から生まれた漫画「数字であそぼ。」作者インタビュー

濃いキャラばかりなのに、リアルと評判のコメディー作品。

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小学館eコミックストア」などで試し読み、購入できます (C)絹田村子/小学館

 「一度見たものは決して忘れない」ほどの超人的な記憶力を持ちながら、微分積分がさっぱり分からず留年する主人公、パチスロにハマって単位が取れない友人、問題を考え過ぎてパンツ一丁で路上を歩く教授……。

 こんなキャラクターたちが登場する「数字であそぼ。」(月刊flowers/小学館)は、大学数学の世界を描いたコメディー漫画。一見ぶっ飛んだ話にも見えますが、実は元・京大生へのインタビューを行った作品で、ネット上ではリアルだと共感する声も現れています。


京都大学で教授を務めていた数学者・加藤和也氏の大学院生時代のエピソードが下敷きと思われるシーン (C)絹田村子/小学館

 最新第3巻の発売(12月10日刊行)に合わせて、作者である絹田村子先生(@murak0)に加え、“大学数学の経験者”として数学イベントを主催するキグロさん(@kiguro_masanao)もお呼びしてインタビュー。数学が好きな人たちの頭の中って、いったいどうなっているんです?

本記事は前後編の全2本となっています

「数字であそぼ。」本編試し読みなど(小学館コミック)

理系の人間にはリアルに見える“あるある”だらけ?

――― キグロさんは都内で「数学デー」「日曜数学会」を主催。数学好きのあいだでの「数字であそぼ。」の評判はいかがです?

キグロ:女性向けレーベルなので、周りには女性読者が多いのですが、好評ですよ。理系の人間から見ると“大学生活のあるある”が詰まった作品ですね。

――― 主人公・横辺は微分積分でつまづいて留年したり、線形代数が分からなくて犬にグチをこぼしたりと学業面でなかなか苦労していますが……


第2巻冒頭でも大学数学につまづいている横辺 (C)絹田村子/小学館

キグロ:物理学科や数学科は、進級が難しいことで有名なんですよ。難し過ぎて挫折してしまったり、そこまでいかなくてもテストで点がとれなかったり。授業参加者の半分は上級生、なんてこともあります。

――― 第1話に「椅子でグルグルしながら、アルキメデス螺旋(らせん)を考えている先生」がちょろっと登場しますが、こういうのはどうですか?


(C)絹田村子/小学館

 キグロ:これはやりますよね(笑)。

――― “あるある”というか“やるやる”ですか!

キグロ:頭がフル回転してるときって、体もじっとしていられないんですよ。椅子でグルグルしながら考えるのが好きな理系の人は多いと思います。

絹田:ずっと歩き回ったりもしますよね。少し体を動かした方が考えやすいのかなあ。

キグロ:教授などの登場人物に関しては「いるよね、こういう人」という感じですね。

公式は覚えるもの? 自分で考えるもの?

――― 数学ができる方の感覚を伺ってみたいのですが、キグロさんはいつから数学好きに?

キグロ:大学の受験勉強をしているときですね。

 あるとき、問題を解いていたら公式をど忘れしてしまったのですが、チョチョッと書いてみたら公式が導けて。「自分で作れるんだ」と気付いてから面白くなりました。

絹田:大学の先生なんかも「この問題は公式を知らないけど、時間さえあれば絶対に解ける」と言ったりしますよね。覚えてなくても、考えれば作れるから大丈夫って。

――― 「数学が苦手だけど頑張って公式を覚えた」という人はけっこう多いと思うんですけどね。三角関数だと「咲いたコスモス コスモス咲いた」とか

 キグロ:数学得意な人は「公式は作れるもの」という認識で、意外と覚えていないものです。より正確に言うと「公式をその場で作っているのか、単に覚えているのだけなのか、本人でもよく分からない」という感じだと思います。

 ただ、公式を覚えていれば数学を理解している“ように見える”というのはあるかもしれません。入試問題を解くときはスピードも必要なので、私も公式を暗記していましたし。

 でも、実際には会ったことないですよ(笑)、横辺のように本当に暗記だけで数学やっている人。

――― 前回も同じ話がでてきましたが、やっぱりそこは“フィクション”な要素なんですね(笑)

“数学ができる人たち”が考えること

――― “数学が得意な人の特徴”ってなんでしょうか?

キグロ:「規則性を探すのが好き」というのはあると思います。これを少し変えたらどうなるかなあ、と考えてみたり。

絹田:それはよくあるみたいですね。2次関数を教わった段階で、3次関数、4次関数はどうなるのかなあと考えたり。普通の人はそっちには頭が回らないと思うんですが(笑)。

 他に聞いた話だと「『1+2+3+……100』の答えを、三角形の面積の公式を応用すると求められることに気付いた」とか。点を等間隔に並べた図に書くと、確かにそうなるんですよね。面積の問題ではないのだけど。



キグロ:そういうつなげ方ができると、数学ができるようになると思います。

 そういえば、私が主催している「数学デー」というイベントではこのあいだ、“新しい数字の体系”を考えていました。

――― どういうことです?

キグロ:「1000−1」は999、「100−1」は99、「10−1」は9だけど、「0−1」は−1。ずっと、9で続いているのだから「0−1」も「なんたら9」にしたいよね、というのが始まりで、取りあえず「¬9」と書けることにしていろいろな人たちで考えていきました。

 そうしたら、なぜか「『0の1つ前を表す数字』があれば、9がなくても計算できる」という結果になりまして。分かりにくいかもしれませんが、仮に“10の1つ前を表す数字(9)の代わりに、0の1つ前を表す数字がある世界”が存在したとしても、その世界ではちゃんと四則演算っぽいことができるぞ、と。





――― もしかして今「もしも変わった数字体系の異世界があったら……」みたいな話してます?

絹田:法則性をつかむの上手ですよねえ、数学好きな人って。

元・京大数学科の人たちの今

――― 一般に「数学好き=賢いけど変わった人」というイメージがあると思うのですが、絹田さんは取材のなかでどう感じましたか?

絹田:私は「ちゃんと働いていて偉いなあ」って思いますけどね(笑)。

 数学を志す学生さんは「就職のことはあまり考えていない。好きな数学を続けて研究者になりたい」という人が多いみたいで、横辺のように「いつかはノーベル賞!」と思って入学する人もいるそうです。……でも、多くの人は結局「ノーベル賞を取るのは自分ではなかった」と諦めて就職するという。

――― 学問が好きな人にとって、大学は良くも悪くも「夢が現実になる場所」ですからね……

絹田:数学は実学っぽくない分野ですが、今はそれが必要とされる仕事もあるみたいで、金融業界などに行く人が多いようです。ただそういう人達からは「大学でやったことの方が難しい」「あの頃が一番考えていた」と聞きますね。

 インタビューした元・京大生の中には就職後、勉強会という形で数学を続けている人もいますよ。

――― 卒業後も、数学との関わりは切れていないんですね

絹田:数学のゼミは基本的に「自分が学んだことを他人に説明する」というやり方らしくて、それぞれ担当部分を決めて発表しているそうです。そうやって複数人でやっていると話し合うこともできるし、ドツボにハマらないメリットがあるのかなあ。

――― 数学を学ぶときは紙とペンだけでなく、「数字であそぼ。」のように一緒に学ぶ友達もいた方が良いのかもしれませんね。悪友のように見えてしまうこともありますが……

(了)

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