受け取ったルームキーに詩が刻み込まれていたら……。しかも、刻み込まれている詩は、中原中也賞・現代詩花椿賞などを受けている詩人の最果タヒ(さいはて・たひ)さんによるものだったら……?
「さみしさと呼んではいけない喪失は、道の石ころのようにころがって、もう今では美しかった。108号室へと行く道で。」
このルームキーは、京都にあるHOTEL SHE,KYOTOに期間限定でオープンする「詩のホテル」のもの。部屋には、あまりに身近すぎて普段意識することの少ない「ことば」が散りばめられており、どこに、どんな「ことば」があるのかは泊まってみてのお楽しみなんだとか。最果タヒさんが、たくさんの詩を書き下ろしました。
2019年3月に「最果てにある旅のオアシス」をテーマにリニューアルをした同ホテル。最果てつながりで最果タヒさんに声をかけたそうです。最果タヒさんが同ホテルに宛てたコメントを紹介します。
帰るということが、大人になるたびに難しくなる。家の鍵を持ったって、帰り道を覚えたって、鍵も持たなかった、道もわからなかった子どもの頃よりずっと、「帰る」ことがわからない。自分で選んだ家具や家電で部屋を作っていったところで、どうしてか、そこに収まるだけが「帰る」ではないように思う。自分が、ちょうどよく作った場所が、私の本当の「ちょうどいい場所」ではないのかもしれないと思うたび、すこし、遠出がしたくなります。
詩のホテルを、HOTEL SHE,さん、佐々木俊さんとともに作ることになりました。佐々木さんが最初にツイッターにあげてくれた「詩のホテル」というアイデアが、こんなにも早く実現するとは夢のようです!詩は、その人の暮らしや、息遣いに溶け込んでいくような、その人自身の言葉として溢れてきたようなものであってほしいと思います。それは、もしかしたらこうした「部屋」としての詩のあり方に、つながっていくのかもしれません。
自分の部屋にいても、ちゃんと帰れていない気がする。そこから逃れて、ホテルの部屋に飛び込んでみる。そこが本当の帰るべき場所だった、なんてことは思えないけれど、でも、「今はどこにも帰る必要がないのだ」ということだけは確かに思うことができる。帰れていなくても、「ちょうどいい場所」を作り出せなくても、わたしはずっとずっと、自分の暮らしをそれなりにやっていたんじゃないかなあ。生きてはいるのだって、そんな風にそんなふうに思うとき、天井に見える言葉を書いています。
ぜひ。
デザインを手掛けるのは、これまで最果タヒさんの書籍デザインを手掛けてきた佐々木俊さん。詩のホテルは、ホテルプロデューサー・龍崎翔子さん、HOTEL SHE,のメンバー、詩人・最果タヒさん、デザイナー・佐々木俊さんの共同プロデュースで実現しました。2019年12月9日〜2020年3月8日まで、3室限定です。
(高橋ホイコ)
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