大山千広選手――2015年にボートレーサーとしてデビューを飾った彼女は2019年、女子のトップ選手を決めるレディースチャンピオンでG1初優勝を飾り、SGオールスターのファン投票は4位、獲得賞金は5000万円を突破し賞金女王に王手をかけるなど、人気と実力を併せ持つ才色兼備の女子レーサーとして注目を集めています。
近年、ボートレース界はさまざまな施策により売り上げを順調に伸ばしていますが、その原動力に女子レーサーの魅力があります。そんな中、女子最高峰のレースを史上最年少で制し、男子レーサー顔負けの強さをみせる大山選手。レースを離れれば、「ショッピングが一番リフレッシュできる」と笑いながら話すボートレース界のニューヒロインはどんな人物なのか、話を聞いてみました。
―― 2019年はSG初出場や8月のレディースチャンピオンで史上最年少での初出場初優勝を果たすなどめざましい活躍です。2019年を振り返ってみてどんな年でしたか?
大山 これまでと比べて出られるレースがガラリと変わりました。SG(編注:“Special Grade”。ボートレースの格付けで、最高峰のクラスに位置するレースのこと)というこれまで出られなかった大きな舞台に出られて、トップレベルとの実力差がはっきりと分かり、自分の成長につながった年でしたね。
―― 躍進の年になりましたが、何か環境などの変化があったのですか?
大山 いえ。今年何か変化があったというよりは、今まで積み重ねたものが華開いた感じです。2018年にA1級(全レーサーの20%ほどとも言われる最上級の階級)に上がれたから今年があったりするので。
―― はた目にはいいことばかりに見えますが、ご自身の中でつらかったと感じたことはありますか?
大山 つらかったことはありませんが、トップレベルとの力の差を強く感じました。いつもテレビ越しで見ていて「すごい!」と思っていた選手たちと一緒のレースで走るのは刺激がまるで違って、自分にできていないことがたくさんあるなと。
―― 大山選手が考えるボートレースの魅力を教えてください。
大山 女子と男子が同じレースに出走して競うスポーツは他にないことですね。女子は体重差がありますが、ハンディなしで男性選手に勝てるのは魅力的で、夢があります。
とはいえ、ハンディがあっても破れない壁があります。やっぱり男性選手の方がレベルが高くて、動体視力や筋力、体幹やハンドルを切るいきおいなどどうしても劣る部分がありますから。
―― 逆に女性選手が優れている部分はありますか?
大山 SGのようなレベルになると男性もギリギリまで挑戦するのでそこまで差はないですが、一般戦や女子だけのレースでは最後まで諦めず貪欲に挑戦しているなと思います。そうでないと男性選手との差は埋まらないということもありますけど。
―― 自分の中で成長を感じる部分はありますか?
大山 デビュー当時と今のレースを見比べたらきっと差があるんでしょうけど、毎日少しずつ成長してきた方だと思っていて、肌で成長を感じることがあまりないんです。少しずつ上のグレードのレースに出られるようになってきて、成長というよりは、課題ばかりがどんどん見えている状態です。それもまた楽しいのですけど。
―― 賞金女王に王手をかけているのに自己評価が低いような。
大山 そう言われることもありますが、大きな大会に来ると、本当に実力差を感じるんです。後、私は、男性選手と一緒に走って勝つのが本当にカッコイイことだと考えていて、女子の中でトップになることはもちろん素晴らしいことですが、せっかく男性選手と一緒に走れる競技なのだからそこで活躍したい気持ちが強すぎて。だから、今年頑張ったなとは思いますが、自分が評価できるようなものではないです。
―― レディースチャンピオンを取ったのはまぐれではないでしょう。
大山 レディースチャンピオンが取れたから大きな賞金が乗って今の結果があるのですが、あれが取れたのはたまたまです。あのタイミングでいいエンジンが引けて、いい流れが来たので。もう1回取ればそれは実力だろうと思いますけど。
でも、今年これだけの賞金を稼いでレディースチャンピオンも優勝できたのは本当によいタイミングでした。その結果がほしかったわけではないですが、早い段階でそういう経験ができたのは運なのかもしれませんね。
―― SG初出場は目立つトピックでしたが、運を手繰り寄せる力は何に由来しているのでしょう。
大山 運を手繰り寄せられているかは分かりませんが、ボートはすごく楽しくて、多分他の人よりはボートが絶対好きで楽しんでやれているとは思います。結果が出るのも楽しいですが、単純にボートに乗ることが楽しいです。
―― これはもう至るところで聞かれると思いますが、大山選手のお母さんは2018年に31年間の現役生活にピリオドを打った大山博美さんで、ボート界初の母娘レーサーとしても注目を集めました。あらためて、母のすごさはどのようなところだと感じますか?
大山 母が全盛期だった頃は私もまだ幼くぼんやりとしか覚えていなくて、私が選手になった頃には身体も悪くしていたのですが、それでも選手として30年走ったのは本当に尊敬します。自分は選手としてはまだ4年半のキャリアで、今は楽しいだけで走れていますが、30年走れるかといわれたら正直走れないだろうと思うので。
―― ところで、大山選手がレースに向き合うときのポリシーなどはありますか?
大山 あまり周りとの比較はしないようにしています。この人、あるいはこのレースで負けたくないとか、そういう負けず嫌いなところが自分にはあまりないんです。いつか達成したい目標と自分との勝負という感じ。周りやファンの方にすごく応援していただいているのはすごく感じますが、それがプレッシャーになることもないですね。
―― 目標という言葉が出てきましたが――。
大山 女子でSG優勝を果たした選手はいないので、いつか優勝したいとすごく思っています。それができたらどれだけかっこいいんだろうという夢に近い状態ですけど。
ボートレースが始まって67年、誰も達成されたことがないですし、もしかしたらこれから先も誰も達成できないかもしれない。女子でそれを達成するのは本当に大変なこと。今のペースで成長していたら(SGの優勝に)間に合わないですから。
―― ものすごくストイックな印象を受けますが、そうした考え方につながった言葉はありますか?
大山 「心が変われば行動が変わる 行動が変われば習慣が変わる 習慣が変われば人格が変わる 人格が変われば運命が変わる」という言葉をすごく大事にしています。
―― プラグマティストの第一人者として知られる米国の哲学者ウィリアム・ジェームズの言葉でしょうか。
大山 そうだと思います。学生の頃はずっと部活で陸上(7種)をしていたんですが、そのころに聞いたこのフレーズはとても印象的でした。気持ちを変えたからといっていきなり運命が変わることはなくて、行動、習慣、人格とステップを踏んで変えていく必要があるという考え方にはとても共感できます。
後は、「人よりいい結果を出したかったら、人よりたくさん努力しないといけない」ということ。私、元々運動神経が悪かったんですが、この姿勢も学生の頃に教えていただいて、選手になってもそれが当たり前だと思っていて今につながっています。
―― 最後に賞金女王に向けての意気込み、ファンに向けてのメッセージをお願いします。
大山 男性ファンが多い世界ですが、最近は女性ファンが増えてきてくれて、若い女性の方が私たちのことを応援してくれていると思うと本当にうれしいです。女子と男子が一緒に走っている姿を見てワクワクしてもらえたり、刺激になったり、そういう存在に私がなっていけたらと思っています。
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