こんにちは。今日はちょっと海外ドラマの話をさせていただきます。
先日あらためて「アメリカを荒らす者たち」のシーズン1を見直したんですけど、やっぱりこれめちゃくちゃいいですよ。知ってますか? アメリカン・ヴァンダル。Netflixオリジナル。
個人的には、Netflixって、単純に映画とかドラマとか観るだけなら他の配信サービスと遜色ないような気がするんですが、群を抜いて人気を誇っているのは、おそらくオリジナル作品の充実が要因の1つだと思います。
「マリッジ・ストーリー」とか、「アイリッシュマン」とか、近年は映画でも猛威を振るっているNetflixオリジナル作品ですが、今回はドラマシリーズから紹介させていただきたい。
「アメリカを荒らす者たち」というタイトルだけ聞くと、骨太な社会派サスペンスなんかを想像してしまいますが、本作は“骨太”というより“極太”といったほうが正しいような内容。その意味は、これから紹介するあらすじを読めばわかります。
平和な学園を襲った大事件――27本のペニスが私たちの偏見を問いただす
舞台はアメリカ・カリフォルニア州に位置する学校、ハノーバー高校。特に何の変哲もない、ごくごく平凡な高校です。そんな平和な学園で、学園生活を揺るがす、とんでもない事件が発生してしまいます。その内容とは……
教職員の車27台がペニスの落書きをされてしまうというものです……。大変ですね……。
教職員車両27台ペニス落書き事件と聞くと笑ってしまいますが、実際問題かなりの大事です。イタズラの枠を超えて普通に犯罪。何百万って賠償金が必要になる、れっきとした大事件です。
当然、学校による犯人捜しが行われ、すぐに容疑者が見つかります。学校イチの問題児、ディラン・マクスウェルです。
なぜこいつが疑われたかといえば、学校イチの問題児であり、学校イチのペニス好きだから。彼は最低でも1日に1回、学校のいたるところにペニスの落書きをするというふざけた習性があり、教員たちを悩ませていました。
「絶対こいつだろ」
学校中の誰もがそう思いました。しかもペニス癖に加えて、彼の犯行を裏付ける決定的な証拠があったのです。目撃者アレックスの存在です。
ディランが落書きをしている姿をその目で見たと言うアレックス。目撃者の登場により、学園中でディランへの批判が始まります。
「見られてるなら完全にあいつじゃん」「ふしだらなペニス男。制裁を受けるべきだわ……」
しかし、ディラン本人は言うのです。
「俺はやってない」
当然、誰も信じません。ですが、ここで本作の主人公であるピーター・マルドナードが立ち上がります。
放送研究会に所属するピーターは、友人のサム・エクランドと共に調査に乗り出します。実は本作は、彼らが撮影した調査記録やインタビューという形で語られる、フェイクドキュメンタリーなんです。
学園を舞台に、ペニス落書き事件の裏に隠された大きな闇が、ドキュメンタリー形式で徐々に明らかになっていく本作。一見笑ってしまうようなあらすじですが、構成そのものは本格ミステリーのそれ。謎が謎を呼ぶ展開に、思わずイッキ見してしまうこと請け合いでしょう。
ざっとあらすじを紹介しましたが、お察しの通り基本的には笑って楽しむ作品。しかし、現代を生きるわれわれにグサッと刺さるシリアスな社会性もはらんでいるのです。
「教師の車にペニスを描くのはどんな人物なのか考えよう」「見た目は? つるむ仲間は? 食堂ではどこに座る? 成績はどれくらい?」
第1話の序盤に主人公からこんな問いかけがあります。教師の車にペニスを描くのはどんな人物か想像してみて、と。
SNS全盛の現代を生きる作中の高校生たちは、私たちと同じように、独断と偏見で他者を判断しています。それも、ほとんど無意識に。
もし、誰もが考える犯人像にぴたりと合致する人物――ペニス大好き落書き男――が身近にいたとき、あなたは彼を疑わずにいられるでしょうか。
まあ偏見といっても実際こいつの場合は疑われて当然なんですが……。
シニカルなメッセージはそれだけではありません。
全校生徒から犯人と断言されてしまったディランは、果たして本当に犯人なのか? それとも冤罪なのか? 事件の真相へと近づくにつれて、主人公ピーターはあらゆる人間の秘密を握ってしまいます。
人間の秘密を暴くという、名のない罪。
「真実を伝えるため」と、あらゆる人間の秘密を記録として公開していくピーター。じゃあ、その罪を裁くのは一体だれ? 偉そうに人を判断して、神様にでもなったつもり? そもそも、主人公が犯人ではない証拠だってどこにも無いじゃない……。
げらげらと鑑賞しながらも、ふっと笑えない瞬間が訪れるのが本作の最大の魅力といえるでしょう。
容姿や言動だけで人間を判断してしまう危うさ、知らず知らず“真実”に溺れる弱さを、何よりも伝えてくれるドラマシリーズ「アメリカを荒らす者たち」。興味を持っていただけたら是非、Netflixでご鑑賞いただきたい。
尺も決して長すぎず、1日で制覇できるボリュームになっていますので、不要不急の外出を避け、自宅でペニス落書き事件の犯人を一緒に追ってみるのもいいのではないでしょうか。
<城戸>
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