COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の感染拡大防止のため、現在さまざまな施設が休業を余儀なくされています。ライブハウス、劇場、映画館、書店など、文化を発信する場も、現在は施設を閉め、売り上げが一切なくなったというところも少なくありません。
十分な休業補償がない状況での休業は、存続の危機を意味します。施設がなくなれば、市民が文化に出会う機会は損なわれ、文化に携わる人たちの生活にも多大な支障が出るでしょう。
現在、事業者への休業補償に関しては助成金の拡充などの動きがありますが、文化施設の状況に照らせば額やスピードなどが追い付いていない状況です。クラウドファンディングなども盛んに実施されていますが、限界があります。4月28日現在の状況をまとめました。
今使える助成金
文化施設への休業補償問題を確認するうえで、まず 「SaveOurSpace」について紹介する必要があります。
これはライブハウス関係者らを中心にして結成された、文化施設閉鎖に伴う補償を国及び地方公共団体に求める運動です。3月27日から30日にかけて行われたSaveOurSpaceの署名運動は30万筆を集め、東京都はこの動きを受けて文化施設への休業助成金(東京都感染拡大防止協力金)を創設しました。
この制度は、休業要請に応じて営業をやめた施設・店舗などに対して協力金を出すものです。休業する事業所が1カ所の場合は50万円、2事業所以上の場合は100万円が支給されます。ライブハウス、映画館、劇場、美術館、水族館などが対象に含まれています。 東京都の方針を受け、地方自治体でも類似の給付金を設ける動きが出ています。
また経済産業省は、売り上げが前年に比べて半分以下になった中小企業及びフリーランスなどの個人事業主に対し、法人は最大200万円、個人事業者は最大100万円を給付する「持続化給付金」を設けています。よって東京都で運営困難になった文化施設は、最大300万円の給付を受けられます。
従業員の雇用に関しては、雇用調整助成金を利用することができます。これは4月1日から6月30日までの休業について、従業員の賃金を最大90%助成するものです。雇用調整助成金は従来から利用されてきた制度ですが、新型コロナウイルス感染拡大に伴って拡充されており、非正規雇用労働者や新卒採用者も対象になるなど、運用において特別措置が採られています。
ライブハウス支援とSaveOurLife
しかしながら、これらの制度は不十分です。
まず、金額が足りません。都内のスペースを借りて運営されている文化施設の場合、家賃だけで300万円を超えることはめずらしくありません。現時点で非常事態宣言後に営業が再開できる保証もなく、一度300万円が支払われたとしても、存続の補償としては不十分です。
さらに、これらの制度は支給までに時間を要すること、継続的支援でないことが問題です。今発生している生活上の危機に対応するには、迅速かつ継続的な資金援助が必要になります。
現在SaveOurSpaceは、新たに「日本に住むあらゆる人々の職を守り、継続的な助成を国や地方公共団体に求める」ことを掲げ、「SaveOurLife」という運動を立ち上げました。こちらは文化施設に限定せず、「あらゆる人の仕事と生活を守る継続的な支援」を求めて、現在署名運動などを実施しています。
クラウドファンディングの状況
ライブハウス
ライブハウス支援として、約70組のミュージシャンが提供する楽曲データを購入することでライブハウスを支援できる「MUSIC UNITES AGAINST COVID-19」というプロジェクトがあります。支援するライブハウスは支援者が選択可能です。
スチャダラパー、東京事変、向井秀徳アコースティック&エレクトリック、石野卓球、THE BLUE HERBなどさまざまなアーティストが音源を提供しており、払う金額は500円、1000円、2000円、5000円、1万円から選ぶことが可能です。購入した音源は、6月末まで再生できます。
映画館
映画館も休業要請を受け、その多くが閉館しています。休業によって特に大きな打撃をこうむったミニシアターを救済するため、クラウドファンディング「ミニシアター・エイド基金」が発足しました。
ミニシアター・エイドはクラウドファンディングで集まった資金のうち手数料と事務局運営費を差し引いた金額を、全国のミニシアターに分配するプロジェクトです。4月13日に発足し、15日には目標金額の1億円に到達、4月28日現在の支援額は2億円を超えています。賛同人として、是枝裕和さんや役所広司さんなど、映画監督、俳優、プロデューサーら映画関係者が支持を表明しています。
リターンには、今後ミニシアターで利用できるチケットやトークイベントへの招待、映画のストリーミング再生など支援金額に応じたサービスが受けられる「未来チケットコース」(3000円〜100万円)と、出資のみ行ってリターンを求めない「思いっきり応援コース」(3000円〜500万円)があります。
また、渋谷や吉祥寺などに展開するミニシアター「アップリンク」は、アップリンクが配給する映画60本が3か月間見放題になるサービス「アップリンク・クラウド」を展開しています。こちらは2980円からで、寄付を上乗せしたコース(5000円、1万円)もあります。
書店
書店については、例えば東京都の休業要請を参照すると、新刊書店は対象となっているものの、古書店は休業対象であるなど、対応が分かれています。しかしながら多くの人が外出を控えている現在、開店していても書店の客足は伸び悩み、経営上の困難に直面していることは間違いありません。個人で運営している書店には、オンラインショップを開設する動きも出ています。
民間の基金として、ミニシアター・エイド基金に影響を受けたブックストア・エイド基金が創設されました。現在は参加書店・賛同人を募集しており、クラウドファンディングは4月30日から開始されます。最果タヒさん、樋口恭介さんなどが賛同人としてコメントを寄せています。
劇場
劇場も、東京都をはじめ多くの自治体において休業要請対象に含まれています。要請を受けて休業すると協力金が得られる自治体もありますが、こちらも対応にはばらつきがあります。
ミュージカルや演劇などの舞台芸術に携わる個人や団体に資金提供するためのプロジェクト「舞台芸術を未来に繋ぐ基金」が立ち上がっています。発起人はconSept合同会社と杉本事務所です。集めた資金の助成対象は、3年以上の活動歴、平均年2公演への参加、中止あるいは延期になった公演があることなど、いくつかの条件が課されます。
支援は3000円から可能で、リターンはありません。
クラウドファンディングの悩ましさ
以上のように、文化施設への公的支援が追いついていない現状に対し、クラウドファンディングで当面の費用を賄う傾向が強くなっています。
しかしSaveOurSpaceがライブハウスの救済に関して救済対象になる/ならないの格差が生じることを懸念している通り、クラウドファンディングの乱立は「あらゆる施設の経済的救済」とはやや異なる方向性を持つ状況です。支援者側にとっても支援に使える金額は限られている以上、寄付の対象は取捨選択され、人気や知名度、地域などの偏差によって「助かる」か「助からない」かが決定されてしまいます。
また、休業要請に応じた結果として損失が生じている以上、損失はまず政府によって補償されるべきであって、民間の資金に頼りすぎる状況はあまり健全であるとは言えません。
当面の無収入期間をしのぐためのクラウドファンディングも重要ですが、同時並行に公的な継続的支援を要望し、より多くの文化施設が存続できるよう求めていく必要があります。
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