4月17日から順次、「名探偵コナン」劇場版第1作〜第10作がさまざまなプラットフォームで無料配信されています。2日間ずつ交代での無料配信で、29日〜30日に配信されているのは第7作「迷宮の十字路(クロスロード)」(2003年公開)です。
コナンファンの赤いシャムネコさんに、同作のオススメポイントを極力ネタバレなしで聞きました。
ラブとミステリが交差する「十字路」
みんな大好き「迷宮の十字路」。当時リアルタイムで劇場鑑賞したときの盛り上がりがすごく、思い出の中でナンバー1の作品です。
これまでのハリウッド路線というべきか、派手を重視していた路線から一転、本作は古の都・京都を舞台にしたラブコメ×ミステリー。劇場版で初めてフィーチャーされた平次とその幼なじみ和葉、そしておなじみ新一と蘭の2組の恋愛が中核となっています。これまでにないしっとりとした雰囲気で、予告編を見て「新しいな」と思ったのを覚えています。
そんな本作は、「1人の犯人と向き合う」探偵ものとしてのコナン本来の面白さを思い出させてくれる作品でもあります。なんといっても犯人の存在感! いきなりアクロバティックな犯行シーンから始まり、立て続けに5人の男たちが殺されます。開幕の一連のシークエンスで、「この犯人……強いぞ!」と視聴者に悟らせてくるつくり。弓矢と日本刀を使いこなし、翁の面をかぶるというそのいでたちも、大変印象に残ります。原作含め、コナンという作品全体を通しても矢が凶器なのは珍しく、テンションが上がりますよね。
殺された男たちの素性を調べるうちに、窃盗団「源氏蛍」をめぐる事件だということが明らかになり、舞台は京都へ。秘仏の盗難事件の捜査依頼を受けて京都に向かっていたコナンたち一行も巻き込まれていきます。平次と合流し事件の捜査を行うわけですが、その最中なぜか犯人の襲撃に遭います。
平次&コナンVS犯人のバイクチェイスシーンは、序盤のテンションが上がるポイント。やはり犯人は人間離れした身体能力やドライビングテクを見せつけてきて「強い……」となりますね。本作から本格的に導入されたCGも、当時は新しい印象がありました。
この鞍馬山中での追走劇もそうなのですが、本作は全体的に京都の情景を実在の名所を交えて映し出していくので、トラベルミステリのような楽しさがあります。本作に描かれた春の京都はとても美しい! メインの舞台となる鞍馬はもちろん、鴨川の昼と夜の姿や、先斗町の雰囲気、六角堂や戻橋といった名所がふんだんに登場します。本作を見たら「そうだ、京都、行こう」と思いたくなる映画に仕上がっていますし、実際“聖地巡礼”したコナンファンも多いのではないでしょうか。
さて、ミステリ的なポイントでいうと、タイトルにある「十字路(クロスロード)」が、暗号の謎解きにも、アクションのキーにも、そして恋愛にも絡んでいるのが改めて見るとうまさを感じます。
正直、登場する暗号は「人生の終わりに残した暗号がこれでいいのか!?」と聞きたくなるようなもので、半ばリアル脱出ゲームの小謎という雰囲気がありますが、それにツッコミを入れるのは野暮。コナンの暗号ってけっこう常にそういうところがある。
犯人特定もやや特定のジャンルの知識問題感がありますが、一発で理解できるわかりやすさは美点でしょう。ただ、メインの殺人のトリック部分は今見るとさすがに古さは感じます。終盤で犯人がインターネットのすばらしさを賛美し始めるあたりは、17年たった今となっては迷シーン。当時を思えば、千年の都・京都という「伝統」の舞台で、「最新」のテクノロジーを使ってくる犯人という対比の意図があったのでしょう。
コナン映画のクライマックスは、「コナンVS犯人」というよりは「コナンVS爆発」や「コナンVS建造物」になることが多いですが、本作は珍しく最後まで平次とコナンが犯人と戦いを続けます。おなじみの爆破シーンこそ存在しませんが、クライマックスの対決では“炎と桜”という演出によって爆破がなくても派手で美しい絵になっていますね。コナン映画の中でも稀有(けう)な、和を生かした演出です。貴船神社をモチーフにしたと思われる映画のポスターも、このクライマックスの雰囲気を反映していて、とても印象的なものでした。
本作はファンの間で人気が高く、人気投票企画では上位常連になっています。それは本作がキャラクター映画としての魅力にあふれているからでしょう。平次と和葉のファンが見逃せないのはもちろんですが、それと同じくらい、新一と蘭のカップルのファンにも響く作品。本作のキャッチコピーは「私たち、やっと逢えたんだね…」ですが、このせりふに平次和葉、新一蘭がそれぞれ重なり合っていく構図が美しいです。終盤の平次と新一それぞれの活躍は、何度見ても色あせません。
余談ですが、この映画公開当時にサンデーに連載されていたのが、工藤新一と平次が大活躍し、シリーズの中でも特に重要なエピソードとなる「黒の組織と真っ向勝負 満月の夜の二元ミステリー」。原作、映画ともに「新一が登場するの!?」という驚きで、大変盛り上がっていた記憶があります。
また、特筆すべきはエンディングの美しさ。倉木麻衣の「Time after time〜花舞う街で〜」(それも映画に合わせてイントロが変わったバージョン!)にあわせて、京都の四季が実写で流れていきます。撮りたくなる素材が山ほどあったんだろうなというか、作中には一切登場しない大文字焼きだったり紅葉だったり雪景色だったり伏見稲荷だったりが映し出され、エンディングでさらに「京都に行きたいな……」という気持ちが高まります。京都という舞台の絵の力が終始強い映画だと、しみじみ思いますね。
なお本作は“予告詐欺”がすごいことで知られています。予告映像では、寺が次々爆破されていたり、平次ではなく蘭が狙われていたり、新一が制服姿で「待たせたな」と登場したりで、明らかに別な映画の予告なんですね。「このバージョンの『十字路』も見てみたかった」というコナンファンも多いはず……!
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