4月17日から順次、「名探偵コナン」劇場版第1作〜第10作がさまざまなプラットフォームで無料配信されています。2日間ずつ交代での無料配信で、5月5日〜6日に配信されているのは第10作「探偵たちの鎮魂歌(レクイエム)」(2006年公開)です。
コナンファンの赤いシャムネコさんに、同作のポイントを極力ネタバレなしで聞きました。やや辛口です。
劇場版コナン史上、大迷作
この作品がお好きな方もいるでしょうから言いづらいのですが、コナン映画史上に残る大迷作です。今回見返して、見れば見るほど混乱が深まっていく作品だと改めて実感しました。
舞台は横浜・みなとみらい。謎の男に呼び集められたコナン、蘭、小五郎、灰原、少年探偵団の面々は、気づかぬうちに爆弾が仕込まれたリストバンドを手首にはめられてしまいます。犯人の目的は“ある事件”の真相を解き明かすこと。蘭や少年探偵団は本人たちが知らぬ間に人質にされ、「遊園地から一歩でも外に出る」「遊園地が閉園する22時になる」のどちらかの条件でリストバンドが爆発してしまうという絶体絶命の危機に。同じく和葉を人質にとられた平次とも合流し、探偵たちは事件の捜査を開始する――というストーリー。
この犯人が提示してくる条件がミソで、まず「何の事件を捜査するのか」を当てるところから始まっています。映画が始まってしばらくは延々リアル脱出ゲームというか、出てくる小謎とヒントに従ってコナンたちが行動していきます。
ある意味ではホワットダニット(何が起こっているのか)型のミステリといえなくもないですが……事件パートは手を入れて作り込んだんだろうなと思わせられる一方で、「何を解けばいいのかわからない」という事件に観客としてはそもそも興味を持ちにくい。これまでの劇場版コナンでは中心となる事件は明瞭でしたが、本作では謎自体がブラックボックスとなっていて、見ていてどこに向かっているのかわからない視聴感、悪い意味での迷走感があります。
かつ、それを伝えるためのキャラクターの行動や演出のタイミングやテンポがことごとく変。「このキャラはこんなこと言うか?」「なんで蘭たちに『人質になってるよ』って伝えないんだっけ?」など、事件の謎とは関係ないところでハテナがたくさん浮かんできます。あまりに全員の言動がおかしいので、見ているうちにだんだん面白くなってきてしまうのが困ります。
いろいろ見どころ(ツッコミシーン)があるのですが、個人的なイチオシは怪盗キッドの登場シーンの恐ろしい唐突さ(青空の下を飛ぶ、明るすぎて逆光になっているキッドを見ながら「闇の世界を舞う怪盗キッド!」と説明するちぐはぐさもすごい)と、終盤コナンと平次が立ち向かう“バイクで追っかけてくる謎の敵(本当に謎)”とのバトルの緊迫感のなさ。挿入歌の使いどころも珍妙で、「ここでこの名曲を流すの!?」と困惑しきり。
本作はオールスター映画の雰囲気で作られており、ポスターにはこれまでの主要人物43人が登場しています。ジン、ウォッカ、ベルモットといった黒の組織の面々や、松田と萩原(天使の輪っか付き)なども描かれているのですが、これは半ば詐欺みたいなもので……どうやって登場させるのかと思いきや、もちろん登場しません! 43人中16人は、実際には出てこないといったほうがいいでしょう。
もっとも工藤優作や有紀子、ジンやウォッカは冒頭のおなじみキャラクター紹介部分に出てくるのですが、これを登場とみなしてポスターに出演させていいのか!? 誇大広告ではないか……。京極さんも雑誌にちらっと写るというまさかの登場(?)をしますが、「俺たちはいつからコナンじゃなく『ウォーリーをさがせ!』を見ていたんだ……?」と混乱します。
唯一きちんと登場しているといっていいのは、白馬探くらいではないかと思うのですが……「唯一の登場作がこれかい!」と言いたくなる扱いというか、楽しみにしていた白馬ファンを裏切るような決着の付け方をするのが何とも言えません。全国に大勢いる白馬ファンのためにも、今後の劇場版で再登場を期待したいところです。
一応名探偵を集め競わせて謎を解かせるといった構図や、茂木や槍田という2人の探偵に言及しているところ、白馬が登場しているところから、原作30巻の屈指の名エピソード「集められた名探偵! 工藤新一vs怪盗キッド」(黄昏の館事件)を意識しているのかな……? というのは感じ取れますが、黄昏の館のほうが1億倍面白いです。
一応よかった点も挙げておくと、人質の中で唯一現在自分たちが置かれた状況を把握している哀ちゃんの必死の時間稼ぎ工作や、のちに安室透としてシリーズキャラを演じることになる古谷徹さんが登場していることなどでしょうか。
また“怪盗キッドの正体”を最後まで直接的には明かさず、映像的な伏線を張って視聴者に推理させるというつくりはチャレンジングでした(やや不発に終わっている感じもあるのですが)。「遊園地を舞台に」という意味では、「観覧車ミステリ」の最高峰といえる劇場版20番目の記念作「純黒の悪夢(ナイトメア)」で、遊園地でのアクションを描くリベンジを遂げたと言えるかもしれません。
さて、いつも楽しみにしているエンディング実写映像も、サングラスの謎の女が横浜をめぐるというもので、いったいどんな気分で見ればいいのかわからないのが正直な感想。リアルタイムの劇場鑑賞時の記憶としては、キャッチコピーの「さよなら、コナン」やタイトルの「鎮魂歌(レクイエム)」ってつまり、観客にコナンシリーズとのお別れをさせようとしているのか……? と疑いました。衝撃のあまり、しばらく座席を立てなかった思い出があります。翌年の「紺碧の棺(ジョリーロジャー)」も大変な作品だったため、自分も劇場版コナンを卒業する時期になってしまったのだろうか、と覚悟しました。
とはいえ、12作目「戦慄の楽譜(フルスコア)」以降シリーズは全体的に持ち直していくので、コナン映画最大の鬼門である10作目と11作目を乗り越えれば面白い映画がたくさん待っています! 特にここ数年の面白さは、シリーズ初期の傑作群に匹敵すると断言してよいでしょう。ここで挫折せずこの先を見届けてください。
私が選ぶ劇場版コナン
今回の10作無料公開やhuluでの全作配信を記念して、huluがTwitterでハッシュタグキャンペーン「私が選ぶ劇場版コナン」を行っています。多くのコナンファンたちがこのハッシュタグとともにそれぞれの推し作品を挙げていて、何時間見ていても飽きません。
今回、無料公開分の10作全てを順番にレビューしてきましたが、せっかくなのでこの後の11作目以降(11〜23作)でマイベスト3を挙げておきます!
- 【1位】紺青の拳(フィスト)……爆破アクションとしてのコナン史上最大スペクタクル。ミステリ的にも見どころが多いです
- 【2位】天空の難破船(ロストシップ)……展開の意外さや楽しさがベスト! 中盤で「えっ」と声を上げそうになりました
- 【3位】から紅の恋歌(ラブレター)……「迷宮の十字路(クロスロード)」への完璧なアンサー! 十字路で弱かったミステリ面や爆破面でも見どころがあります
いろいろ言ってきましたが、コナン映画は何十回見ても面白く、何度見ても新しい発見があるシリーズです。いつもは気に入った作品を見たいときに見ていましたが、今回あらためて公開順に見ていくと、「それまでの作品群を踏まえてどう違ったコナンの世界を描くか」という制作者の意図や挑戦を感じることができます。毎年「コナン映画らしさ」を大事にしつつ、新しい舞台で新しい物語を生み出しているのは、驚くべき偉業です。延期になっている「緋色の弾丸」が公開される日を心待ちにしています。
【5月5日18時30分追記:初出時、「古谷徹さんが初めてコナンシリーズに登場している」としていましたが、「初めて劇場版コナンシリーズに登場している」の誤りでした。訂正いたします】
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