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ジャンプにあらわれた次代の怪物 SCP×ラブコメ×能力バトル『アンデッドアンラック』作者は人生2周目なのではないか説

ジャンプの新連載がめちゃくちゃ面白いので紹介します。

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 皆さんは「ジャンプ黄金期」と聞いていつを思い浮かべるだろう? 

 『ドラゴンボール』『スラムダンク』『幽遊白書』『ジョジョ』が同時掲載されてた90年代前半か? 『ワンピース』『るろ剣』『NARUTO』の90年代後半か? 『BLEACH』『DEATH NOTE』『ネウロ』の00年代か?

 かつての少年たち(少女も)の心には、それぞれが想う「俺のジャンプ黄金期」が輝いている。それは分かる。分かった上で言わせてほしい。「今のジャンプ、ギラギラですよ」と。

 『鬼滅の刃』を筆頭に『呪術廻戦』『アクタージュ』『チェンソーマン』と新しい風が勢いよく吹き込んで、“ジャンプらしさ”みたいなセオリーを独自の解釈で再生産しようとする動きが目立つ。

 「怒りの力で強くなるのはなぜ?」「戦闘中に能力をべらべら喋るのは自然?」「強さの秘密が“遺伝”って面白い?」

 斜に構えたオタクが教室で得意げに語っていたアンチテーゼが、若い才能によって止揚される。ジャンプという雑誌そのものが、ちょっと捻くれた方向に世代交代しているようで、年甲斐もなくワクワクしてしまうんです。マキマさんに憧れて育つ小学生、一体どうなっちゃうんだよ。



 ……で、そんな過渡期を象徴するであろう才能がまた1つ現れた。『アンデッドアンラック』。不老不死の全裸男と不幸体質の少女が主人公の「SCP×ラブコメ×能力バトル」である。

 「SCPって何?」って人は「ネットで有名なオカルトコピペ」くらいに思っといてほしいんだけど(後で説明するから)、この「味の濃いもの全部乗せました!」みたいな、学生街の汚い定食屋みたいなドカ盛り要素の数々が、なぜか見事にマリアージュしている

 そんなわけで今回は「これマジで新人が描いてるの!!!???」という驚きを皆さんと共有させてください。

トンデモ能力者だから成立する変態ラブコメ

 『アンデッドアンラック』は2020年1月より開始した戸塚慶文先生の初連載作品。

 途方もない時間を生き続けたせいで倫理観パカパカの不死男・アンディと、触れた人間にハチャメチャな不運をもたらす女の子・風子が出会い、お互いの夢をかなえるために頑張るぞ! というのが1話から一貫するざっくりとしたあらすじ。

 永遠の時を生き続けるアンディの夢は“死ぬこと”。そのために風子の「他人に不運を与える能力」を利用したい。なんせ風子がもたらす災難の中身は「暴走した車が突っ込んでくる」とか「乗ってた飛行機が墜落する」とか、新聞の一面を飾るレベルの大事故。浦飯幽助なら1話で即死している。これなら不死を殺すほどの“何か”が起こる可能性も0じゃない。



 そして「不運」には相手への好感度に比例してパワーアップする性質がある。アンディはより強力な死を求め、風子をホレさせようとするわけだ。これがラブコメとしての『アンデッドアンラック』である。

 加えて「接触時間が長いほど」「接触面積が大きいほど」「風子がエッチな感じになるほど」不運もヤバくなるという追加ルールが明らかになり、具体的な目標は……まあ……そういうことです。スケベな男子中学生からしか出てこない発想。これだけでも作者が天才であることが分かってしまいますね。



 一方、能力のせいで孤独に生きてきた風子の夢は「少女漫画みたいな恋がしたい」。愛の無いセックスなんて絶対いや。アンタのことなんて好きにならないんだからね! ……でも、助けてくれたし、私のこと怖がらないし、不運を気にせず他人と触れ合えるなんて初めてだし……まあ、どうしてもって言うなら……。みたいな感じの子である。出会って2話でこれだから、チョロいとかツンデレとか通り越して心配になってしまう。終電逃しても強い心でタクシーに乗ってほしい。

 とまあ、こうして早々に爛れたハッピーエンドを迎えそうになる2人。行くところまで行ってしまうのか!? と思いきや、アンディは「ヤケんなった女抱く程俺ァ腐ってねぇ」「テメーが腰曲がりのババアになっても口説き倒して抱いてやるよ」とこれを一蹴する。



 ……大人だ!!! ヒロインの能力は思春期に最適化されたエッチスケベエッチなのに!!! 主人公がかっこいい大人の男だから、奇跡的に少年誌向けラブコメが成立している!!!

 何十年(何百年かも)生きている「不死」の男に感情移入できる小中学生がいるだろうか。アンディはラッキースケベに顔色ひとつ変えないし、そもそも微塵もラッキーと思っていない。そんなやつが少年誌の主役を張っていいのか? 同じ雑誌には、偽乳握らされて眠れなくなるほど葛藤しちゃう主人公もいるんだぞ!

 いいんである。だってめちゃくちゃかっこいいから。


こんなにも小学生がマネしたくならない必殺技があるかよ

 『アンデッドアンラック』はゴリゴリの“能力バトル”としても素晴らしい。

 「不死」と「不運」の2人を狙うのは、同じく「不+○○」の能力を持つ“否定者”たち――。バトル漫画にもいろいろなタイプがあるけれど、この漫画の場合は『ジョジョ』『HUNTER×HUNTER』の系譜。互いのルールを暴きながら戦うインテリバトルである。

 「不死」というと防御寄りの使い方をイメージするが、その実態は攻守万能。すりつぶされた体が一瞬で回復するほどの再生スピードは、とある強力な“必殺技”を可能にする。さて、どんな技だと思いますか? ヒントは“遠距離攻撃”です。



 正解は自分で指を切り落とし、新しい指が生えてくる勢いを利用しての「指ミサイル」。こんなにも小学生がマネしたくならない必殺技があるかよ。

 他にも「脚を切り落としての超ジャンプ」「自分の体を鞘(さや)にしての高速居合切り」など、シンプルな能力から想像もできない応用技が次々飛び出し、全てのバトルがびっくり箱のような驚きに満ちている。1つ1つのアクションが面白すぎる。

 “痛覚は死んでいない”という設定もいい。エグイ新技が披露されるたびに、「なんでこいつはこんなに狂っちゃったの?」とアンディの過去が気になってしまう。

 自分の体を切り刻みながら戦う都合上、戦闘スタイルは自然と全裸に。戦闘が無い回でも黒塗りの股間が必ず1コマ以上登場するという悪夢みたいなイースターエッグが仕込まれているのも楽しい。これには小学生もバカウケ。ちんちんは正義。



 風子も戦闘になれば「不運」を使って積極的にアンディをサポートする。とはいえ能力以外は普通の女の子だから、敵につかまってピンチになったり、良かれと思った行動で足を引っ張る場面も少なくなくないのだけど、一撃の火力は圧倒的に風子の方が高いから「守られるだけの弱いヒロイン」って印象を全然受けないのもいい。

 何より熱いのが「不死」と「不運」を組み合わせた“超必殺技”。なぜ、主人公とヒロインの合体技はこんなにも心が躍るのだろう。せっかくだからこれもクイズにしてみようかな。アンディと風子が心重ねて放つ大技とは?



 正解はもちろん人間爆弾である。「不運」を与えられたアンディが敵に突撃! タンクローリーが突っ込んできてお互い大ダメージ!! だけどアンディは「不死」だからすぐに復活!!! 流れるようなプロアクションリプレイ戦法。こいつら本当は「不道徳」の能力者なんじゃないのか。

 だが冷静に考えてみると、この合体技にこそ『アンデッドアンラック』の魅力が詰まっている。繰り返しになるが、風子がアンディを好きになるほど不運の規模は凶悪になる。それはつまり、技の威力がヒロインの好感度のバロメーターとして機能するということだ。



 だって1話時点では交通事故を起こす程度だったのに、数話もしないうちに火山を噴火させているのである。もう“災難”じゃなくて“災害”じゃん。そのくせ口をついて出る言葉は「アタシは!! ホレたりしないから!!」。おい。なんだそれ。

 かわいすぎか……?

 恋愛の進展と戦闘面の強化がイコールだから、敵と戦う→仲が深まる→さらに強い敵と戦う→さらに仲が……の流れが非常にスムーズ。要は最近のペルソナと同じシステムである。

 敵も敵で「絶対に確実に100パー必中のメガトンパンチ」とか「光以外のあらゆるものを反射するバリア」とか、最序盤とは思えないズル能力をバンバン使ってくるから、1巻にしてバトルがド派手。本誌でぶつ切りに読んでもテンポがめちゃくちゃ良い。



 ……というわけで、ラブコメと能力バトルが見事に融合した物語のサイクル、出し惜しみせずに魅力的な敵をガンガン突っ込んでくる思い切りの良さ、知性を感じさせる「否定者」の戦闘描写――。どこをとっても漫画が上手すぎる。

 だから想像もしなかった。まさかこれ以上の驚きが待っているなんて、ここまでの内容が全てプロローグでしかないなんて……。


1巻丸ごとプロローグ 「ちんちん黒塗り」すら伏線の超展開へ

 ターニングポイントは9話。それまでアンディと風子を追っていた謎の組織「ユニオン」が、2人を幹部として迎え入れる急展開に突入する。これに伴い「世界の謎」や「組織の目的」「真の敵」が次々と開示され、「えっ!!!??? こんな壮大な話だったの!!!???」とビビリ散らかすこと間違いなしの本編が開始。「最初から出し惜しみせずに全力の面白をぶつけてきやがるぜ……」と思っていたここまでの物語は、全てプロローグでしかなかったのである。本当に新人? 人生ループしてない?


2巻は6月発売ですよ!

 個人的に驚かされたのが、物語のベースにあった「SCP財団」へのオマージュである。

 「SCP財団」とは、さまざまなオカルトアイテムを収集・収容する架空の組織であり、その組織を題材とした投稿型コミュニティサイトの名称でもある。

 「目を離すと周囲の人間を殺す彫刻」とか「貼られた絵を剥がそうとすると死ぬ冷蔵庫」とか、世界の法則を乱しかねない危険なアイテムを厳重に管理するフィクサー。コミュニティサイトでは、その設定の面白さに惹かれたユーザーたちが、新たなアイテムを想像し、収容プロセスや管理方法を記した「報告書」の形で物語を投稿する。

 『アンデッドアンラック』の「ユニオン」の設定は、まさにこの「SCP財団」とそっくりなのだ。SCP財団はインターネットで愛されてきたダークなオカルト話、性質としては「意味が分かると怖いコピペ」とかに近い存在である。まさかそんなものを王道の能力バトルの題材として組み込もうとするなんて。

 キャラクターが機密情報を漏らそうとすると「■■■」のような形で台詞が黒く塗りつぶされてしまう演出もSCPに特有の表現。インターネットのオタクにしか通じない小ネタを天下のジャンプにぶち込む胆力。だから作者は何者なんだよ!

 ……あれ? 黒塗り? そういえばさっきもそんな話をした気がするな……。



股間の海苔はSCPの伏線だったってこと?

 ちんちん丸出しすらパロディだったってこと? だとしたらこんな下品な伏線があるかよ。

 以上、もう何もいいません。ぶっ飛んだ主人公、ぶっ飛んだ展開、そして何よりぶっ飛んだ作者の手腕。ジャンプを飲み込もうとする怪物『アンデッドアンラック』をよろしくお願いします。

戸部マミヤ




(C)戸塚慶文/集英社




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