「オペラもね、本物のMET(メトロポリタン歌劇場)なんかを観に行くとさ、6万も7万もするけど、ライブビューイングっていうのがあってさ、3000円くらいでMETのオペラを見られるのよね。映画ですよ、映画」
「へぇ……」
「そういう知識、ないじゃん、アナタ」
三石先生から「映画」と説明されなくても、今時の若者はライブビューイングくらい知ってそうなもんだが……。
「(ビデオを)借りてきて見たり、そういうところ見に行くの。そうするとね、やっぱり真剣に観るから。なんで真剣に見るかっていうと、アンタ音楽好きだから。で、歌だったら聞こえてくるから。やっぱり自分の好きなとこから食いつくのがいいと思うの」
「あー、はい……」
相談者は「何もやりたくない」なんて言っているが、物事への食いつき方と、遊び方が足りないから、人生がつまらなく感じているだけだと指摘した。
「すごく狭い心で生きちゃったのかなぁと思うんだけどね。心を閉じていると何も見えないんですよ。『あと6カ月くらいで貯金が』って言ってたじゃない? 6カ月食い潰すくらい遊んでごらんよ」
しこたま遊べば、遊び方の技術も、友達も、知識も増えてくる。そうすれば人生もずっと魅力的になると語った。
「親も今さらね、有名になるだろうとかね、スターになるだろうとかね、そんなこと期待してないと思いますよ。親が期待しているのはね、この暗い顔した女がね、どんだけ嬉しく、楽しく一日一日を過ごしていってくれるのか」
相談者に対して“この暗い顔した女”とはスゴイこと言うなぁ……。
「一生懸命遊んでごらん。好きなことしなさい、まず。嫌いなことはしなくていい。6カ月あるんだよ、まだ。(貯金が)なくなったらさ、『ごめんなさい』って家帰ろうよ。で、帰る時にニコニコ帰えりゃいいんだよ。『面白かった!』と」
「フフ……」
相談者は依然気のない返事ばかり。キツイ言葉も交えつつの三石先生のアドバイスは、それなりにいいことを言ってくれていると思うのだが……。
しかしリスナーの大半は聴きながら、こんなことを思っていたんじゃないだろうか。「三石先生、なぜか相談者がオペラをやってる前提でしゃべりまくってるけど、芸能事務所でレッスン受けてるって、明らかにオペラじゃないんじゃ……!?」
そばで聞いている柴田理恵もそう思っていたようで、たまらず口をはさんできた。
「なんの音楽が好きだったんですか?」
「ロックとか……」(三石は「ロックかぁ〜!」とため息)
「じゃあロックのビデオ見た方がいいよ。誰か好きなアーティストとかいるわけでしょ? その人のことを徹底的に好きになると。やりたいことはドンドン夢中になって来るから」
「はい!」
最後の最後で無気力相談者の声が明るくなった。「イタリア歌曲が!」「オペラが!」とテンション高くまくし立ててしまったせいで、相談者の聞く耳を閉ざしてしまっていたのでは……。最初の段階でもうちょっと丁寧に話を聞いてあげて、「ロックが好き」という前提で同じような話をしていたとしたら反応もだいぶ違ったんじゃないだろうか。
それにしても、大学受験に失敗して留学させてやり、途中で帰ってきたと思ったら「ロックやりたい」なんて言い出した娘に生活費援助をしてあげるなんて、母親も大変だ。母親からしたら「遊べ!」よりも、「とりあえず働け!」というアドバイスをしてもらいたかったかも……。
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