6月3日、三重県は都道府県で初めてのアウティング禁止条例を制定する方針を示しました。東京都国立市、東京都豊島区、三重県いなべ市など、市区町村のアウティング防止条例に続く決定です。
少しずつ行政にも認知され始めた「アウティング」とは、どのような行為なのでしょうか。
アウティングって何?
アウティングとは、主に性的マイノリティについて、本人の同意を得ずに性的指向やトランスジェンダーの移行前の性別などを公表する行為です。
どのような間柄の相手であっても、他者が普段公にしていない性のあり方を勝手に暴露することは、被害者の尊厳を著しく傷つけます。同時にアウティングは、当事者の社会生活を困難にさせる可能性を含んでいます。何気ない会話の中の一言であっても、「あの人ゲイなんだって」「あの人は今は男性だけど、女子校出身なんだよ」など、他者の性のあり方について勝手に話してはいけません。
2019年12月には、厚生労働省が定めた事業主のハラスメントに関する指針において、アウティングはパワーハラスメントの一種として位置づけられています。
アウティングの事例は?
日本では2015年、一橋大学において同級生にアウティングされた大学院生のAさんが自殺する事件が起きました。アウティング事件裁判を支援する会の概要によると、Aさんは2015年4月に同級生であるZさんに告白し、Zさんは同年6月に同級生10名ほどが参加するLINEグループにAさんが同性愛者であることを書き込みました。Aさんはアウティングのショックでパニック発作などの心身の不調を来たし、一橋大学のハラスメント相談室に通いましたが、その後同年8月に亡くなりました。
Aさんの遺族はZさんと和解し、一橋大学に対しては対応の責任を追及する裁判を起こしましたが、訴えは棄却されています。
事件を受け、国立市は2018年4月1日に「国立市女性と男性及び多様な性の平等参画を推進する条例」を制定しました。この条例にはアウティングの禁止が盛り込まれています。
また、2020年6月には、豊島区の職場でアウティングをされた男性が、豊島区に対して会社側への指導や会社名の公表を求める申し立てを行いました。総合サポートユニオンによると、男性は2019年5月に同性パートナーシップ制度を利用している旨を社長と上司に説明しましたが、上司は1カ月後に男性が同性愛者であることを同意なくパート社員に話してしまったといいます。上司は笑いながら「一人ぐらいいいでしょ」と言い、会社側は「アウティングは善意だ」と主張して上司の指導などを実施していない状況です。
豊島区では2019年4月1日に施行された男女共同参画推進条例において、パートナーシップ制度を制定するとともにアウティングの禁止を取り決めています。
メディアが加害者になるケースも
2019年5月にアジアで初となる同性婚の法制化が実施された台湾でも、メディアによるアウティング事件が起きています。
6月3日、台湾の人気YouTuber「黄氏兄弟」の弟・ウェイウェイさんが、ゲイであることを台湾メディア「鏡週刊」に勝手に公表されました。記者はゲイ向けアプリでウェイウェイさんとやりとりをし、会話のログなどを鏡週刊に公開したとのことです。現在鏡週刊は公式サイト上で謝罪文を掲載し、記事の削除、性に関するニュースを扱うガイドラインの作成、編集部が専門家による研修を受けることなどを表明しています。
同日、黄氏兄弟は事件についての動画を投稿しました。冒頭で、「このような形でカミングアウトするのは、望んだ形ではありません」と表明し、視聴者に対して「どんなグループや立場の人にも、愛を選ぶ権利があるべきです。特に私たちはこんなに幸せに、多元的で、包容力のある台湾で生活しています。私たち兄弟がずっと応援しているように、すべての人は愛し愛される権利があります」とメッセージを送りました。
そしてウェイウェイさんは動画の中でウェイウェイさんの母に電話をかけ、ゲイであることを改めてカミングアウトしています。ウェイウェイさんの母は「昔から知っていた」と応じましたが、ウェイウェイさんは涙ながらに「お母さんに言うのは怖い」「いろんなマスコミが私のことを報道していて、強いストレスがある」と告げました。
台湾では、アウティング禁止条例はありませんが、個人情報保護法があり、病歴や犯罪歴、そして性生活に関する情報などを勝手に公表することが禁止されています。違反者には5年以下の懲役、もしくは100万台湾ドル以下の罰金が課せられますが、親告罪であるため、被害者が訴え出なければ加害者を処罰することができません。被害を訴え出る場合であっても、被害者の精神的な負担は多大なものになります。
ウェイウェイさんはその後Instagramを更新し、「自分がアウティングされる最後の一人になってほしい」と述べました。
アウティングの加害者にならないためには?
以上のように、アウティングは性的マイノリティにとって生存すら脅かす重大な社会問題です。アウティング加害者にならないために、カミングアウトをどう受け入れるべきなのでしょうか。
1対1のカミングアウトの場合は、助言などをしようとせずに、本人の話を傾聴し、「教えてもらってよかった」など、平常心で受け止めることが重要です。性のあり方に関する情報の機密性はとても高いため、一切他言しないのがよいでしょう。
当事者が所属する集団・組織に対してカミングアウトを行った場合は、当事者が孤立しないよう、3人ほどのチームで支援を行うとよいといいます。例えば会社でセクシュアリティに関するルール変更の申し立てを行うために当事者がカミングアウトする場合は、1人目は当事者の話を聞いてケアを行い、2人目が会社側の主張と本人の希望との調整を行い、3人目が会社の制度・ルールを見直す、というように、支援者の立場を生かして当事者の希望を聞きながら自己開示をサポートします。
また、上司と部下、あるいは教師と学生というように、カミングアウトを聞く立場にある人とカミングアウトする当事者の立場に差がある場合、より丁寧に対話を重ねていく必要があります。立場の弱さゆえに、当事者は拒否したいことが拒否できなかったり、不快に思ったことを申告できない場合があるためです。カミングアウトを複数人でサポートする場合は、当事者の同期など、対等に話せる関係にある人がサポートチームに参加するのもよいでしょう。
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の影響で個人の体調や行動範囲を他者と共有する機会が増えた現在、アウティングをはじめとするハラスメントが起きやすい状況が増えていると言えます。LGBTQに限らず、あらゆるハラスメントを起こさないために、性に関する情報の取り扱いは常に最新の注意と配慮が求められています。
参考文献
石田仁『はじめて学ぶLGBT』(ナツメ社、2019年)
翻訳協力
Peihsuan Liu
【6月18日追記】
本文の訂正を行いました。
(初出) アウティングとは、主に性的マイノリティについて、本人の同意を得ずに性的指向や性自認を公表する行為です。どのような間柄の相手であっても、他者の性的指向、性自認を勝手に暴露することは、被害者の尊厳を著しく傷つけます。
(訂正)アウティングとは、主に性的マイノリティについて、本人の同意を得ずに性的指向やトランスジェンダーの移行前の性別などを公表する行為です。どのような間柄の相手であっても、他者が普段公にしていない性のあり方を勝手に暴露することは、被害者の尊厳を著しく傷つけます。
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※2019年6月17日に追記を行いました。