プリキュアの水着表現はなぜ規制され、そして解禁されたのか 15年の歴史を探る:サラリーマン、プリキュアを語る(1/2 ページ)
われわれ大人が「水着回!」と過剰に騒ぐからNGになった側面もあるのですよね。反省です。
かつてプリキュアには水着表現が出来なかった時代がありました。
プリキュアの水着はなぜNGとなり、いかに解禁されたのか? その変遷をたどると、プリキュアがここまで支持されてきたその理由が垣間見えるのです。
kasumi プロフィール
プリキュア好きの会社員。2児の父。視聴率などさまざまなデータからプリキュアを考察する「プリキュアの数字ブログ」を執筆中。2016年4月1日に公開した記事「娘が、プリキュアに追いついた日」は、プリキュアを通じた父娘のやりとりが多くの人の感動を呼び、多数のネットメディアに取り上げられた。
- これまでのプリキュア連載一覧
2020年6月22日。「ヒーリングっど プリキュア」の新プリキュア「キュアアース(CV:三森すずこ)」が発表となりました。今までの3人とは異なり、お姉さんっぽいデザインがステキです。早く動く姿が見たいですよね(キュアアースについては本放送に登場してからたっぷり書きたいと思います)。
コロナ禍の影響で中断されていたプリキュア本放送も6月28日より2カ月ぶりに再開することが発表され、少しずつですがプリキュアもようやく日常が戻りつつあります。
日常が戻ればいつもの楽しいプリキュアが見られます。海やプールでの「水着回」は2020年もあるのでしょうか?
今では当たり前のように放送されるプリキュアの水着回。しかし、かつて「プリキュアの水着」がタブーとされてきた時代があったことをご存じでしょうか?
それはどんな理由によるものであったのか、そしてどのような理由で水着は解禁されたのか。プリキュア水着表現の歴史を見てみましょう。
水着NGは初代「ふたりはプリキュア」から
水着表現の規制は初代「ふたりはプリキュア」(2004年)から始まります。関連書籍でその詳細が語られているので少し引用します。
――番組を作っていくうえでもっとも気を使われたことは?
鷲尾 “やはり主人公が女の子”という点と、あくまでも番組の対象は子供たちなんだというスタンスです。
たとえば、夏休みのエピソードとしてなぎさとほのかが海へ泳ぎに行くというのは楽しいし、絵的にも季節感が出せるでしょう。でも、そのシチュエーションを、ほほえましく観てもらえるのならばいいのですが、そうではない視点、視線を向けられるのは避けたかったんです。ABCさんともお話しまして、夏場の定番話として楽しいエピソードになるのは予想できるんですが、あえてやらないことにしたという経緯があるんですよ。
(講談社『ふたりはプリキュアビジュアルファンブックvol.2』2004年 P87から)
プリキュアの初代プロデューサー鷲尾天氏は、海に行くお話は楽しいし季節感も出せるとしながらも「そうではない視線」を向けられたくないため水着描写を避けた、と語っています。
「そうではない視線」とは柔らかい表現ですが、要は「大人からの性的な視線」を避けたかった、ということですよね。この頃のアニメはまだ「水着」=「サービスシーン」という謎の風潮があり、「水着を出す」=「大人に性的な目で見られる」ことを危惧しての水着NGとなったようです(そもそも「水着回」という言葉が存在していること自体が水着が性的であることの証ですよね)。
特にプリキュアは子ども向けであり、親子で楽しむことを前提としているので保護者から嫌われてしまっては元も子もありません。まだブランドとして確立する前のプリキュアです。「大人が性的な視線で語っている状況」になるのを避けたかったものと思われます。当時としては最適な判断だったのです。
プリキュアの水着規制のスタートは苦情などの外圧ではなく「大人からの好ましくない視線を避ける」という自主規制から始まったのです。
そして、その「水着はNG」は次作以降にも受け継がれていったのです。
親から大ブーイング
さらに2009年、プリキュアで水着NGを決定づける出来事が起こります。
東映アニメーションのプロデューサーが鷲尾氏から梅澤淳稔氏に代わった「フレッシュプリキュア!」は、さまざまな新しいことにチャレンジした意欲作でした。
その1つとして第2話で蒼乃未希(キュアベリー)のシャワーシーン(足だけが映るもの)や、競泳水着姿に男子生徒が見とれるシーンが放送されます。特段セクシーな描写というわけではなかったのですが、それが子どもと一緒に見ていた親御さんの大きな不評を買うこととなります。梅澤Pは当時の様子を「大ブーイング」だったと語っています。
――「フレッシュプリキュア!」では前半に水着やシャワーシーンもありましたね。
梅澤 実は大ブーイングでした。「コクる」「彼氏」というセリフも評判が悪かったです。中学生だから、必然性があるから、大丈夫というわけじゃない。両親が観せたくない作品になっては『プリキュア』じゃない、と痛感しました。
(ぴあMOOK『プリキュアぴあ』2011年 P87)
梅澤Pはプリキュアが「両親が観せたくない作品になってはダメ」と痛感し、以降それがプリキュアの水着NGをさらに強固なものとするきっかけとなってしまいます。
プリキュアシリーズが始まってからの10年間、海の見える別荘に行ったり、砂浜で特訓したりと海に行くシチュエーションが数多く描かれるのですが、プリキュアたちは「不自然に」水着になりません。普段着で遊びます。
「ハートキャッチプリキュア!」のシリーズディレクターである長峯達也氏は、海なのに水着姿にならないのは不自然なので同作で水着を出す予定だったとしながらも、やはり「自分の娘の肌をさらすことはできない」という理由でコンテの段階で水着をやめたことをTwitterで語っています。
「スマイルプリキュア!」のシリーズディレクターである大塚隆史氏も、同作で水着回を行う予定だったものの中止となったこと、さらにプリキュアにおいて「性的な商品」が出るようであれば、即SDを降りるとも発言しています。
これらのように「プリキュアの水着」は話が持ち上がるものの立ち消えることが続きます。「水着がダメ」なのではなくて「大人に性的に見られてしまうことがダメ」なはずだったのが、いつしか目的と手段が入れ替わり「水着表現がダメ」となっていったのです。
ただ、カレンダーや女児向けカードゲーム、上北ふたご氏による漫画版などでは普通にプリキュアの水着も表現されていました。またテレビ本編においても、周囲の女子や敵女性幹部などは水着が描写されていたので、あくまでテレビ本編で「プリキュア」が水着を着ることがNGだったようです。
また「水着がNG」なだけであり、露出が高い服はNGではなく、例えば「ハピネスチャージプリキュア!」の変身解除状態などは水着よりも露出の高いセクシーな姿であるなど、やや本末転倒な部分も見られるようになってきました。
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