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プリキュアの水着表現はなぜ規制され、そして解禁されたのか 15年の歴史を探るサラリーマン、プリキュアを語る(2/2 ページ)

われわれ大人が「水着回!」と過剰に騒ぐからNGになった側面もあるのですよね。反省です。

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過剰な自主規制があった

 ただ、それも時代の変化に合わせて変わっていきます。女性が「水着」を着ることは別に性的なことではないし、かわいい水着を着ることは女児のあこがれの1つである、と水着表現に立ち向かったのが2015年「Go!プリンセスプリキュア」です。「ふたりはプリキュア」から10年の年月がたっていました。

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水着を解禁した「Go!プリンセスプリキュア」(画像はAmazon.co.jpから)

 同作のプロデューサーである神木優氏は、プリキュアはこれまで「水着を避けてきた」と明言し、その理由として「水着がセクシーになりすぎると見せたい意図とずれるため」とそれまでの経緯を認めた上で改革を進めます。当時の発言を引用します。

神木P「プリキュア」ではこれまで、彼女たちの水着シーンを基本的に避けてきたんです。でも、今回はそもそも海のプリキュアがいるわけで……(笑)。今後みんなで海水浴に行くエピソードがあるんですけど、彼女たちの水着姿をどう描くのがいいのか。これまで避けてきた理由もわかったうえで演出する必要がある」
(一迅社『Febri(フェブリ)Vol.30』2015年 P29)

神木 『プリキュア』は視聴者がお子さんですから、たとえば敵であっても顔面は殴らないとか血は出さないとか、それなりのルールはあるんです。ただ、水着はセクシーに見えすぎた場合、作品として見せたい意図とズレが出てしまうことがあるので、慎重に扱うものだったんですね。その配慮の結果が逆に不自然に感じるのでは、ということは議論になっていました。それに合わせて、今年は一度、これまでのシリーズで受け継いでいるものを再検討しましょう、という話も出ていて。それが全面に出たのが水着の回だったんです。
(学研ムック『Go!プリンセスプリキュア オフィシャルコンプリートブック』2016年 P78)


 水着表現NGの配慮が「逆に不自然に感じる」ことは製作者側も認識していたようで、そのような「シリーズで受け継がれている自主規制」を変えることの象徴として「プリキュアの水着」が解禁されたのです。

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「Go!プリンセスプリキュア」で解禁された水着表現(第28話)

 そして「Go!プリンセスプリキュア」第28話「心は一緒!プリキュアを照らす太陽の光!」(2015年8月16日放送)にて、プリキュアの水着描写は解禁されました(余談ですが「水着解禁」はネットニュースになる程度にはプリキュア界隈(かいわい)では大きな出来事だったのです)。

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 「セクシーになりすぎない」という配慮の元、中谷友紀子デザインの水着はとてもかわいく描かれ女児の評判も良かったようです。

 ふたを開けてみれば、プリキュアの水着姿を放送しても大きなクレームが来ることはなく好評だったようで、以降のシリーズにおいても水着表現は続きました。

 「魔法つかいプリキュア!」(2016年)では、まるまる1話を使って海で楽しく遊ぶ姿が描かれます。そう、海に行ったら水着で遊ぶのは普通のことなのです。

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「魔法つかいプリキュア!」第25話

 また、「HUGっと!プリキュア」(2018年)では、愛崎えみる(キュアマシェリ)が水着姿の輝木ほまれ(キュアエトワール)のスタイルを褒めるシーンも見られるなど、「水着姿のスタイルや容姿への言及」が描かれるまでになります。

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「HUGっと!プリキュア」第24話。ほまれの水着のスタイルに言及するシーンがある

 そもそも水着は自分が「着たいから着るもの」であって、他人に表現を規制されるものではないのです。過剰な自主規制が逆に女の子の表現の幅を狭めてしまうこととなっていた当時の現状を打破した意義は大きいものと思われます。水着を着ることは別に普通のことなのです。

 また、プリキュアシリーズが15年以上放送され続け、その安定した品質により「プリキュアであれば、水着が描かれても問題ないであろう」という認識に世間が変わってきたことも大きいと思われます。プリキュアの水着解禁はプリキュアが世間に信頼されてきた証でもあるのです。

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「キラキラ☆プリキュアアラモード」第26話

表現の幅を狭めないように

 「Go!プリンセスプリキュア」のシリーズディレクター、田中裕太氏は2015年時のプリキュアシリーズには問題点があったとしています。

田中 『プリキュア』シリーズは、女児アニメの概念に捉われないものとして始まったにもかかわらず、長くやっているうちに『プリキュア』のほうが、“女児アニメのスタンダード”と見なされるようになっていて、いつしかその内容に道徳的な側面まで期待されるようになりました。それはとてもありがたいし、名誉なことでもあるんですが、それに委縮して、これまで無意識にすごく表現の幅を狭めていたことがありました。水着はまさにそのひとつの象徴だったんです。
(学研ムック『Go!プリンセスプリキュア オフィシャルコンプリートブック』2016年 P78)


 プリキュアは「女児アニメの概念に捉われないもの」として始まったにもかかわらず、シリーズを重ねるにつれ「女児向けアニメのスタンダード」として「道徳的な部分」を期待されるようになり、それが「過剰な自主規制」へとつながってしまい表現の幅を狭めていた、と言及しています。

 良かれと思って始まったことがいつのまにか形骸化し、何となくみんな守っているから守る、になることは現実社会でも多いと思います。

 「今の時代に合わない」と感じたらそれを変える柔軟さが、プリキュアシリーズが15年以上も受け入れられている理由の1つだと思います。

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「スター☆トゥインクルプリキュア」では水着ではなく人魚姿が描かれた

 100年以上続く伝統の和菓子は、時代に合わせ常にレシピを変え続けていると言います。この先もプリキュアは時代に合わせ、その表現を柔軟に変えていくのでしょう。

 今ある「プリキュアの当たり前」だって、いつの日か変わっていくのかもしれません。そんなとき、「そんなのプリキュアじゃない!」と呪詛を吐く老人にならないように気を付けていきたいですよね。どんなときだって、子どものためにプリキュアはあるのですから。


「ヒーリングっど プリキュア」
毎週日曜8時30分より
ABC・テレビ朝日系列にて放送中
(C)ABC-A・東映アニメーション


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