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婚姻届の代わりの住民票「妻(未届)」 “普通に結婚”したかったアラサー女性が事実婚を選ぶまで恋愛・結婚のかたち

新しい形の恋愛・結婚について考えていく連載「恋愛・結婚のかたち」(全5回)。第3回は、「普通に結婚」するものだと思っていた30歳の女性が事実婚を選択するまでを聞きました。

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 婚姻届を提出する「法律婚」ではなく、「事実婚」を選択する――さまざまな理由から、事実婚という結婚の形を選ぶカップルがいます。

 今回話を聞いたのは、2020年2月に事実婚の形で結婚した女性、朝倉さん(仮名)。「普通に結婚すると思っていた」朝倉さんは、のちに夫となる男性の「今の結婚制度で結婚するのは違う気がする」という言葉をきっかけに、事実婚を選びました。事実婚をしてから半年、事実婚について感じていることをうかがいました。

連載「恋愛・結婚のかたち」

この記事は、ねとらぼとYahoo!ニュースの共同企画による連載記事です。国勢調査によると、2015年時点で男性の生涯未婚率(50歳時点で一度も結婚をしたことがない人)は23.37%、女性で14.06%と、1990年の男性5.57%、女性4.33%から大幅に上昇(国立社会保障・人口問題研究所の調査より)。近い将来、男性の3人に1人が“生涯未婚”の時代がやってくるとも予想されています。一方で、そうした社会背景と呼応するように、これまでの一般的な形にとらわれない、新しい恋愛・結婚のスタイルを選ぶ人たちも増えてきました。ここではそんな「新しい恋愛・結婚の形」を選んだ人、選ぼうとしている人たちを取材し、これからの恋愛・結婚について考えていきます。


事実婚を選択するまで

 朝倉さんが現在の夫と付き合い始めたのは2017年ごろ。2年ほど交際し、ふたりが30歳を目前にしたタイミングで、朝倉さんの中では「結婚したい」という思いが生まれていたといいます。しかし当初、朝倉さんは「事実婚」という選択肢を考えてはいませんでした。

 「きっかけとなったのは彼の方なんです。向こうが結婚に全然乗り気じゃなくて。詳しく話を聞いたら、『あなたとはこれからも一緒に暮らしていきたいけど、いまの結婚制度で結婚するというのは違う気がする』と。聞いたときは『私と結婚したくないってこと?』とすごくショックでした」(以下、朝倉さん)

 朝倉さんは混乱しながら、恋人(当時)と話し合いを重ねました。彼は「うまく言えないけど、法律婚はピンと来ない」と語ったといいます。中でも彼が大きな違和感として挙げたのは名字の問題。朝倉さんは会社員ですが、副業でフリーランスのイラストレーターとしても本名で活動しています。友人たちからよく呼ばれるあだなは「朝さん」。彼は「朝倉さんが『朝倉』じゃなくなるのが変な感じがする。かといって、自分が朝倉になる気もしない」と話したといいます。

 「その発言を聞いたときは、正直『どうせ名字変えるのも私の方だろうし、そっち(夫)は損しないじゃん』と怒りました。もう勝手に婚姻届を出してやろうか……とも(笑)。でもいろいろ調べていく中で、自分の中でも名字が変わることへの違和感がはっきりしてきました。私は30年近くこの名字と名前で生きてきて、たぶん名前よりも名字の方が呼ばれている回数が多い。どうしてそれを手放す『損』を受け入れなきゃいけないんだろう?――という風に気持ちが変わってきて、他の結婚はないんだろうか? と調べ始めました」

 日本の民法では夫婦同姓が定められており、さまざまな裁判が行われているものの、国際結婚などの場合を除き2020年現在夫婦別姓は認められていません。民法では「夫又は妻の氏を称する」とありますが、96%の女性が男性の姓に変えることを選んでおり、実質「結婚=妻が夫の姓になる」というイメージが一般的です。

 「いろいろ調べた結果、事実婚がいいのではないかという結論になりました。彼に話すと、『それならピンと来る。周りにも事実婚している人がいっぱいいる』と返ってきて、“結婚”の日がとんとん拍子に決まりました」

「妻(未届)」

 事実婚とは、お互いに婚姻(結婚)の意思を持ち、夫婦として生計を一つにして生活しているが、婚姻届を出していない状態のこと。「内縁の妻(夫)」とほぼ同じ意味で使われている言葉です。

 事実婚は、法律婚(婚姻届を提出した結婚)と同様に、パートナーの扶養に入ること、住宅ローンを組むこと、遺族年金の受給などが可能です。同居や生活費などの相互扶助、貞操(不倫などの婚外恋愛をしない)などの義務も発生します。

 一方で事実婚の場合、相続権が発生しないこと、税制上の優遇がないこと、子どもが生まれた場合に原則母だけの単独親権となり、父からの認知が必要となることなどのデメリットがあります。

事実婚
事実婚のメリット、デメリット

 事実婚は法律婚と違い、「夫婦として生活する意思はあるが、届けを出していない“状態”」であるため、届けを出す必要などはありません。夫婦として数年間の生活があれば、事実婚と考えられます。ただ、朝倉さん夫妻は住民票の世帯変更届を提出し、続柄に「妻(未届)」と記載することを選びました。

 「あくまでも法律婚を選んでいないだけで、結婚はしたという気持ちでいるんです。特に届けを出さなくてもいいことはわかっているのですが、市役所で住民票の世帯変更届を提出しました。私たちの住民票には夫の欄に世帯主、私の欄には『妻(未届)』と書いてあります。この『(未届)』記載というのは、“婚姻届を提出する予定はあるが現在は提出していない”ということ。これを提出したしないで法的に大きく扱いが変わることはないのですが(笑)、ひとつの区切りとして手続きをしました。これでふたりとも『結婚したんだ』という気持ちになりましたね」

事実婚
朝倉さんの「妻(未届)」住民票

 この「妻(未届)」の記載は、再び世帯変更届を出すか、どちらかが転居することで変更できます(住民票上の記載となるため、住民票が別の場所にあるいわゆる別居婚の場合はこの記載はできません)。「つまり、片方が家を出て行ったら消えちゃうので、離婚ということになりますかね」(朝倉さん)とのこと。ほかにも、たとえば「どちらかが単身赴任・海外勤務する」「地方や海外の会社に転職する」などで転出すると、住民票上での「妻(未届)」記載は消えることになります。ちなみに婚姻と違って戸籍が変更されないので、結婚・離婚歴などは残りません。

結婚? 結婚じゃない?

 朝倉さんたちは、お互いの家族を引き合わせるいわゆる「両家顔合わせ」や、家族への結婚報告会なども行っています。法律婚をしない選択は、お互いの家族にどう受け入れられたのでしょうか。

 「私の母はまず『えっ、夫婦別姓ってできないの?』とビックリしていました。『ちゃんと結婚しないってこと?』と心配はされましたが、法律婚でないだけだと伝えたら『ふたりが幸せならOK』と納得してくれました。夫の家族も同様で、義父と義弟は『相続面だけは気を付けてね』、義母は『そうなんだ(よくわかってない)』という感じでした。結婚後は、一般的な『息子の妻』として扱われていると感じます。自分たちでも意外なくらい、お互いに親戚づきあいをしてますね」

 朝倉さんが事実婚という形で結婚してからほぼ半年。夫婦としての生活を送る上で、自分たちが「法律婚」か「事実婚」かを意識することはほとんどないと朝倉さんは話します。

 「住民票上で世帯が同一なので、たとえば新型コロナ関連の持続化給付金(10万円)の申し込み用紙も、1世帯あたり2枚のマスクも、7月5日の東京都知事選挙の入場券も、連名で届いているんですね。あくまでも行政の手続きの上ですが、普通に――という言い方が適切かはわからないですが――家族として扱われている感じがします」

 ちなみにふたりは友人や同僚には「結婚した」と伝えていますが、会社には伝えていません。

 「会社に申請しようとして、意外なことがありました。私が勤めている会社には社員が結婚すると祝い金を出してくれる仕組みがあるのですが、それがオンライン申請なんです。申請内容を『結婚する場合』にチェックして申し込みを進めると、『届け出は行いますか?』『戸籍氏名の変更を行いますか?』『扶養家族として申請しますか?』といった質問項目が出るのですが、それの全部に『いいえ』をつけていくと、『申請対象の申請はありません』といった結果が返ってくるんです(笑)。会社が悪いというわけではなく、あ〜、会社的に見ると私の結婚は結婚じゃないんだと思って、特に申請はしていません。彼の会社も同様のようです」

事実婚
朝倉さんの会社の結婚申請画面。全てに「いいえ」を入力すると……
事実婚
申請対象の申請が出てこない

 朝倉さんが事実婚を選んだのは、「結婚したい、でもいまの法律婚だと不便」という気持ちゆえ。ただし朝倉さんは「事実婚は私たちにとってあくまでもベターな選択肢」と話します。いつか子どもをもうけることがあるかもしれない、命にかかわる病気になることがあるかもしれない。そうなったときは、法律婚を選ぶかもしれないと。

 「生活の実感としては、名字が違っても普通に妻で、普通に夫。ただ、やはり法律婚のほうが『普通』という気持ちはどこかにあります。日本で『夫婦になりたい。でも法律婚は何か違う』と思ったときに取れる選択肢は今のところほとんどありません。選択的夫婦別姓や、フランスのPACS(パートナーシップ制度)に近いものなど、結婚の選択肢が増えてほしいなと思っています」


事実婚
【参考】非法律婚(事実婚など)を選択するカップルの動機のトップ2は「夫婦別姓を通すため」「戸籍制度に反対だから」(善積京子「選択動機から見た目本の非法律婚カップル」/1992〜93年調査)
事実婚
【参考】「入籍(法律婚)をせず事実婚でもかまわないと思う」と思う人は4人に1人。2016年→2018年で増えている(博報堂生活総研「生活定点」2018年調査

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