10月14日まで、Kindleが大型セールを実施しています。今回はボーイズラブ(BL)漫画の名門レーベル「onBLUEコミックス」から、イチオシの作品をご紹介します。今回のセール対象作品は、その多くが半額以下になっています!
「onBLUEは全部読め」ということわざがあるように、onBLUEコミックスは名作ぞろいです。そういうことわざがありますよね? あるということにしておいてください。
渾名をくれ(新井煮干し子)
まずはこれを読みましょう。何も言わずにこれを読んでほしいです。これはもはや「お願い」です。
「ぽっと出のスーパースター」にして超人気モデルのジョゼは、恋人であるイラストレーターの天羽と同居していますが、その関係性はどこかいびつです。ジョゼは天羽と対等に求め合い、愛し合うことを望んでいましたが、天羽はジョゼを心の底から「信仰」しており、自分とジョゼが同じ単位で存在している人間だとは一切考えていなかったのです。
ジョゼになら何をされてもいい、ジョゼが望むことであればなんでもする、しかし自分からは何一つ求めない。天羽の愛はジョゼの形に膠着しています。しかしある日、ジョゼの後輩が偶然ふたりの暮らす家に飛び込んできたことから、何かが変わり始めます……。
閉じた二者関係に不意に風が吹く瞬間のひりひりとした希望を、見事に描き切った名作です。人間関係について考えたい全ての人に推薦します。
GATAPISHI(新井煮干し子)
新井煮干し子作品は全部読みましょう。体にいいからです。何の根拠もありませんが、筆者は冗談でなくそう思っています。
仏教系の中高一貫校に外部から入学してきた阿野は、美しい容姿と気難しい内面を持つクラスメイト・瑞泉に一目ぼれ。どうにかして瑞泉に近づこうとする必死な阿野ですが、瑞泉は阿野の好意をもてあそんだり振り回したりと、危うい態度を取り続けます。しかし阿野のまっすぐな気持ちは、瑞泉の心の壁も次第に溶かし始め……。
表紙の美しさの通り、非常に清々しくわずかに苦い、青春BLの名作です。性描写も重くないので、普段BLを読まない人も手に取りやすいと思います!
ワンルームエンジェル(はらだ)
帯の「BL臨界点」というアオリ文に、嘘はないと思います。今やBLマンガ業界のスター作家であるはらだ先生の代表作と言える作品です。
主人公は汚いワンルームのアパートで暮らす30代のコンビニ店員・幸紀。「人生、クソ」と言い切りながら暮らしていた彼の部屋に、ある事件をきっかけとしてひとりの天使が舞い込んできます。比喩ではなく、本物の天使です。天使は記憶をなくし、その羽も傷ついていました。
天使は近くにいる人の感情を過敏に受け取る性質があるため、回復するためには幸紀から幸せな感情を感受する必要がある、と天使は言います。「飛べるようになるまでつきあってもらっていいですか」。こうして幸紀と天使の不思議な共同生活が幕を開けるのです。
天使と幸紀がカップルになるとか、恋愛をするとか、そのような言葉で説明のできる物語では全くありません。ただ人間が救われる過程を真摯に描くものです。誰もが泣けるとは決して言いませんが、少なくとも筆者は泣きました。
マイリトルインフェルノ(朝田ねむい)
東京の志望校に不合格となり、不本意に地元の大学に通ううだつの上がらない大学生・仁のところに、ある日突然暴力的な形で見知らぬ男が転がり込んできます。明らかに裏稼業で生きているその男の名前は「まーくん」。仁はまーくんに脅されながら自宅にまーくんをかくまうことになりますが、次第にまーくんとの間に不思議な愛着が芽生え始めます。
本作はまーくんと仁がありえない出会いからラブリーな関係に変転していく過程を描くサスペンス&ラブストーリーでもありますが、同時にまーくんの元相棒・「ナカモト」とまーくんの決定的な破局を描くまでの物語であり、筆者はこの関係に魅了されました。
ラストシーン、「マイリトルインフェルノ」というタイトルの意味が判明するとき、読者はきっとその業火が世界一チャーミングに見えるはずです。
25時、赤坂で(夏野寛子)
人気俳優と新人俳優が男性同士の恋愛を描くドラマの撮影をきっかけに急接近する、芸能界BLです。
新人俳優・白崎由岐は、ある日男性同士の恋愛を描くドラマ「昼のゆめ」の主役に抜擢されます。明かされた相手役は、大学時代の先輩で超人気俳優の羽山麻水でした。初めての大役、初めてのゲイ役に気合をみなぎらせた由岐は、ある偶然から「役作り」のために羽山と関係を持つことに……。
とにかく美しい絵柄に加え、人物の掘り下げも巧みな作品です。いいたいことは遠慮なく伝えてしまう由岐と、モテすぎて一周回って恋愛がわからなくなっている羽山、どちらも非常に魅力的に描かれています。
今回は値下げ対象になっていませんが、2巻も配信されています。
冬知らずの恋(夏野寛子)
夏野寛子作品からもう1作、こちらはいとこ同士の長い片思いを題材にした青春BLです。
主人公は高校生の愁人。最近の悩みは、隣の部屋に住むいとこの千紘が、「自分の部屋は暑くて眠れない」と言って頻繁に愁人のベッドに入ってくることでした。千紘に思いを寄せる愁人をよそに、千紘は彼女を作り、関係を進展させていきます。もうこの恋はかなわないのかと思った矢先、千紘が偶然愁人の気持ちに決定的に気付いてしまい……。
世間の「正しさ」に傷つき、関係の距離に迷いながら始まる、ほろ苦くもかわいい恋愛を描くラブストーリーです。
新装版 イルミナシオン(ヤマシタトモコ)
人間関係の難しさを難しいまま描くことにかけては右に出る者のない、ヤマシタトモコの名作短編集です。
表題作「イルミナシオン」は、女好きの幼馴染・小矢に恋する公務員・幹田と、幹田に恋するバーテンダー・洲戸の三角関係を描く物語です。このほかにも、幼馴染に結ばれない恋を告白する「ラブとかいうらしい」、亡くなった1人の青年・七辺洋平について周囲の人たちが回顧する「あの人のこと」など、「ほろ苦い」というより普通に「苦い」、どうにもならない関係性を描く作品が詰まっています。
ふたりが付き合ってハッピーエンド、という流れはとても「美しい」ですが、一方で現実はそのようなドラマにはなっておらず、どこかで決定的にほころびを抱えたまま続いたり、突然終わりを迎えたりするものです。ヤマシタトモコが描こうとしているのも、そのような「平凡な現実」なのだと思います。
お遊びはそこまで(松本ミーコハウス)
松本ミーコハウス『美しい野菜』(こちらもセール対象です)のスピンオフという立ち位置ですが、この作品単体でも読むことができます。面倒くさい大人の恋愛が好きな人には文句なしに勧められる作品です。
酒なしには眠れず、妻の出ていった広い部屋で一人暮らすひねくれものの文芸編集者・工藤は、偶然同業者である久川と性行為に及んでしまいます。工藤は予想外の相性を実感しながら、いい大人同士、セフレのままでよいと思っていましたが、久川は本気に。どうにかはぐらかそうとする工藤ですが、久川が自分だけに向けてくる熱視線に押し負けていきます。
大人の「お遊び」で始めた関係が本気に変わっていく過程を描く、エロティックな大人のボーイズラブです。
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