家から出られないなら「家に帰れない人の映画」を見よう 宇宙に90年独りぼっちの人、電話ボックスに閉じ込められた人←こいつらよかマシ
性格の悪い対処法で外出自粛を乗り切る。
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)が再び猛威を振るう冬。僕みたいな人間は生きて地面を踏ませてもらえるだけでありがたいのですが、例えば医療に従事する方、介護に携わる方、とにかく感染拡大の影響を受けまくっているであろう全ての労働者の方々にとって、非常につらい状況でしょう。映画業界でも各劇場が前売り券の販売を自粛してしまいました。
ウイルスを少しでも抑え込むには、ひとりひとりの感染予防が非常に重要です。本来ならばクリスマス、お正月、成人式と楽しいイベントが重なるこの時期に、泣く泣く外出自粛を選んだ方も多いはず。たまの休みに窓から晴れ空を見上げるだけというのは何と退屈なことでしょうか。
そんなときは「家に帰れなくてつらい人が登場する映画」を観ましょう。つらいときすべきことは何か。もっとつらい人を見ることです。性格の悪い対処法ですが、映画の良いところは“フィクションである”という点。気兼ねなく「こいつよりはマシ」という気持ちになって、このコロナ禍を乗り切りましょう。
「パッセンジャー」
地球の環境問題により、宇宙移住を希望する乗客5000人を乗せた大型宇宙船アヴァロン。惑星に到着するまでの120年間、乗客たちはそれぞれのポッドで冷凍睡眠にふけっていた。そんな中、到着まで残り90年を残した時点で1人の男が目を覚ましてしまう。再び冷凍睡眠に戻ることもできず、この船で寿命を迎えてしまうと悟った男は、徐々に精神を病みはじめ……。
少し前に日本でも劇場公開された、クリス・プラット、ジェニファー・ローレンスという激熱スター共演の有名作品。あんまり有名すぎる作品を紹介したくはありませんが、本作はかわいそう度がかなり高いため言及させていただきたい。
修学旅行なんかで、皆が寝ているあいだに自分だけ目を覚ましてしまったときの、あの孤独感、あるじゃないですか。この主人公は、それが90年続くのです。ず〜〜〜っとひとり。宇宙の彼方で。新しい惑星も見られぬまま、孤独に寿命を迎えるのです。見えざる存在によって選ばれたわけでも、誰かの仕組んだ陰謀でもない。たかが機械の不具合で、永遠の孤独をつきつけられてしまうのです。
そんな運命を背負って数年間も過ごした男が、ある禁断の選択をしてしまうのも、無理はないのかもしれません。なぜだか本作はあろうことかタイタニックを引き合いに出し、ラブロマンスを強調して売り出されていましたが、とんでもありません。この映画を見て「はあ〜ステキ☆」などと能天気な感想を吐く人はいないでしょう。実際は極限の倫理に踏み込んだ非常に挑戦的な作品なのです。
宇宙のかなたで孤独に寿命を迎えるこの男は本当にかわいそうですが、幸いにもわれわれは地球にいます。たとえコロナの収束に10年かかったとしても、彼の90年に比べればかわいいものです。
「フォーン・ブース」
携帯電話が普及し、徐々に公衆電話の利用が少なくなっていた21世紀初頭のニューヨーク。横柄で傲慢なメディアコンサルタントのスチュは、既婚の身でありながら恋仲になろうとしている若手女優との連絡に公衆電話を使っていた。ある日、いつものように電話ボックスに入ると、なぜか目の前の電話が鳴り始める。反射で電話に出てしまったスチュは「この電話を切ったら殺す」と脅迫を受け……。
こちらも、シチュエーションスリラーの名作としてよく名前の挙がる作品。現役バリバリのフィルムメーカーだったジョエル・シュマッカー監督による、下からなめまわすようなニューヨークの乱雑な景色の印象深さ、そして電話ボックスだけを舞台としながらもなおアクティブな活劇が80分の尺にギュッと詰まったまさに良作です。
若干の消化不良感や、細かいツッコミどころなど、欠点が無いわけではありませんが、電話ボックスの正方形から出られない主人公を憐れんで楽しむ程度であれば十二分に楽しめる映画なのは間違いありません。自己中心的で冷徹で気に食わないけど、死んでほしいとまでは思わない、という絶妙なバランスを演じるコリン・ファレルも見事。
家に帰れないどころか、電話ボックスから出ると殺されてしまう主人公は大変かわいそうです。われわれはどうでしょう。なんと家にいるのです。スナイパーに狙われてもいません。電話ボックスより狭い家に住んでいるわけでもない限り、この男から元気をもらえるはずです。
「フローズン」
雪山へスキーにやってきたダン、ジョー、パーカーの3人。閉園時間を過ぎているにもかかわらず、強引にスキーリフトに乗り込んだ3人だったが、事情を知らない係員がリフトの電源を止めてしまい、リフトに取り残されてしまう。極寒の中で、何とか脱出しようと奮闘するが……。
スキー場のリフトに取り残された! しかも次にスキー場が開くのは1週間後……というお話。かなり自業自得なのでちょっと感情移入しづらいんですが、顔が凍って真っ白になっていく様はさすがにかわいそうです。
そんな密室(?)劇の見応えもさることながら、ちょっとした細かいグロ描写も健在。凍った鉄の手すりに皮膚がくっついてしまうシーンは「そんなとこに手置かないだろ」というマジレスも忘れてしまうほど痛い!
色んな策を講じてみるもうまくいかない一行は徐々に体力と気力を奪われて行き、残された選択肢はひとつ……。となった後、さらに絶望をもたらす展開が。ここで一転してホラー映画へと突入する流れもバカっぽいながら盛り上がります。おもしろいですよ。
彼らは極寒の雪山で宙ぶらりん状態なわけですが、われわれは暖かい部屋で床に腰を下ろせるのです。暖房をガンガンに効かせて、彼らが喉から手が出るほど欲しいであろう上着をおもくそ脱いでやりましょう。
「トライアングル」
自閉症の息子を持ち、自身も多大なストレスを抱えているシングルマザーのジェス。友人たちにセーリングに誘われ、気乗りしないままヨットに乗り込むと、嵐に見舞われ転覆、遭難してしまう。海の真ん中で絶望する一行の前に豪華客船が現れ、助けが来たと乗り込むと、船内にはマスクをつけた殺人鬼がいた……。
ジャケットにデカデカと書かれているので最初の展開だけネタバレしてしまうと、殺人鬼の正体はもうひとりの自分だったというお話。何とか自分自身をやっつけると、外にはヨットで遭難している自分たちの姿が……。
そこからは怒涛(どとう)の展開。非常に恐ろしくも興味深いお話です。ハードな残酷描写もさることながら、その伏線の数々、丁寧な人物描写と、ホラー映画としてのみならずループ系スリラーの傑作群に連なる作品といえるでしょう。
ただでさえ海の真ん中にいて家に帰れないのに、さらに時間の渦にまで閉じ込められてしまった主人公。あっという間の1年だった……と悔いを残す方も多い時期ですが、時間が真っすぐ進んでいることに感謝すべきです。
「ザ・サンド」
ビーチで盛大なパーティを開いた若者たち。翌朝、砂浜で目を覚ました彼らは、グループのひとりが砂浜に飲み込まれるのを目撃する。砂浜自体が人間を食い始めたと気付いた彼らは、砂に足を付けないよう、決死の脱出を図るが……。
砂浜に落ちた人間は、触手に飲み込まれ、切り刻まれて血みどろとなり、砂のエサとなってしまうという、映画ってもうほんとに何でもアリなんすね、と思わせてくれる一作。それ以上のモノは何も提供してくれませんが、そのアホな設定の分は間違いなく楽しめる珍作。本当にそれ以上のモノは何も提供してくれないぞ。
ビーチで盛大なパーティを開いて砂浜で寝るようなヤツらなので、本当にどいつもこいつも使い物にならないアホばかり……と思いきや、女性たちがリーダーシップを発揮し、勇敢な一面を見せる姿も。パニックホラーは男性キャラが中心になりがちなので、女性の活躍はうれしいですね。というかこの話、男はまったく使い物になりません(1人はバケツにハマっていて終始動けない)。
地面に足をつけると砂に食い殺されてしまう彼ら。ちょっと特殊な状況すぎてかわいそうとかよくわかりませんが、ともかくわれわれは当然砂に食い殺されることはありません。砂に食い殺されないのです。なんて幸せなのでしょう。
「デッド/エンド」
旅の途中で車が故障し、荒野のど真ん中に取り残されてしまったミッチェルとカーター。40度を超える猛暑の中、親友同士であった2人の関係性は徐々にほころびを見せ始め……。
荒野(砂漠)は最悪です。昼は死ぬほど暑くて、夜は死ぬほど寒い。水も無ければ食料も無い。あるのは、ただひたすらに続くその広大な地平線だけ。あらゆる場所の中でも、屈指の遭難したくなさなのは間違いないでしょう。
そんな場所に放り出されてしまった2人。町までは約100キロ。水も食料もなし。相棒は親友でありながら、犬猿の仲でもある存在。さあ、どうする――!?
……と、スリリングなDEAD or ALIVEが繰り広げられそうな出だしですが、実は本作はサスペンス風な不条理コメディ。まあコメディと言えるほど能天気ではないのですが、基本的に2人の会話だけで話が進む、典型的な低予算映画。しかし、その脚本・せりふ回しのセンスの素晴らしさ、そして彼らを演じるジョシュ・デュアメルとダン・フォグラーというダブルスターの華もあって、まったく退屈することがありません。全編とにかくセンスが良いんですよ。オチもクールに決まっていて、脚本だけでここまで面白くさせる、まさに低予算映画のお手本のような作品です。
そんな感じなので、ジャケットから想像するような内容ではないことを分かった上で鑑賞していただければきっと楽しめるはず。見ているだけでノドが乾いてくるような地獄を味わう滑稽な彼らの姿を、思う存分楽しんでやりましょう。
冬本番で寒さも厳しくなってきましたが、日本は昼だけ猛暑が襲ってきたりしません。昼も夜も同様に寒いのです。昼も夜も寒いなんて、いったいどれほど幸せなことでしょうか。
2021年を迎えても、いまだ収束する気配の無いコロナ禍。これからも不安定な時期が続くかもしれませんが、つらいときは映画に逃げてみましょう。映画はいつでもあなたの味方です。砂が人間を食い殺す様を見て元気にはなれないでしょうが、自身の“生”を感じることができます。生きる活力だけは絶やさないようにしてくださいね。
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