東日本大震災の被災地で、写真スタジオのスタッフとして働いていた経験を描いた漫画が、写真や撮影を通して見える大人や子どもの気持ちを考える機会となり、震災や防災と向き合わせてくれます。
作者のあいしま(@setup_setup)さんは、東日本大震災の被災地在住で、当時は地元の写真スタジオで撮影アシスタント兼デザイナーとして働いていました。自宅や職場は津波の被害を免れ、仕事が数週間して再開したこともあり、いまいち事の重大さを実感できなかったといいます。
しかし日がたつと上司から「これから信じられないくらい忙しくなるからな」との言葉が。遺影写真の依頼がたくさん入ってきたのです。気の毒だと思いながら、たくさんの遺影を作る日々が続きます。
しばらくして、珍しく入学記念のスタジオ撮影の仕事が入りました。依頼した女性の手には、あいしまさんが手がけた夫の遺影が。入学式を迎える子どもの顔に笑顔はなく、カメラに目線を向けてもらうのが精一杯の記念撮影を前に、震災によって起きた現実に直面します。
その後も数え切れないほどの遺影写真を作ったあいしまさん。完成した写真を見ても息子の死を受け入れられず「何度も作り直しを頼む人」や、証明写真くらいしか手元に残っておらず、もっと写真を撮るべきだったと後悔していた人などと出会います。中でもつらかったのは、一緒に撮影した子が亡くなったことだといいます。
あいしまさんの心にもう一つ残っている入学記念撮影は、父親と小学生の女の子のものでした。震災で母親と生まれたばかりの弟を亡くしたその子は、ランドセルを背負いながら、表情を変えることなく、入学記念の撮影を行いました。
笑顔になれない子どもたちと出会うなかで、あいしまさんは「卒業式に袴姿での撮影を予定していたけれどキャンセルした小学生」「学校から帰れずご遺体を運ぶ手伝いをした高校生」など、つらい思いをした子どもたちに想いをはせていきます。その出会いは10年経っても忘れることはできず、震災を経験した子どもたちは何歳になったのか、笑って過ごせているのか、今でも考えるといいます。
あいしまさんは、「被災地に住む人間からお願い」として、1分でもいいから家族やパートナーと防災について考えて話してほしいと締めくくりました。大規模な災害はイメージがわきづらいためか、地震発生直後危険な場所にいる人へ避難を呼びかけても、理解してもらえなかったといいます。日頃から危機を想定することの大切さを思い知らされる実体験です。さまざまな感情が浮かび上がる出来事ですが、漫画で描かれるあいしまさんの記憶や感情が、10年の節目に今一度振り返る機会を与えてくれます。
作品提供:あいしま(@setup_setup)さん
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