分岐する文字を辿りながらストーリーを読み進める「おはなし迷路」が、SNSをきっかけに大きな注目を集めています。大人も子どももハマる作品の魅力とは――ねとらぼ編集部が取材しました。
注目を集めているのは、『京都府警あやかし課の事件簿』などの作品で知られる作家・天花寺さやかさんが投稿したツイート。
「とある児童施設で見つけた迷路なんですが、めっちゃ面白い……! 間違った道を辿ると変な物語になって行き止まりになるんだぜ!!(笑)物語を辿りながら迷路って、良いアイデアですよね」と、「おはなし迷路」に出会い、自身が遊んでみたときの楽しい気持ちを投稿したところ、「おはなし迷路」を懐かしむ声や、作者の情報などが次々に寄せられて大きな話題になりました。
「おはなし迷路」とは昔話をベースとしたお話が楽しめる迷路で、読み進めていくうちにいくつかの分岐を選ぶことができるのが特徴。
例えば、牛若丸の場合、正規のストーリールートを選択できなかった場合は、「(弁慶ではなく)弁当売り」が登場したり、「(弁慶が)鉄のリサイクルのため」にと通行人の刀を取りあげたり、「バターになってしまった」りと、誤ったルートでも楽しいお話になっています。
大人も子どももハマる「おはなし迷路」の魅力とは
「おはなし迷路」の作者は、累計170万部を超えるベストセラー『ミルキー杉山のあなたも名探偵』シリーズの作者としても知られる杉山亮さん。保父、おもちゃ作家、児童書作家、さまざまな分野で活躍する杉山さんを取材しました。
――「おはなし迷路」がTwitterで大きな話題となっています。
杉山:天花寺さやかさんが注目してくださったおかげで、「おはなし迷路」の絵はがきを扱ってくれているお店にも注文が入ったとのことで、ありがたく思っています。
1作目となる「あかずきん」のポスターは1993年に制作したもので、「おはなし迷路」には実はとても古い歴史があります。今から28年も前のことですね。
それから時々思いついたように描き足して、現在は、小学1年生から遊べるように全てがひらがなのもの、漢字にふりがなをつけたものなど、販売用のポスターが10作品あります。それから手書き原稿の絵はがきが2セット。(1セット6枚入り)と、コピー権付きのA4(6枚)セットがあります。
――「おはなし迷路」制作のきっかけを教えてください。
杉山:江戸時代のころから「おもちゃ絵」というジャンルがあります。1枚の紙におもしろさを封じ込めたものであり、いわゆるすごろく、福笑い、組み立ての紙工作などで、おもちゃと本の中間の位置づけです。
30代ではおもちゃ作家をやっていましたが、素材にこだわらずに「これは木で作るとおもしろい、これは日用品のリサイクル工作でいい」といった形で、そのおもしろさを表現するのに一番適した素材がいい素材だと考えてきました。
そんな中、おはなしがどんどん変わっていくおもしろさと迷路のおもしろさの組み合わせは、紙の中で印刷物として作るのが一番良いと考え、「おはなし迷路」が誕生しました。
――目指した世界観はありますか。
杉山:迷路は好きです。でも、ただ、むずかしければいいというのは好きではなく、昔も今も作る気はありません。
ほしいのは迷路的な雰囲気のようなものです。もちろん、児童書作家としてたくさん物語の本は書いてきたのでものがたりは大好きですから、その両方で「あわせて一本!」というのを目指しました。
――長く愛されてきたからこそお悩みはありますか。
杉山:おはなし迷路はもともと誰もが知っているお話をベースに作るのですが、その「誰もが知っているはずの昔話」がどんどんなくなってきていることには少し困っています。
例えば小学校では「ももたろう」のお供の動物3匹がわからない子が増えています。本筋を知っていれば、ちょっと見ただけで「このルートは違いそうだ」と入り口で予測がつきますし、こちらはその裏をかいて話を作っていけるのですが、もともとのストーリーを知らないのでどこの道にも平気で入ってくるため、パロディーがパロディーになりません。
少しまじめにいうと、共通のものがたりをなくすというのはとてもこわいことです。
――今回のツイートをきっかけに「おはなし迷路」を懐かしむ声も多く聞かれました。
杉山:書店で売られていないので気付かない方が多いのですが、学校や図書館には結構貼ってあり、ポスターは細く長く8万枚ほど売れています。
自分がおもしろがって作っているものですが、ベストセラーにしてブームになったはいいが、その後すぐ飽きられてすたれてしまうものも多い世相です。知る人ぞ知るという形で、自分と妻がそこそこ食べていければいいロングセラーでいきたいと思っていたのですが、実際にそうなったように思います。
ただ、いまだに知らない人の方が圧倒的に多く、時々こうして「おもしろいもの発見」と紹介していただくのは潜在的なファンがまだまだいるという証明になるので、ありがたいことです。
――最後に一言お願いします。
杉山:字が多いので1人では見ただけで挫折する子もいると思います。だから“おもしろがり上手”な大人がいっしょになって指を差しながら遊ぶのも良いと思います。そうやって“おもしろがり上手”になっていってもらいたいです。
「おはなし迷路」及び『ミルキー杉山のあなたも名探偵』シリーズは、「杉山亮のなぞなぞ工房」の公式サイトにて購入可能。気になる場合はサイトをのぞいてみると良さそうです。
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