だが、かわいらしい絵柄のアニメになったためでもあるのか、シュールでゆるいおかしみは、むしろパワーアップしている。基本プロットはほぼ同じでも細かな違いはたっぷりとあるので、「不思議惑星キン・ザ・ザ」と「クー!キン・ザ・ザ」が同時上映されている劇場で、見比べてみるのも楽しいだろう。
なお、アップリンク吉祥寺のロビーでは、「不思議惑星キン・ザ・ザ」における2メートル超の巨大宇宙船も出現している。きっとその大きさと実在感に、圧倒されるだろう。
なお、「不思議惑星キン・ザ・ザ」は、現在も口コミでロングランヒットを記録しているストップモーションアニメ映画「JUNK HEAD」の堀貴秀監督が強い影響を受けたと公言している。シュールな雰囲気や、どこかとぼけていてかわいいキャラクターなどに共通点を見い出せるので、こちらも合わせて見てみるのがおすすめだ。
代名詞といえる「クー!」とは?
「不思議惑星キン・ザ・ザ」および「クー!キン・ザ・ザ」の代名詞的な存在が「クー!」という叫び声だ。
これは宇宙人たちが使う、あらゆる名詞・形容詞・副詞・感嘆詞などを指す言葉(ただし罵倒語だけは「キュー」)。何でも「クー!」で物事を済ませようとする振る舞いが、かわいらしいと同時にやはりおかしみに満ちていて、見た後は「クー!」とマネをしたくなってしまう。
ただ、宇宙人たちは地球人の脳をスキャンして思考を読み取るテレパシー能力を持っているため、ロシア語の会話もあっさりとこなすことができる。「クーしか言えないかとおもいきや普通に意思疎通できるやんけ!」はシュールなツッコミどころでもあるが、それでも肝心な時には「クー!」だけで会話をしようとするので、やはりかわいらしくてほっこりと笑顔になれる。
身分制度の痛烈な風刺も?
シュールなギャグが主体のこの「クー!キン・ザ・ザ」であるが、実は身分制度への痛烈な風刺もある。
例えば、社会的地位がズボンの色により区別されており、緑色は下級者、黄色は偉い人、そして赤いズボンはエリートとされている。さらに、下級者は上級者への忠誠の誓いとして、鈴を鼻につけ、自分の頬を2度たたき、膝を曲げて「クー!」のあいさつをしなくてはならないなど、独特なルールが設けられているのだ。
1986年製作の実写版「不思議惑星キン・ザ・ザ」は「表向きは平等を唱えていた社会主義体制下のソ連の政治体制を皮肉めいた視点で描いている」と評されてもおり、当時の「鉄のカーテン」を示唆する場面もあった。
現代に作られた「クー!キン・ザ・ザ」は携帯電話の他、「出稼ぎの外国人労働者」という現代的な事象も描かれるようになり、惑星での社会的地位の格差が、富裕層と貧困層の分断が顕在化した今のロシアの(または世界中にある)問題を、改めて痛烈に皮肉っていると言っていいだろう。
また、これまでゆるい、ほっこりするなどと作品の印象を書いてきたが、前述したかわいらしい「クー!」のあいさつにさえも、身分制度にまつわる問題が見て取れるという、社会派かつ多層的な構造がある。
さらに、おかしな道中の先には意外な展開が待ち受けており、唐突に見える展開にも実は周到な伏線が用意されていたりする。何となく見ているだけでも楽しいが、作品のディテールを探ってみると奥深い内容であることも分かることだろう。
なお、「不思議惑星キン・ザ・ザ」および「クー!キン・ザ・ザ」で監督を務めたゲオルギー・ダネリヤは2019年に88歳で逝去した。今回の「クー!キン・ザ・ザ」の日本公開には、監督への追悼の意味も込められているのだろう(事実、その命日である4月4日に先行公開もされていた)。ぜひ、ヘンテコだが奥深い、一風も二風も変わった映画を期待して、劇場で見ていただきたい。
(ヒナタカ)
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