都市部の私鉄に乗ると、ふと小さな前照灯が光っているのを見かけます。それがない路線もあります。ヘッドライトにしては暗くて小さいようですが……。実はこんなところにも「へぇ」な秘密があります。
京阪神を結ぶ阪急電車を見てみましょう。「すみっコぐらし号」の前面、顔に例えるとほっぺたあたり、「1016」と「すみっコぐらし号」とある文字の下に2つ小さくライトが点灯しています。
前をガッと照らすヘッドライトはおでこあたりにあります。このように周囲を照らすためのライトにしては光量が足りない気がします。
一方、普通大阪梅田行きの電車はどうでしょう。同じ場所にライトはあります。しかし点灯はしていません。運転士の気まぐれで、付けたり消したりしているのでしょうか。まさかそんなはずはありません。
このライトは「標識灯」、あるいは「通過標識灯」「急行灯」などと言われます。
阪急電鉄では、特急系(快速特急や快速急行)は「2標識灯」、急行系(準急、快速)は「1標識灯」、普通は「点灯なし」として列車種別を分けています。地上係員がこれを見分けて列車種別を確認するためにあります。
ちなみに近鉄ではさらに細かく、急行と区間急行は「正面に向かって右側の標識灯」を、準急と区間準急は「左側の標識灯を点灯」させます。鉄道事業者別に意外とバラバラです。
筆者は8年前まで阪急電鉄でアルバイト(押し屋:朝夕のラッシュ時に、列車の扉に挟まりかかった乗客や荷物を車内へ押し込む係員)をやっていました。来た列車が何か、パッと見で種別を判別できるのですから、このときは本当に助かりました。
「標識灯」は鉄道誕生間もなく登場、長い歴史アリ
標識灯は鉄道ができたばかりの英国で、ダイヤが乱れた際、係員が容易に列車種別を判別できるように設置した白色標識がはじまりといわれています。長きにわたり鉄道作業員をサポートしてきた大切な機能です。
関東大手私鉄にも、京急、京王、京成に標識灯があります。
なお、標識灯は法規で義務付けられているものではないので、設置していない鉄道会社もあります。むしろそれほど多くはありません。JRはほとんど採用していません。
もっとも、乗客としてこれからやってくる列車の種別を知りたいならば、列車が来るのを待たずとも時刻表やホームの発車票を見ればすぐ分かります(笑)。
また、「見たい」からと言って、白線、ホームからはみ出して覗くのは極めて危険です。くれぐれも電車が止まっているとき、正面から見られるターミナル駅など、安全を十分に確認した上で探してみてくださいね。
新田浩之(にったひろし)
1987年神戸市生まれ。関西大学文学部卒、神戸大学大学院国際文化学研究科修了。主に鉄道と中欧、東欧、ロシアの旅行に関する記事を執筆。2018年からチェコ政府観光局公認の「チェコ親善アンバサダー2018」を務める
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