日本に伝わる妖怪のひとつ「通り悪魔」。通りすがった人物に取り憑いて乱心させる恐ろしい怪異で、「通り魔」の語源になったとされています。
今回ご紹介する作品は、そんな“怪異の通り道”にまつわる奇妙な体験談。作者は文太(@bunta_50)さんです。
文太さんの実家のお話。その家の裏口は「黒い影のような何か」の通り道になっていました。裏口がある一画は洗濯機置き場になっており、リビングからよく見えるため、家族全員がその「何か」を目撃していたとのこと。
ある日、文太さんがリビングでひとり過ごしていたところ、裏口の部屋から視線を感じます。振り向くと、半開きの扉から見覚えのない男性が覗いており、文太さんは「どこかの業者さんが間違えて入ってきたのでは」と思ったのですが……短い会話の後、男性はお風呂場へと向かい、そのまま姿を消してしまったのです。
理由は分かりませんが、それまで黒い影のようだった「何か」と初めてコミュニケーションが取れた瞬間でした。その日から文太さんは、裏口の部屋を通る影を見ても、あまり怖いとは思わなくなったそうです。……あの日までは。
それからしばらくたった、夏休みの昼下がり。またもリビングでひとり過ごしていると、裏口の部屋から物音が聞こえてきます。ふと目を向けた文太さんが見たのは、洗濯機の上の洗面器を人差し指で押す「手」でした。
それを認識した瞬間、文太さんに異変が起きます。全身が怖気立ち、呼吸ができなくなり、なぜか悲しくなって涙が溢れ……そして「あの手が押している洗面器が落ちると同時に、自分は死ぬ」と直観したのです。
次の瞬間、文太さんは家から飛び出し、はだしのまま全力で逃げていました。あまりの恐怖からその日は、家族が帰ってくるまで家に近寄れなかったといいます。
時折部屋を横切る影は、言葉を交わした男性は、洗面器を押していた「手」はなんだったのか。それらの正体も目的もまったく分かりませんが、ただひとつだけ確かなのは、今でも裏口の部屋には時々「黒い影」が現れる、ということです。
作品提供:文太(@bunta_50)さん記事:たけしな竜美(@t23_tksn)
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