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イチジョウは“20歳前後のつらかった俺たち” 『上京生活録イチジョウ』原作者&担当編集インタビュー(2/2 ページ)

圧倒的“上京物語”はこうして生まれた。

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ねとらぼ


Twitterで行っていた「上京生活録」というタイトルを伏せて何禄かを当てるキャンペーンの正解者はいたんですか? 当てた方に担当が御礼の電話をするという。


担当村松


ドンズバはいなくて。よく考えたら確かに難しいですよね。でも、近い方がいらっしゃったのでその方に電話しました。めちゃくちゃ優しい方でした。


ねとらぼ


良かった。


萩原


イチジョウは連載まで来るのが大変だったという話を打ち合わせ中もよくしていたんですけど、なぜトネガワ、ハンチョウがやりやすくて、今回は悩んだかっていうと、原作で一条ってすでにブレてる。利根川や班長はポリシーがしっかりあるから、その裏側を描くとギャグになるんですけど、一条はすでに「バリバリいくぞ……いや、だめか」みたいな両面があるので、それをどう生かすかがめちゃくちゃ頭を悩ませました。


にゃるら


そのブレが一条の良いところですが、難しいところでもありますね。


萩原


はじめの数話はどういう方向性でいくのか模索しました。一条のキャラクターがつかめて、何を描けばいいかわかってからはわりとポンポンできています。もちろん難航するときはあって、それは大体一条が1人で話を進めているときで、深刻になりすぎちゃう。


にゃるら


なるほど。


萩原


ただただつらくなるだけで。だから、いかに村上やナレーションで一条をフォローしてあげるかを考えています。


ねとらぼ


以前にトネガワとハンチョウは萩原さん、村松さんの日記帳みたいなものだと伺いましたが、イチジョウはどんな感じでしょうか?


萩原


若い頃ってまだ未成熟というか、言葉をあまり選べないし、剥き身の自分と剥き身の相手でぶつかりあうところがある。まさに自分が上京したての頃そんな感じだったので、そのへんのことを思い出しながら、村松さんと昔話をして、それを種にしています。


にゃるら


等身大の若者らしさという意味では、大阪人とのすれ違いの回がすごく好きです。


イチジョウ
SNSで注目を集めた大阪回

担当村松


僕と萩原さんに、大阪の人に煮え湯を飲まされた共通体験があって(笑)。


にゃるら


(笑)。自転車だと東京が意外と狭いと感じるところも、すごいリアルでした。自分の世代って、まだトネガワほど社会を経験していないし、ハンチョウのように休日を中年らしくエンジョイもしていない。イチジョウの若々しさは10代後半や20代に響くので、すごくうれしいなと思って読んでいます。


萩原


まさしく、そう読んでもらえるのがうれしいです。イチジョウって境遇を考えたらハンチョウより自由なのに、若さゆえにめちゃめちゃ精神が不自由ということを描いてるんです。大槻たちは地上に24時間しかいられないけど、一条・村上に時間制限はない。それなのに不自由に生きているのがままならない。


にゃるら


気持ちはわかります。焦りだけがあって……。


担当村松


エネルギーもあるし、インプットもあるんだけど、アウトプットする手段がまだ与えられていない。なにやっていいのかわからないから膿んでくるというか。


にゃるら


自分の時代にはインターネットでアウトプットする選択肢があったので、一条が本編でTwitter始めたのはうれしかったです。こういう発言するよなって(笑)。

全員:(笑)

イチジョウ
一条のTwitter
イチジョウ
セリフが強い

担当村松


萩原さんはmixiで積極的に動いて大変な目にあったことがあるんですよね。


萩原


上京したてで四畳半に住んでいたとき、全然友達もいなくて、これは自分から動かねばダメだと。そうしたらmixiで、女性からメッセージが来たんですね。ちょっと怖い気持ちもありましたが、会ってみなきゃわからない。漫画家を目指しているしネタになるかな、友達できるかな……と考えていたら、この先はイチジョウで描いた通り。ネタバレになるので詳細は伏せます。


にゃるら


(笑)。


イチジョウ
12〜13話は実体験がベース

担当村松


つらい過去を漫画にして供養する、お焚き上げみたいな。


にゃるら


ハンチョウは楽しかった思い出で、イチジョウはつらかった思い出を……。


担当村松


そうですね(笑)。ハンチョウを打ち合わせするときに重視していたのは“原初的な喜び”があるかどうかでしたが、イチジョウでは「あのときの俺たちを救いに行く」という思いがあって。20歳前後のつらい気持ちを抱えていた自分たちが、イチジョウによって救われるというか。

【原初的な喜び】例:目の前にでかいハムが置かれていたら単純にうれしい。


ねとらぼ


いいはなしですね……。連載にあたって、カイジ本編の再読、いわゆる“聖書研究”はしたんですか?


萩原


しました。一条が高校時代の同級生に会う回想があって、あそこがめちゃくちゃ一条濃度が高いんです。


にゃるら


ありましたね。なるほど、そこから膨らませて……。


萩原


あそこにはやっぱり詰まっていて。ちょっとトイレへと席を立ち、盗聴器を仕掛けて自分の悪口を聞く。「覚えておけよ」「オレが得たシェルターに…おまえら及びおまえらの家族は絶対に入れないっ……!」と。


ねとらぼ


村上も本編ではそこまで情報量ないはずなのに、とてもリアルになっていてすごいです。


萩原


やっぱり一条が若者特有の「成功しなければ」「出し抜かなければ」という業のようなものを背負ったキャラなので。一条自身は気付いてないかもしれないけど、村上という存在は対照的です。一条と一緒に居るにはそういう性格じゃなければ無理でしょう。


ねとらぼ


村上がいることで一条のキャラが際立つんですね。余談ですが、雑誌の表紙が遊び心あるというか、『きのう何食べた?』と似ていました。あれは連絡とりあっていたんですか。


【『きのう何食べた?』と似ていました】モーニングの人気料理漫画『きのう何食べた?』(よしながふみ)。21年8〜9号、13〜14号の表紙で、同作とイチジョウが妙に連動していたため、SNSで注目を集めていた


萩原


完全なる偶然みたいです。


担当村松


表紙なので季節感を重要視するじゃないですか。連載開始時は冬だったんで、こたつでドテラ着てみかん食べてるのがいいんじゃないかとなったら、『きのう何食べた?』もたまたま同じシチュエーションで。


モーニング 表紙モーニング 表紙 こたつでミカンが2週連続

ねとらぼ


13〜14号で服の色が似ていたのはアンサーだったんですか。


担当村松


あれも偶然です。春だから桜だろうと、漫画担当の三好さんがピンク色から逆算してキャラクターの服の色をカラーバランス的に選んでくれたと思うんですが、おそらく同じ理由で偶然被ったんだと思います。


モーニング 表紙モーニング 表紙 服のトーンがそっくり

にゃるら


おもしろいですね。いまモーニングはDCもやってて、『OH!MYコンブ ミドル』もあってカオス。雑誌的に元気な感じなんですか。


【DC】「スーパーマン」「ワンダーウーマン」「バットマン」などを生み出してきたアメリカの出版社DCコミックス。講談社と2019年秋から話し合いを重ね、モーニング誌上で2020年末から共同制作プロジェクトを開始した

【OH!MYコンブ ミドル】『コミックボンボン』で1990年〜1994年に連載していたグルメ漫画『OH!MYコンブ』(企画・監修:秋元康、漫画:かみやたかひろ)。前作から30年後の世界が舞台で、小学生だった主人公・コンブも40歳となって、酒の肴になる「リトルグルメ」を作る


担当村松


元気だと思います。新作がみんな調子よくて。


ねとらぼ


それはとても素晴らしいですね。これからも期待しております。


にゃるら


いろいろとお話が聞けて面白かったです。ありがとうございました。


萩原


ありがとうございました!


担当村松


ありがとうございました!

一言コメント

イチジョウ
第3話「投資」。「豆苗めっちゃいいじゃんって育てていました。実際は2〜3回しか採れないんですけど、育てていた当時はそれを知りませんでした」(萩原)
イチジョウ
第6話「鉄塔」。「取材で同じルートを自転車で走りました」(担当村松)
イチジョウ
第7話「回車」。「昔ハムスターを飼っていました。逃げ出したのを見て『あいつめ、よくやった!』と思ったことはないですが」(担当村松)
イチジョウ
第10話「軋轢」。「青菜を間違える回は、一条らしさがでたと思います。熟語調べは大変でしたが楽しかった」(萩原)
イチジョウ
「信じられないくらい四字熟語はあるんですね」(担当村松)
イチジョウ
第11話「表参」。「レベル1で強い魔物がでるところに行く感覚。なれてくるといなせるようになるけれど、それができないのが“上京生活”です」(萩原)
イチジョウ
「表参道に何もうらみはないです」(萩原)
イチジョウ
「利根川&一条、班長&利根川は過去にやっていて。ハンチョウを外からの視点で描けるチャンスでした」(萩原)
(C)Nobuyuki Fukumoto Tensei Hagiwawa Tomoki Miyoshi Yoshiaki SeTo /講談社
(C)Nobuyuki Fukumoto Tensei Hagiwawa Motomu Uehara Kazuya Arai/講談社


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