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『ちいかわ』が“幸福論を問う作品”であるという決定打 なぜ「オフィスグリコちゃんのカエル」でTwitterがどよめいたのかあのキャラに花束を(1/4 ページ)

ファンシーだけど、リアルでだいぶ辛いって『ちいかわ』読者はもう知っている。

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 とってもかわいい、Twitter発の漫画『ちいかわ』。今ではグッズも多数販売されあちこちで見掛ける人気キャラクターです。つぶらな瞳のかわいらしい姿は、作品は知らなくても一度は見たことがあるんじゃないでしょうか。

 マスコットが過ごす優しい世界っぽさのある『ちいかわ』。けれども『ちいかわ』をTwitterや単行本でちゃんと読んでいる読者はみんな、知っているはず。『ちいかわ』の世界は全然優しい世界じゃなくて、だいぶ過酷だということを。

 ちいかわ、ハチワレ、うさぎの仲良し三人を中心にした、メルヘンな作品なのは間違い有りません。作品の半分くらいは、この世界でのんびり過ごす3人のほんわかストーリーです。ただそのバックボーンになる世界観がだいぶハードコア。

 最近だとちいかわの更新と一緒に、『ゴールデンカムイ』の「不死身の杉元」がTwitterのトレンドに入るという珍事件もありました。人が死にまくる「ゴールデンカムイ」と一見全く関係なく見えますが、そもそも『ちいかわ』の世界は、かなり死と隣り合わせな環境です。

 「本当は怖いちいかわ」みたいな煽り記事を書くつもりはないです。『ちいかわ』に魅了された一読者として、この作品が持つヘビーな世界観と、そこに生きる者たちの弱くも強い輝きを追っていきたいと思います。

ライター:たまごまご

たまごまごプロフィール

道民ライター。マンガ・アニメ・VTuber・サブカルチャー中心に活動中。「MoguraVR」「クイックジャパンウェブ」「コミスペ!」「PASH!」「コンプティーク」などで執筆中。萌え系学習書を数冊出してます。好きなマンガは女の子が殴り合うやつ。
Twitter:https://twitter.com/tamagomago
ブログ:https://makaronisan.hatenablog.com/




リアルな日雇い労働

 『ちいかわ』が妙に生々しく見えるポイントの一つが、労働の描写。どちらかというと、しんどいものとして描れています。

 『ちいかわ』世界は日雇い制です。朝起きたら仕事をもらいにいき、何を行うか選択します。「草むしり」「シール貼り」「採取」「討伐」など仕事には難易度があり、大物討伐などきついものほど多くお金がもらえる仕組み。毎日労働することで日銭を稼ぎ、コツコツと溜めて暮らしている世界です。

 一部の例外(シーサーやパジャマパーティーズなど)を除き定職がないこともあり、労働自体に対して「頑張ろう!」という気持ちは個々にあるものの、やりがいを見つけて楽しんでいる様子ではないです。つらいけど頑張らなきゃ、という様子の子も見られます。

 ちゃんとそれなりの報酬があるし、仕事内容の選択もできるし、討伐には高い名誉もあるため、決してブラックではないです。かと言って労働の楽しさや幸福さの深堀りはされません。日がな一日ずっとシールを貼る仕事をするちいかわの姿は、どうにもリアル世界の仕事が思い出されてしんどい気持ちになります。

 どこに出資者がいるのかとか、統括しているのは何の組織なのかとか、謎だらけです。ちいかわたちをまとめているヨロイをまとった一族、通称鎧さんが何者かは現時点でも全く明かされていません。溜めたお金をちいかわたちが使うのは、これまた鎧さんが経営するいろいろなお店。キッザニアのように鎧さん経由で通貨が流通し、管理されているのか? 鎧さんがちいかわたちに仲良くなりすぎないように注意しているなど意味深なフラグもあるため、どうも何か隠されているようです。

 加えて労働にリアリティーがあるからこそ、ちいかわ世界のもっとディープな軸になる設定、討伐する側とされる側の関係性が引き立ちます。


危険すぎる討伐

 ちいかわ世界には、ちっちゃくてかわいいちいかわ層と、それらをまとめる鎧さん層、そして世界に危険をもたらす討伐対象層(正式な名前はない)の3つが主に種族として存在しています。

 討伐対象はかなり危険で、ちいかわ層に対してダイレクトに暴力を働いてきます。作中を見ていると、顔に消えない傷を追わせたり、耳をかじりちぎったり(パジャマパーティーズ回で実際に癒えない傷を負わせています)と、相当凶暴。ちいかわ層の子を食ったり殺したりするシーンは出てきませんが、大ケガさせたりひどく泣かせたりかじりついたりするシーンは多々出てきます。

 これを討伐するのが、労働の一つ。ちいかわとハチワレはおそろいの刺股を持って、たまに小さいものから平均程度くらいまで討伐にいき、お金をもらっています。勇気を振り絞って討伐を頑張ろうとする姿は、少年漫画的に描かれることもあるのでワクワクするシーンです。にしたって相手の生態が何なのか全く分からない状態で、仕事だからと戦っているというのはあまりにも不気味。小さい相手でも「擬態型」といって実際は凶悪な強さを持っている場合もあるので、全く気が抜けません。

 ちいかわ層側から見たら、討伐対象は「襲ってくる危険な存在」という感覚で、あまり「友達になれる」という見方はないようです。平気でケガさせてくる、コミュニケーションの取れない討伐対象が毎日迫ってくるちいかわたちの世界、生きていくのがしんどすぎる。なお討伐後は鎧さんたちが回収するようです。ここも謎。


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