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タイのオタクは「読む用・保存用・予備で3冊買う」 タイに進出して5年、KADOKAWA AMARIN社長にタイのオタク事情を聞いた(3/3 ページ)

タイのオタクシーン、激アツです。

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――それは、例えば「漫画村」みたいな違法サイトのようなイメージでしょうか。

 そうですね、違法な広告収入も多少得ていると思います。ただ、これがけっこう難しいところで……。基本的には「この作品をなんとかタイでも広めたい!」「応援したい!」っていう気持ちから翻訳している側面もあるんです。だから、こちらがちょっと言うとすぐ公開を取りやめるし、もうけようとしている空気がない。タイで日本のラノベや漫画が出版されていなかった時代の名残ということもあるのでしょう。

――そういった有志による活動ということでいうと、同人誌みたいなものってタイにはないんでしょうか?

 いわゆる同人誌形式のものはほぼないですね。タイの場合、オフラインでもpixivみたいな形でも、オタクが相互交流できる大規模なコミュニティーがないんですよね。ただ、イラストを描く人自体はたくさんいるので、その人たちがFacebookなどでイラストをアップして交流しているところはあります。ただ、タイって漫画を自分で描く人はほぼいないんです。

――それは何か理由があるんでしょうか?

 単純に、漫画家が職業として成立していないんです。好きで描いても、漫画を編集して出版できる出版社もないし、描きたい人はいると思うんですが、どう職業にしていいかわからないんです。

 それでいうと、うちの関連会社のKADOKAWAコンテンツアカデミーというところが、タイや台湾で漫画家の学校を運営しています。現地の漫画家やイラストレーター、3Dモデリングアーティストを育てて、ちゃんと職業として成立させようというのが目標ですね。成果が出るのはまだこれからですが。

コロナでも逆に成長! タイのオタクシーンの明日はどっちだ

――コロナの影響は、タイでもかなりあったと思うのですが……。

 タイでも2020年の初めから感染者が増えまして、第1波がきました。それが3カ月くらいでおさまったんですが、第2波が今年の4月くらいから広まりまして……。その時は街もロックダウンされて、オフラインの書店は閉まってイベントも軒並み中止になりました。

――売り上げ的な影響はどうだったのでしょうか?

 実は、売り上げ自体は伸びています。うちは2019年くらいから、販売チャンネルを直販のEコマースにシフトしていたんです。「そっちの方がコントロールしやすいから」という理由でやっていたのですが、それがコロナで書店が閉まった後の受け皿になってくれました。みんな家から出られないし、お金の使い道もないから高いグッズも買っていただけて、ものすごい数字が出ました。

――直販の販売ルートがあるとこういう時強いですね……!

 それがない出版社はかなり厳しいと思います。またいつロックダウンされるか分からないので。タイって本屋で本を買う文化がまだ残っている国ですし、現にパートナー会社のAMARINも全国に書店を持っているんです。だから書店は現在でも主要な販路の1つではあるんですが、バックアップとしてECサイトを持っていると強いと思います。

――家から出ずに買えるということでいうと、電子書籍はまだ普及していないんでしょうか?

 紙と電子の割合だと、紙が70〜80%くらいで、残りが電子という感じです。電子と紙では、お客さんが全然違うんですよ。電子は割とカジュアルなユーザーが買ってて、逆にうちの直販で紙の特装版とかを買う人はハードコアなオタク層っていう感じです。こだわりのある人も多いんで、「傷がついてるから交換してくれ」っていうこともありますし、自分で読む用とコレクション用と予備で3冊買っていく人もいます。

――やっぱり日本のオタクと同じだ! KADOKAWAは本社が日本ですし、タイと日本を行き来できなくて困ることはないんでしょうか?

 会議はリモートで済みますし、普段のやりとりはSlackとかでどうにでもなるし、「どうしても日本に行かないといけない」っていう仕事はあまりありません。ただ、日本の作家をタイにお招きするサイン会が全部できなくなったのが寂しいです。サイン会って、こっちの人にすごく喜ばれるんですよ。

――サイン会は、どのような場所で開催していたのでしょうか?

 タイの漫画や本のイベントでバンコク・ブックフェアというのがありまして、これが毎年の春と秋に2週間ずつ開催されているんです。公称で約160万人の来場者がいるんですが、実際日本のコミケみたいな行列ができるんです。そこに合わせてサイン会をやっていました。

バンコク・ブックフェア2018の様子

 最初に呼んだのは、『ロクでなし魔術講師と禁忌教典』羊太郎先生。あと、『冴えない彼女の育てかた』のイラストを担当してる深崎暮人先生とか、いろんな方を呼んでいたんです。直近では『魔王学院の不適合者』秋先生を呼ぶ予定だったんですが、コロナで中止になりました……。

――やはりイベントが中止になるのは寂しいですね……。売り上げは好調なようですが、今後の目標はどのようなものなんでしょうか?

 ビジネス的な話をすると、まずはタイに供給する日本のコンテンツの最も強いプロバイダーでありたいです。それがもともと会社を作った目的でもありますし、今後も継続して努力していきたい目標です。

 漫画やラノベ以外の商品だったら、生産国と同じものが供給されるのって当たり前じゃないですか。iPhoneだって仕様がローカライズされることはないし、Netflixで配信されている作品は全世界で見られる。そういった当たり前のことを、日本のコンテンツでもできたら面白いと思っています。

――それができるだけの可能性が、タイのオタクシーンにはあるんですね。

 もう、可能性は東南アジアで一番高い国です。人口も7000万人いて、所得もある程度あって、政府も基本的にはうるさくなくて、日本文化との親和性が高い。そして圧倒的にコンテンツが不足している。毎年売り上げが伸びる市場って昨今珍しいですし、完全にブルーオーシャンなんですよ。本当に、タイのオタクビジネスには将来性しかないと思っています。

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