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「トップガン」はなぜ「トップガン」なのか? 「トップガン マーヴェリック」でオタクが悲鳴を上げ歓喜した理由(1/3 ページ)

「トップガン」の本質って、何だと思いますか……?

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 ついに公開された「トップガン マーヴェリック」。この映画は、「人は何を見せられたら、『この映画はトップガンだ!』と認識するか」という、人間の認知をハックした画期的な作品である。その辺りをネタバレほぼなしで解説していく。

乗ってるのはF-14じゃないけど、マーヴェリックが帰ってきたぞ〜!/(C) 2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

F-14のカッコよさと、ヤングで「陽」なノリが衝撃だった初代「トップガン」

 初代「トップガン」が公開されたのは1986年。今から36年前のことだ。トム・クルーズが本格的にスターとなったきっかけとして知られている映画だが、そのトム・クルーズ本人がすでに59歳。リアルタイムで初代「トップガン」に衝撃を受けた人も大体アラフィフ以上くらいになっており、この映画については改めての説明が必要になっていると思う。

 トム・クルーズが演じるのは、アメリカ海軍のアビエイター(アメリカ海軍では水先人を意味する「パイロット」と区別するため、航空機搭乗員のことを「アビエイター」と呼ぶ)、ピート・ミッチェル。「マーヴェリック」のコールサインで呼ばれる彼は天才的な操縦技術を持つものの、無鉄砲で鼻っ柱が強い性格ゆえにむちゃばかりしている一匹狼である。

 そんなマーヴェリックが、米海軍が運営するスーパーエリート戦闘機搭乗員養成学校「トップガン」に入学。激しい空中戦訓練とライバルのパイロットたちとの衝突、民間人専門技術者であるチャーリーとの恋愛、盟友グースの死や命懸けの実戦を経験しつつ、真のエリートパイロットとして成長していく青春飛行機映画が初代「トップガン」である。

 この初代「トップガン」の影響は、それはもうものすごかった。トム・クルーズの役へのハマり具合もさることながら、主役メカであるF-14トムキャットの人気も爆発。

 そもそもF-14の見た目はそれまでの戦闘機とかなり異なり、デカいしエンジンも尾翼も2個くっついてるし、それまでの米海軍の艦載戦闘機よりずっとカッコよかった。しかも主翼が閉じたり開いたりする変形ギミックや長射程かつ強力なフェニックスミサイル(この名前もカッコいいもんね)まで積んでおり、ほとんどガンダムだったのである。

 それがケニー・ロギンスの名曲「デンジャー・ゾーン」に合わせて空母からぶっ飛んでいく姿に、当時の観客は大層シビれた。アメリカではこの映画のおかげで、パイロット志願で海軍に入隊しようとする若者が続出したほどである。

 F-14以外のミリタリー的な側面も充実していた。パッチが大量に縫い付けられたG-1ジャケットをはじめネイバルアビエイターの装備や着こなしがガッツリ映り、空母の艦内や航空基地の雰囲気も読み取れる。

 さらに「アメリカ海軍の超エリートパイロット養成学校」の中が見られるというのも、ミリタリーマニアの興味を引いた。世界で最も負けず嫌いな男たちが意地と度胸を競い合う、知られざるパイロット養成学校……。複座機であるF-14のパイロット2人の関係や、普段からコールサインで呼び合うパイロット同士の会話など、「へ〜、米海軍ってこうなんだ……」というポイントが多々あった。

 さらに、アメリカ西海岸発の圧倒的オシャレ&陽キャ(陽キャ/陰キャという言い回しは個人的にはどうかと思うが、これ以上しっくりくる言い回しが思いつかないのでそのまま使う)なノリも観客に衝撃を与えた要素である。

 「トップガン」には戦闘シーンもあるものの、パイロットたちは基本的に敵との戦争の真っ最中ではない。カリフォルニアはサンディエゴ近郊のミラマー基地で激しい訓練を積んでいるが、訓練が終わればそのまま近くのバーや西海岸のビーチに遊びに行けちゃうのである。

 今となってはうれし恥ずかしなビーチバレーのシーンや、カラオケを使ったナンパのシーンなどなどは、この立地と「厳しく激しいが、やっているのはあくまで味方同士の訓練」という条件があったために成立した。

 「アメリカ海軍の超エリートパイロット」という全人類の中でも最強クラスの陽キャ集団が、ティアドロップのグラサンをかけながらオシャレな音楽に乗ってイケてる恋愛をし、合間に超カッコいい戦闘機を乗り回して命懸けの空中戦まで戦う……。

 戦闘機パイロットの映画なのに「おどろおどろしく悲惨な戦争」というイメージが皆無で、アメリカ西海岸のヤングで「陽」なムードが充満した「トップガン」は、そのノリの明るさと爽やかさで全世界の観客の度肝を抜いた。まさに、80年代を象徴する一本といえる。

 そんな「トップガン」の影響はものすごかった。例えば90年代初頭、「機動戦士ガンダム」と「超時空要塞マクロス」という日本のロボットアニメの二大タイトルが、「機動戦士ガンダム0083」と「マクロスプラス」で「次期新型主力機のトライアル」という題材を扱ったのは「トップガン」の影響だろう。どちらも敵対勢力との大戦争ではなく、同じ陣営に属するライバル機同士の対決(「0083」はちょっと違うけど)を描いており、さらに全体に漂う「陽」なノリやセリフも「トップガン」によく似ている。

 ニナ・パープルトンがアナハイム・エレクトロニクスから連邦軍に出向しているという設定も、「トップガン」のケリー・マクギリスがいなかったら存在しなかったはず。「ガンダム」や「マクロス」のスタッフも真似をしたくなっちゃうほど、「トップガン」は衝撃的な作品だったのだ。

「何を撮っても『トップガン』の味になる調味料」とは


単座機に乗るマーヴェリック。やっぱりちょっと見慣れないね……/(C) 2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

 で、今回の「トップガン マーヴェリック」である。この映画、前作を知っている立場からすると、ちょっと不安があった。なんせ、前作の主役メカであるF-14は2006年にアメリカ海軍から退役している。代わりに現在採用されているのは、一機種でいろんな仕事をこなせる万能な戦闘攻撃機、F/A-18ホーネットである。

 F/A-18がカッコ悪いわけではないのだが、しかし「トップガン」とF-14はあまりにも密接に結びつき過ぎている。トムキャットなしでトム・クルーズだけ出てきても、「トップガン」だと言えるのか。それは「ルークが出てきたと思ったらBウィングを操縦している『スター・ウォーズ』の続編」みたいなものなのではないか。

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