全国各地のダムや堤防の脇に設けられていることがある、珍しいらせん状の水路――これを「ループ魚道」と呼んで追い続けている人の活動が興味深いと注目を集めています。水路が「“の”の字」を描いていたり、塔のように積み上がっていたり、全国で撮影された不思議な風景が見ていて引き込まれる……。
そもそも魚道とは、ダムや堤防など魚の遡行(そこう)が妨げられる場所において、魚の進行を助けるため水路状に設けられる工作物。なかにはスペースなどの都合から、部品をらせん状に積み上げて作られるケースがあります。
それを「ループ魚道」と呼び、愛好しているのがラス&ロード(@RasandRoad)さん。趣味のツーリングで全国を巡り、各地で撮った珍しい景色を、ブログ「Ras and Road」に記録しています。
特に好きな風景は、ループ状の橋やトンネル、円形の歩道橋やラウンドアバウト(環状交差点)などで、特設ページ「のの字な道」を設けて特集するほど。ループ魚道もその一環で追い続けており、これまで25件を訪ねて記録しています。
ループ魚道の多くは塔の形ですが、土地の事情により、水路が階段状であったり、ループ部分が地下に設けられていたりといったケースも。周囲の美しい風景も相まって、どれも目を引きつける魅力があります。
編集部はラス&ロードさんを取材し、ループ魚道の魅力などについて話を聞きました。
―― ループ魚道に出会ったきっかけを教えてください
ラス&ロード 九州にバイクでツーリングに出かけ、林道の入口を確認したとき、怪しい建造物が目に留まりました。戦時中の高射砲塔が保存されているのかと思いましたが、近寄ったところ魚道であることに驚きました。思い返すと、ほかの土地でつづら折りのような魚道は見たことがあったので、ループの魚道があってもおかしくないと妙に納得したものです。
そして、もともとループ橋には深く興味を持っていて、全国のループ橋やループトンネルを巡っておりましたので、その水路版ということでコレクションに加えることにしたのです。
―― ループ魚道は全国にどれほどあるのでしょうか
ラス&ロード その九州のループ魚道を見ていたとき、地元のかたと会話する機会があり、全国に5カ所あると聞いたのですが、帰宅後に詳細を調べてみるともっとたくさんあることが判明しまして。さまざまな情報源をたどって設置場所の机上調査を行い、国内に30カ所以上あると確認できました。
確認できている33カ所のうち、現在までに25カ所訪問しましたが、残り8カ所中、北海道の林道沿いにある6カ所はクマの生息地域であったり、イタドリが背丈以上に茂っていたりとアクセスが難しく、計画を慎重に考えているところです。残り2カ所は長野県と岐阜県にあって、こちらは落葉していて写真を撮りやすい春先に行きたいと考えています。
―― ループ魚道の魅力とは?
ラス&ロード なんと言ってもレアな構造でしょう。ただ、ループ魚道は外観こそ興味を引く形状ながら、機能的にはいまひとつだったようで、2000年ごろを境に新規設置はありません。底に積もる砂泥や流木の除去など、常時メンテナンスが必要な構造であるにもかかわらず、開口部が小さくて人の手を入れにくく、放置された結果魚が遡上(そじょう)しなくなるという悪循環を抱えているのです。
こうした問題から、ループ魚道の撤去が話題になっている地域があると聞き、なくなる前に記録に残しておきたいと思うようになりました。魚道の多くは砂防堰堤や治山ダムに付帯設置されます。砂防堰堤などは短期的には土石流など土砂災害の防止に効果がありますが、中長期的には砂浜がやせたり、逆に河川を削る作用があったりと、バランスがとても難しい事業のようです。
画像提供:ラス&ロード(@RasandRoad)さん
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.