9月1日、国立科学博物館・動物研究部の濱尾章二グループ長は『沖縄県・南大東島のウグイスは「ホーホケキョ」の「ケ」の音の周波数が低い、特異的な節回しでさえずる』との研究結果を発表しました。
研究の背景
一般的に島嶼(とうしょ)のウグイスはなわばり争いや再配偶が少なく、複雑なさえずりによって得られる利益が小さいため、さえずりが単純であることが知られており、米ハワイでは人為的に移入したウグイスのさえずりが80年後に単純化していたことが知られています。
南大東島では2000年ごろからウグイスが繁殖するようになり、島内で生息地を拡大。これらのウグイスは形態とDNAから本土に由来するものであることが分かっており、定着から20年たった今日、「島嶼の特徴である単純な構造に変化している」、または「本土のように複雑なまま」という疑問から同研究が始まりました。
研究の内容
比較対象は、2019年に録音した南大東島の19羽の雄のさえずり、すでに録音してある本土のさえずり(新潟県、埼玉県、北海道、計87羽)、島嶼のさえずり(奄美群島喜界島43羽)の3種。さえずりからスペクトログラム(声紋)を描き周波数幅などを測定、さえずりの複雑さを表す指標(数値)を求めました。
ウグイスはH型とL型の二つのさえずり型を持っており、H型さえずりでは本土と同じように複雑である一方、L型さえずりでは喜界島と同じように単純。一方のさえずり型だけで島嶼への適応(単純化)が起こるとは考え難く、また南大東島のL型さえずりの複雑さ(PC1)の範囲は本土の範囲と重なり合っているため、本土から島に渡ってきた個体が偶然単純なL型さえずりを持っていた可能性が考えられます。
そこで、後半に「ホ」「ケ」「キョ」という3音を持つH型さえずりについて、各音の周波数の上下のパターン(節回し)を調べた結果、南大東島では「ケ」の音が低い「ホーホ↓ケ↑キョ」という特異なパターンが大半を占めていることが分かりました。
このパターンは本土でも4.5%ほど見られることから、初めに本土から島に渡った少数の個体が偶然持っていたさえずりの特徴が今日の南大東島のさえずりを形作っていると考えられます。
波及効果、今後の課題
新たな土地に確立された集団では、その地に渡った少数の祖先が偶然持っていた性質が広まることがあります(創始者効果)。そして、その後長い期間をかけて、新たな土地の環境に対する適応が進むと考えられます。
同研究はこのプロセスがウグイスのさえずりで実際にはたらいている可能性を示したもので、今後もさえずりの変化を調査していく意義がありそうです。
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