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アニメ界の“最終防波堤” 「作画崩壊」でトレンド入りした演出家に直撃インタビュー 「作画監督が10人とかいるアニメは無駄の極み」(5/5 ページ)

“落ちそう”なアニメの裏側。

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――スタジオに入る前と後で、仕事のやりやすさに変化を感じたことは?

アニメーターA スタジオレオに来る前はずっと自宅で1人でやってましたが、作品に貢献してるはずなのに認められないみたいな感覚はありました。スタジオに入ってからは、交渉事があるときに違うなというのはやっぱりありますね。

――低い単価で受けざるを得なかったのが、交渉しやすくなるとか?

アニメーターA そうですね。僕はもともと結構交渉をする方だったんです。でも、直で言うと「こいつめんどくさいな」「本当に大丈夫かな?」と思われやすくて。制作さんは基本的にそのとき都合の良い、どんな条件にも文句を言わない人間を欲しているので。

佐々木 あとは、やれることが増えるイメージかもしれません。スタジオに入っていれば、最悪何か問題が起きたとしても、他の作監・演出でフォローできる。発注する側も安心しやすくなります。

アニメーターA スタジオに所属していれば「このアニメーターはちゃんとしている」と思ってもらいやすいんでしょうね。そういう判断基準で大丈夫と思ってしまう制作さん側にも、また別の問題があるのですが……。

――どういった問題があるのでしょう?

アニメーターA 制作さんはアニメーターを評価する立場にもかかわらず、絵について分かってないことが多いんです。絵描き視点での「こうだったら助かる」ではなく、派手な場面をつなぎ合わせた作画MADみたいな、素人でも分かるような何かすごいものじゃないと評価できない。

佐々木 そういった見識のなさによってできあがるのが、作監が10人も20人もいて、もはや作監が原画をやり、総作監が作監をやっているのでは? という現場です。

アニメーターA あれは結局制作さんが、その場限りの工程表を進めたいがためだけに使えない人でも適当に入れて、それを後から他のスタッフが無理やりフォローして、フォローして……っていうのをひたすら馬鹿みたいにさせているという。

佐々木 もちろんスケジュールがそもそも破綻していたり、腕があるアニメーターへのツテがないといった現実的な問題もあるとは思いますが。結果的に、無駄の極みのような制作工程になってしまっている。

アニメーターA ちゃんとレイアウト上で空間が取れて、芝居が足りていて……といった技能が無視され、「絵がきれいでキャラクターが似ている」「過剰に動いている」ことだけが評価されがちな現状は問題だと思っています。

 その結果、アニメーターの側も本来一番重要なレイアウトや芝居などの要素に力を入れるより、キャラクターがレイアウトの段階で整っている事に注力しすぎてしまうし、それしかできない人が重用されている。あるいは作画監督も、キャラクターの顔はきれいに直すのに、空間内での整合性は全然直せていなかったり。それではもうアニメーターではなく「お化粧屋」ですよ。そもそもその原因として、デスクやプロデューサーにアニメーターの本来の意味での良し悪しを見分けられる人が稀、というのもありますが。

※発言を一部加筆修正しました(10月3日1時44分)

佐々木 前に作画崩壊だと言われて炎上したときは、ラッシュチェック時にデスクやプロデューサーが「大丈夫です!」と言ってくれたんです。でも、画面は素人目にも大丈夫ではなかった(笑)。

――それなのになぜ「大丈夫」と……?

佐々木 それよりも前に手掛けた話数が、なまじ評判良かったんです。そのときのうちの作監上がりのデータがこちらなんですが。

――(何カット分かデータを見せてもらう)……キャラも動きも違和感ないですね。

アニメーターA 時間が無い中でこのクオリティーだった前例があったので、炎上した回では本社の総作監をうちに回してもらえなかったんです……。

佐々木 動きやデッサンには問題がなく、元請け会社が求めるクオリティーは超えていたんです。しかしキャラクターデザインが個性的で、あのスケジュールで作風に寄せ切るには、総作監の救援がほしかった。あれは、過去に少ない時間で作れるのを見せてしまったがために作画崩壊した案件でしたね……。

「ただのアニメ好きの男の子でいるわけにはいかない」

――先ほど、やばい案件ばかり受けていると「食えなくなってしまう」という切実なお話しも出ました。それなのになぜ、明らかにやばい案件を引き受けてしまうんですか?

佐々木 勘違いされがちですけど、俺はアニメを愛してるんですよ。どうしようもなくだらしないアニメ業界のことも含めて。だから「どこかで放送が危うくなっている」「誰もいない」のを見ると放っておけなくなる。

アニメーターA またいつもの胡散臭い言い方をする(笑)。

佐々木 いやいや、これは真面目な話です。俺も制作時代、誰も助けてくれずに苦しんだ経験が何度もありました。そんなときに助けてくれた人の存在は、本当にありがたかった。俺もそういう人間でありたいんです。“放送できなきゃ意味がない”ですし、待ってる視聴者がいるんだから、悪者と思われたって“最終防波堤”をやりますよ。

――おお……。

佐々木 この信念は、「機動警察パトレイバー 2 the Movie」の影響だったりします。あの映画で特車二課は、上から待機を命じられているのに出動するかどうかの選択を迫られる。そこで遊馬が「レイバーを降ろされるかもしれない」と忠告するじゃないですか。

 でも野明は「あたし、いつまでもレイバーが好きなだけの女の子でいたくない」と言う。あれを見たときに、自分もただのアニメ好きの男の子でいるわけにはいかないと思ったんです。それが“プロ”である、と。

――そんな熱い背景が……。最後に、言い足りないことなどがありましたらお願いします。

佐々木 「俺は殺されても死なない自信があるので、殺す気で仕事を奪いにきてほしい」と言いたいですね。俺の仕事がなくなったときが業界に平安が訪れるときなので……。

――業界には平安になってもらいたい?

佐々木 もちろんです。そろそろ、俺に仕事が一極集中するこの業界の“異常さ”に気付いてほしいんです。絵が描けない演出家がレイアウトを描いてるのはおかしいでしょう? 「これはおかしい」と、みんなにも思ってもらいたい。

――本来アニメーターが描くべきであると。

佐々木 当たり前ですよ。ちゃんと単価が上がったら、自分では描きません。本職のアニメーターがいるんだから、そちらにお願いした方が良いに決まってます。

――しかし現状では単価が安すぎると。

佐々木 そうです。なので、俺が干されるぐらい、ちゃんとクリエイターが活躍してくれる状況になってほしいんです。

アニメーターA 本当に厳しい仕事は、誰も助けてくれないんですよね……。

――制作費の底上げがないと難しい?

佐々木 制作費もそうですし、そのための前提知識となるアニメ作りの基本を誰も教えてもらえないことも問題です。レイアウトってこういうものだよ、原画はこうだよ、という継承が無い。大手スタジオでは育成に力を入れているところも増えてますが、まだ全然足りない。

 あとはシステムとして作監を10人20人呼ぶのはやめましょうと。それは社内に人がいないということじゃないですか。小さな会社だとしても、元請け会社なら社内で最低限責任を持って作るべきです。

 俺は間違っているかもしれませんが、この業界はもっと間違っている。

アニメーターA その熱い思いを、もっとTwitterでも誤解が無いように発信してもらいたいですね(笑)。

佐々木 俺は人の心を、サイコフレームの共振を信じているので。

――もうちょっとヒントがほしいです。

アニメーターA そうそう。ノーヒントで信じるのは難しいですよ。

佐々木 今後はこの記事がヒントになることを祈っております。

 


 

 直接対面した佐々木氏は、ツイートの印象通り自由奔放な部分もあるものの、アニメ作りに対しては自分なりの矜持(きょうじ)を持って向き合っているように見えた。

 今回の取材では、佐々木氏の評判について業界関係者数人にも話を聞くことができた。苦しいスケジュールで演出の依頼をしたという制作進行のB氏は、「急な依頼で、本来3カ月必要なところを1カ月で助けてもらい、ありがたかった」「作り方が大胆なので業界内でも評価は分かれるが、演出としてのポイントは外さない」と証言する。

 アニメ雑誌編集者でアニメ演出の経験もある村上修一郎氏は、佐々木氏の名前をネット掲示板の「糞演出家を晒すスレ」で知ったという。しかし縁あって実際の仕事ぶりに触れ「入れた修正を見ると、意外とちゃんとしている」「普通なら逃げ出す悲惨な現場をなぜか率先して引き受け、形にし続けている異常な人物」と評している。

 インタビュー内では予算やスケジュールが足りないため「アニメーターではない演出家が直接原画を描く」という、ある種の“異常”な制作手段が明かされた。この他にも、アニメーターが正当に評価されづらく、場当たり的に投入されがちな構造的問題に対しても批判が上がった。

 佐々木氏自身「作品の面白さが全て」と語っていたように、このような制作背景の数々は視聴者にとって本来関係がないものかもしれない。しかし、「作画崩壊」したアニメがなぜ生まれるのか? 一旦立ち止まり、より精度の高い批判的視線を向けていくことが、長い目で見れば業界の体質改善にもつながっていくはずだ。

 インタビューの最後、佐々木氏が口にした「俺が干されるぐらい、ちゃんとクリエイターが活躍してくれる状況になってほしい」という言葉が印象に残った。果たして、佐々木氏が「干される」日は来るのだろうか。

 

追記(10月9日23時更新)

※追記の最後に、球野たかひろ氏、佐々木純人氏、アニメーターA氏のコメント全文を掲載しています。

 記事の公開後、業界内外から大きな反響があり、過去に佐々木氏と同じ作品に参加した関係者からも反応があった。その中で、アニメ演出家の球野たかひろ氏から「この記事、嘘つくのやめてもらっていいですかって感じだ…彼の放り出した話数のリテイク請け負ったことあるけど本当になんの修正も入ってなくてよくチェックしたことになってるなって印象だったし、あまりに出鱈目なので記事を取り下げてほしい…」と、記事内容を否定する投稿があり、これまでに5000件を超えるリツイートを集めるなど、大きな注目を集めている。

 記事内容に誤りがあったのだとすれば訂正の必要があると考え、ねとらぼ編集部では球野氏に取材を行った。取材に対し球野氏からは大筋として「佐々木氏は“防波堤”というよりは現場を“決壊”させる側であり、自分も迷惑を被った」「記事は佐々木氏の仕事ぶりを美化しすぎている」との証言があった。

 なお、ねとらぼ側が球野氏に聞き取りを行う前に、インタビューにも登場したアニメーターA氏がTwitter上にアカウントを作成し(※このアカウントがアニメーターA氏本人のものであることは編集部でも確認が取れている)、球野氏に反論する一幕があった。さらに、アニメーターA氏と球野氏が直接DMのやりとりを行い、アニメーターA氏が球野氏の同意の元、それをTwitter上で公開。その後、球野氏が公開して良いと言ったのは全てのDMではないのでツイートを消してほしいと訴えるなど、論戦に発展する場面もあった。

 球野氏はねとらぼ編集部の取材に対し、ほぼこのDM内容をなぞる形で、かつて佐々木氏が「降板」した作品で尻拭いをした苦労を語っている。この主張に対し、佐々木氏は当該作品ではそもそも「降板」はしていないと強調。作品は一般的なクオリティーで完成間際まで制作が進んでおり、元請けと下請けスタジオ間の何らかの事情で最終的なリテイク作業のみ球野氏に任せたのではないかと反論した。

 佐々木氏は反論にあたり、作業が球野氏に引き継がれる直前のラッシュ映像を、一般に公開できないことを前提にねとらぼ側に提供。これについてのねとらぼ側の見解と、球野氏、佐々木氏両名の主張の詳細は、後述する両氏からのコメント全文を参照してほしい。

 

 上記の経緯から、少なくとも「過去に佐々木氏と球野氏が参加した作品を巡り、何らかのトラブルがあった/なかった」という見解の相違は確認できた。

 しかし、トラブルがあったにせよなかったにせよ、インタビューの内容全てが否定されるものではない、というのが筆者の考えである。なぜなら、仮に佐々木氏が参加する作品の先々で同様のトラブルを起こしているのだとしても、そんな佐々木氏が「干されていない」現状こそが、インタビューで語られたアニメ業界が抱える深刻な問題の証明になるからだ。

 補足をするならば、記事公開後、Twitter上では過去に佐々木氏と同じ作品に携わったと思われる業界関係者から、「リアルにインタビュー側と接点があった方は苦笑いな印象」「内情知ってるんで、このゴミ記事は削除してほしいね」といった批判の声が見られた。他方で、やはり佐々木氏と共に仕事をしたことがあると思われる関係者から「自分も何度か佐々木純人氏演出回で原画させていただいたが、まあ、悪い印象はない」「佐々木さんの演出する時は打ち合わせちゃんとやってるし、後スムーズに仕事も進めるし、多いに不満はない」といった声も見られた。

 当たり前ではあるが、第三者が作品現場での全ての出来事を検証・把握するのは不可能である。また、当事者にしても、立場によって見え方が変わるのはよくあることだ。

 ねとらぼではこれまでもアニメ業界に関連するさまざまなインタビューを掲載してきた。今後も複数の業界関係者への取材を通じ、より実態に即した現場の声を多角的に伝えていく予定だ。

 

 以下、球野たかひろ氏、佐々木純人氏、アニメーターA氏のコメント全文を掲載する。

 

球野氏、佐々木氏、アニメーターA氏のコメント全文

球野たかひろ氏のコメント

 球野氏は「4年ほど前のことなので、もしかすると今はそのときに比べ改善している可能性はありますが」と前置きした上で、「記事の中では処理演出として十分な責務を遂行しているかのように述べているが、実際に佐々木さんが降りた話数の尻拭いをした経験から、それを全く果たしていないのを目の当たりにしており、明らかに誇張がある」「佐々木さんが降板した話数では演出用紙が10枚ぐらいしか入っておらず目をうたがった」「その作品は全話放送前納品を念頭に置いた作品だったため、スケジュールがなかったわけでもなく、それでもリテイクが全然直ってなかったので引き上げることになった」と批判。

 「赤点が60点だとすると、記事を読んだ人からは佐々木さんがまるで60点ぎりぎりの点数を取っているように思われているが、佐々木さんは40点の仕事をして誰かが寝ずに20点引き上げている」「その“誰か”とは多くが若手の作画や仕上げであり、その負担を機に離職につながることも少なからずあるので未来の芽を摘み、アニメ業界全体としても損を被っている」「“アニメ演出”などで検索して佐々木さんの名前が上位に出てきて、経験の浅い制作進行が『この人に声かければいいじゃん』となってしまうのが問題だと思い、あのようにツイートした」と語った。

佐々木氏から提供されたラッシュ映像

 佐々木氏は“証拠品”として、球野氏が「“決壊”していた」「尻拭いをした」と証言した作品の完成前のラッシュ映像(※球野氏が引き継ぐ直前の段階のもの/球野氏への取材と照合すると、1度リテイク作業を経て、本来はV編=納品できる形式にする作業の段階に必要だったが間に合わなかったもののようだ)をねとらぼ側に提出。

 ねとらぼ側で映像を確認したところ「全編作画崩壊」のような印象は受けなかったものの、完成した放送版と見比べると、特に引きの画面でキャラクターの顔の荒さが修正されているカットが散見できたほか、原画の描き直しや作画監督修正が追加されているとみられるカットは見受けられた。ただ、インタビューでアニメーターA氏も答えていた通り、作画の乱れはアニメーターや作画監督(あるいはそのスタッフを呼んだ制作)側の原因がまず考えられるところでもあり、この映像から責任の所在を断定するのは難しい。

 色が付いているカットがほとんどであるが、背景がレイアウト用紙の状態で撮影されているカットも約300カット中30カットほどあり、撮影処理が間に合ってないカットも散見できた。概ね、作画や背景美術で間に合っていない作業を待ち、後1〜2回リテイクを回せば放送状態に持っていけるのではないか、という印象を持ったが、この映像に至った詳細な背景は分からないため、これを持って「“決壊”している」かどうかは第三者の視点では判断しづらい。

 その上で、佐々木氏からは次の文章が寄せられた。

佐々木純人氏のコメント

 まず前提として決壊していません。先ほど見て頂きましたが、これを決壊してると言うのであれば大半のアニメの作成途中の映像がダメという事になるのでは。

 未完成版と放送版を見比べてチェックしていくと、放送版でもまだミスが直っていないところはいくつも発見されましたが演出担当部分で言えば歩きのローリングがなかった部分と、ちょっとした動きの修正、口パク抜けは直ってましたね。

 どういう理由で球野氏がリテイクを行うに至ったか経緯は知らないですが、それはグロス会社と元請けとの制作間のやりとりで決まった事です。あんな誰でも一瞬で直せるような簡単なリテイクなんて1日もかからないわけだから、そのタイミングで自分の意思で降板して球野氏に引き継ぐ意味が分からない。

 とにかくこれによって俺はクビにされてませんし、降板してませんし、その話数も後続話数も納品しました。

 業界の常として、無能な演出が降ろされて後にちゃんとした演出がまとめた場合は連名でクレジットされるか、もしくは俺の名前が消されているはず。でもこれはそうなってないですよね? 佐々木の名前のみが載っていて、球野氏の名前は載っていません。4年前の事でちゃんと覚えてないですが、状況証拠としてそうとしか考えられません。

 もし本当に「MUSASHI -GUN道」のように決壊していたものを本当に一から全部やり直して徹夜で全部やり直した、そういう話であったら間違いなくクレジットに載ってますよ。制作の都合で球野氏に簡単に終わる作業をやってもらった、そう考えるのがどう考えても自然ですよね?

 演出用紙が10枚しか入っていなかったという球野氏の証言されている件について。

 前提の話として、演出の仕事って演出用紙をレイアウトの間に入れる事ではないです。演出なんて上手いアニメーターがいたらやる事なんて打ち合わせと編集と音響に行く事くらいなんですよ。

 百兆歩譲って、もし俺が本当に10枚しか入れてなかったとしても、あの破綻していない映像が出来ているわけですよ。じゃあそれでいいじゃないですか? いやー今回楽な仕事だったなー、で終わりですよ。

 演出の仕事を完全に勘違いしてます、修正を入れりゃいいってもんじゃないんですよ。細かく入れて逆に邪魔って事もありますからね。極端な例を言うと全カット神アニメーターが描いてて、見て問題なかったらゼロ枚でもいいんですよ。

 俺はお給料も貰ってますし、監督から呼び出されてもないです。なぜかというと、ちゃんとしたものを納品したからです。だから赤点60点とすると40点ですという事を言われていましたが、その認識自体が間違いです。赤点自体とってないんですよ。

 更に「誰かが寝ずに20点引き上げている、その“誰か”とは多くが若手の作画や仕上げであり、その負担を機に離職につながる事も少なからずあるので未来の芽を摘み、アニメ業界全体としても損を被っている」という事を球野氏は言われていましたが、この業界、互いに迷惑を掛け合うのが常です。

 迷惑をかけていない人なんて一人もいないんですよ。業界の構造としてそれはあり得ない、そうならざるを得ない形になっています。だからお互い謙虚にならないといけないんです。

 それにも関わらず、自分は一度も他人に迷惑をかけた事がないかのような振る舞いの人がとても多い。どんなにすごい人でも他のセクションに間違いなく迷惑をかけているのに、それ以下の俺たちのような演出家やアニメーターはなおさらそれに自覚的にならないといけないはずです。本人が迷惑をかけた覚えがなくても間違いなく誰かに尻拭いをしてもらっていますから。

 だから本当は、「いやあなたたちそんな自分の事を棚に挙げてよく人の事を言えますよね」と俺も言いたいですよ? けど言いません。それを言い始めると言い争いがいつまでも終わらないからです。だから俺はたとえ自分よりも前のセクションからのしわ寄せを受けて悲惨な状況になっていて、その状況を把握していない人から自分が責められていたとしてもぐっと飲み込んでこう言うわけです、「はい、私が悪ですよ」と。

 他の人がリテイク対応できない案件も俺は何度も拾っていますし、コンテ撮をやりきれないというのを引きついでやったりもしてます。けど俺はそれで相手から迷惑かけられたとか、自分が偉いとか思った事なんて一回もないです。だってそれは業界の構造だからです。だから俺は、死ぬまで他の人に迷惑をかけますし、他の人から迷惑をかけられます。

 それを否定するのであれば辞めた方がいいと思います。若い人でそれに耐えられないならやり続けても辛いだけです。

 大半の人間は文句を言わず日々謙虚さを持ちながらアニメの仕事をしているわけじゃないですか。しかも本来の意味で言うなら、冷酷な業務上の考え方をすれば演出も作監も自分の手で直す必要はないんですよ。自分の基準に満たさないレイアウトが来たら、基準を満たすまでリテイクし続ける。

 それで作品の進行が遅れたとしても「スケジュールは俺のせいじゃないし制作の責任なんで知らないです」という考え方になります。

 ですが「仕方がないな、使えないけど今後の伸びに期待しよう」と本当であれば絵を描く必要性がない演出や、本来キャラクターを統一するためのはずの作監がレイアウトを全修したりしますよね。

 もっと極端な事を言えば作監も本来の意味の上では作画の監督という立場なので、通すか通さないかを判断して見ればいいだけであって絵を直す必要性はないわけです。でも直してるじゃないですか、実際。

 この業界は謙虚な助け合いによって回っています。これを否定する輩は誰かに助けられている自覚が足りない。だから俺は言いたい、そんな事を言う輩は業界から出ていけと。

 あと、スケジュールがなかったわけでもないとの話でしたが、そもそも実動期間がどれだけあったか? 例えば3か月あったとしても、レイアウト演出チェックの前段階にあたるアニメーターのレイアウト作業が大幅に遅れていたとなれば、俺がチェックする期間はほぼないです。

 3か月あったとしても2か月を作画に使ってたら俺はいつ見るんですか?チェック期間が全然ないじゃないですか。実際手元の映像ではV編前にも関わらずレイアウト撮がいくつも残っている状態で、最終的にはスケジュールがなかったと推察される点が多々あります。

 そもそもインタビューでも答えましたが、当時の俺は13本やってたんですよ。既に何本も仕事を抱えている人間だと分かった上で、更に仕事を突っ込んでくる制作もおかしいんです。制作はこちらがとんでもない状況になっているのを知っていて、それでも頼んできているわけですから。

 だからスケジュール上では3か月あったかもしれないですが、実際に上がってきて実動できたのはまた全く違う期間になるわけで。つまりスケジュールをフルで使えるわけではないんです。

 みんな勘違いしているようですが、俺は掛け持ちしたくて掛け持ちしているわけではありません。放送が落ちそうだったり誰もやってくれなかったりという理由で懇願されて仕方なくやっている状態です。

 俺が酷いものしか作れないと思っている人が多数いるようですが、ちゃんと普通寄りの前提条件をもらえればまともに作れるんです。本当ならそうしたいんです!!!

 例えば俺がコンテと演出をやった作品で「世話やきキツネの仙狐さん」第10話があるんですが、これは業界的にはいたって普通のスケジュール期間と進行で、普段と違って比較的まともなスタッフで作っているので安心して見られる出来になっています。

 普段は誰がやっても酷い出来になる条件で、前の工程から今までのしわ寄せを一手に引き受けている状態なので、当たり前ですが良い出来になりようがないのです。そもそも普通の演出には完成すらさせられるか怪しい状況なんですよ。

 だから「監督、プロデューサー様、お願いしますから僕をNGにして下さい」と当時ツイートしたわけです。俺が抱えている仕事を誰か代わりにやってくれるんだったら、即日渡してますよ。そらそうでしょ、俺だってやりたくてやってないんだから!

 毎回「俺以外に頼めるでしょ?」と聞くんですよ。でも即答で「いないです」と返ってくる。それだけ他にやってもらえる人が誰もいないからと繰り返し懇願されて、無下に断れますか? 当然見る時間も相当少なくならざるを得ません。でもそれを分かったうえで制作会社は振ってきています。

 全てが終わってから「ひどい現場と分かってるんだったら受けなきゃよかったじゃん」とか「放送が落ちるのは自分と関係ないんだから」と正論を吐くのは誰でもできます。

 でもその現場、その状況下においてはやるしかなかった。それを外野や事情を知らないやつらがグダグダ言ってもしょうがない。それを否定するのは、その状況下にいた制作スタッフ全員を否定する事になりますよ。

アニメーターA氏のコメント

 佐々木と一緒に仮V編の映像と実際に放送された映像を比べながら確認したのですが、一部の簡単なリテイク部分以外ほとんど大きな変化は見られませんし、至って普通の中〜低クオリティーアニメです。これを決壊してると言われるのであればそこら中で放送されているアニメの大半が決壊している事になります。

 それから、一部残っていたレイアウト撮部分の映像から分かった事ですが、佐々木は演出用紙を上から乗せて修正するのではなく、アニメーターが描いたレイアウト素材に上から直接書き込んで絵を直していたようです。

 30カットほど残ってるレイアウト撮の中で、佐々木が直していると見られるカットが10カットほど見受けられました(アニメーターの文字と筆跡の違う佐々木の文字が混在しているのが確認できました)。

 残っていた一部のレイアウト撮だけでさえその割合で修正が入っているという事は、すでに色が付いていた他のカットにもそれなりに修正が入っていたであろう事は容易に想像がつきます。

 佐々木はその当時多忙を極めていたため、演出用紙を上から乗せたり、大判を直すために演出用紙を繋いだりする手間を省くため直接描き込んで直すという方法をとっていたようです。

 球野氏によると演出用紙が10枚しか入っていなかったとの事ですが(佐々木は演出用紙が10枚しか入っていなかったというのも絶対に誇張だと証言しています。画面を見ながらかすかに思い出せた分だけでも確実に1カットは全修した記憶があり、レイアウトをアニメーターが2枚で描いてきたものを足りないので8枚くらいに増やして直しているため、10枚が本当であればそのカットで大半の枚数を占める事になってしまう。なので常識的に考えてそれはありえないとの事です)、この作業方法が多用されていたとすれば演出用紙が少ないのは当たり前で、なんら不思議な事ではありません。球野氏が演出用紙の枚数ではなくレイアウトをちゃんと見ていればそれは確認できていた事かと思います。

「記事は佐々木氏の仕事ぶりを美化しすぎている」

「“アニメ演出”などで検索して佐々木さんの名前が上位に出てきて、経験の浅い制作進行が『この人に声かければいいじゃん』となってしまうのが問題」

「その“誰か”とは多くが若手の作画や仕上げであり、その負担を機に離職につながる事も少なからずあるので未来の芽を摘み、アニメ業界全体としても損を被っている」

 美化されているかどうかは球野氏の感想であり、なんの根拠もありません。それであればドキュメンタリーも全てなにがしかの視点が入っているものですし、誰かの視点が全く入らない公平中立なインタビューというのは存在しえません。個人的には内容の中で、「自分は悪で、間違っている」との発言を佐々木はしているので少なくとも自分に都合の良いことは言っていないと考えます。

 あと、仮に百歩譲って佐々木が仕事ぶりに問題がある人間だったとしたとしても、佐々木側の問題ではなく本来制作デスクやプロデューサーが探すのが当然とされている演出を経験の浅い制作進行に探させている会社側の問題です。

 アニメ業界全体の事を心配されるのは個人の自由だとは思いますが、だからと言って球野氏が自分の主観で根拠なく勝手に想像した本当にあるかわからない他人の心配を理由に、アニメ業界を代表して佐々木個人を攻撃してよいという理屈にはならず、甚だおかしな話だと思います。

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