だが、物理的なトラブルに比べ、「理解力の足りない上司に正しく情報を伝える」方がはるかに困難であり、何度も何度も挑まなければいけない展開は、やはり現実の社員の苦しみの風刺にも思えてくる。
そうした“会社あるある”の苦しみはリアルで体験したくないことばかりであるが、この「MONDAYS」ではテンポの良い編集と、コミカルなアイデアにより、全く重く感じずに見られるのも長所となっている。
特に「プレゼン」シーンではそこに至るまでにどれほどの苦労があったんだ……想像すると本気で気が遠くなったが、実際の映画では大胆なカットのおかげでストレスなく、アイデアそのものを笑って楽しめた。劇中の社員たちのストレスは胃が蜂の巣になるレベルだろうけど。
現実にフィードバックできる価値観
さらに、劇中には「(ループにハマらなくても)毎週繰り返しているようなもんですよ」という言及もあり、それもまたゾッとさせてくれる。社会人として生きていれば、仕事または人生そのものを、「同じことの繰り返しだなぁ」と思ってしまうことは、1度や2度ならずともあることだろう。だからこそ、本作は現実にはあり得ないループを描きながらも、やはり「現実でも似たようなこと思い切りあるじゃん……」と思わせてくれるのだ。
そして、社畜根性に染まっていたかに見えた主人公は、当然というべきか転職を検討している。その彼女がループの中でどのような学びを得て、転職や同僚に対しての気持ちが変わっていく(あるいは変わらない)のかは、ぜひ映画本編を見て確認していただきたい。そこには、単なる“社畜”根性を超えた、仕事に対する「何か」があり、その気高い精神は、人間が人間たる尊い価値観だと再認識させられた。
ちなみに、竹林亮監督によると、この映画を撮ろうと思ったきっかけは、自身の所属している会社のボスが毎年1月に「今年は、めちゃくちゃおもしろいものを作る!!」という熱のこもったツイートを投稿する様を見て、部下たちが「もしかして、ボスがタイムループしてる?」と不安を覚えたことらしい。
そんなちょっとした冗談からストーリーのあらすじが生まれ、設定を膨らませたところ「私たちみんなが大人になると直面する本質的なものを含んでいる」という確信が生まれたのだそうだ。往々にして、実体験から生まれた作品には大きな説得力が生まれているものだが、この「MONDAYS」もその1つだ。
また、本作は“ブラック企業”的な体質を積極的に糾弾するような内容ではなく、あくまでシニカルな目線で、その「是非」をひっくるめてエンターテインメントに仕上げた内容でもある。この姿勢に対しては賛否があるかもしれないが、ループものの定石を抑えた数々の展開にワクワクしつつ、社畜根性をコミカルかつ怖さも示して、なおかつ現実の仕事にフィードバックしてちょっと元気が出る作品として、存分にバランスよく仕上がっていたと思う。
そして、仕事のしんどいことやめんどくさいことばかりでなく、身近で共感しやすい仕事の良い面もしっかり描いており、上司を含め社員たちみんなが愛おしく思えてきて、なんとなくポジティブな気分になれるのも本作の美点だ。後半からの意外な展開、そして感動のクライマックスから仕事に希望をもらえる方はきっと多いだろう。終盤で口にされる「自分にできること」にまつわる言葉が、金言として刺さる人もいるはずだ。
ループがもう1本同日公開対決
余談だが、この「MONDAYS」の先行公開日と同日の10月14日より、人気小説を原作としたホラー映画「カラダ探し」も公開されている。くしくも、こちらもループものでオススメだ。
「カラダ探し」のあらすじは、6人の高校生が命を狙ってくる恐怖の対象から逃げ惑いつつ、カラダを探すミッションに強制参加させられ、死んだら時間が戻るのを繰り返すというもの。
夜の学校という舞台は(年齢は違うが)「学校の怪談」的でもあり、共通の目的を通じて若者たちが切磋琢磨する青春ムービーとしての魅力も存分にある。派手な見せ場も多く、PG12指定ではギリギリと思える残酷描写にも逃げずに挑戦しており、「MONDAYS」とはベクトルの違う良質なエンタメとなっている。
「MONDAYS」と「カラダ探し」はいずれも、“ループ”という現実では絶対に陥りたくない状況を見せつつ、繰り返しの時間があったからこそ得られるものがあると示す、現実にフィードバックできる内容となっている。矛盾しているようだが、同じことの繰り返しをしているようでも、そこには“学び”や“気づき”が確かにある。これらの映画を見たら、「人生のどんな時間も無駄じゃない」「だから前に進むことができる」という、普遍的な価値観を再認識できるはずだ。
(ヒナタカ)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- インド版「ドラゴン桜」かと思ったら殺し屋との受験戦争(物理)が勃発する映画「スーパー30」レビュー
これでも実話が9割。 - さかなクンをのんが演じてさかなクンが不審者を演じる映画「さかなのこ」レビュー
性別の違いはささいなことである。 - 逆にサメが出ない 純文学的サメ映画「ノー・シャーク」レビュー
高尚な純文学的コメディドラマだった。 - 高級レストランの地獄のような裏側をワンカット90分で煮込んで沸騰させた映画「ボイリング・ポイント」レビュー
労働環境と人間関係の問題を正面から切り取った映画。