「日本一のモグラ駅」として知られる土合駅(群馬県みなかみ町)。この土合駅の地下ホームでビールを熟成する取り組みが「その発想は無かった」とネットで好評を博しています。土合駅での個性的すぎる取り組みについて、運営企業に話を聞いてみました。
話題のきっかけとなったのは、Twitterユーザーのろくいち(@east_japan)さんが、「気温の変化が小さいトンネル内にある土合駅のホームでビールを熟成させてるのをみてその発想は無かったって思ってる」というコメントと共に投稿した写真。地下にある下り線ホームの運転事務室跡に「特製ビール熟成中」と書かれた張り紙がしてある様子が写っています。これは確かに驚く……!
この投稿に対してネット上では、「飲みたい…」「運転事務室の文字が残ってるのポイント高い」「トンネルの活用法としてはオーソドックスだけど、現役トンネルでやるのは珍しい」「良い活用法ですね」といった好意的な声が寄せられました。
土合駅は、駅舎・上りホームがある地上と、地下にある下りホームの間の標高差が約70メートルもあるため「日本一のモグラ駅」と呼ばれています。エスカレーターやエレベーターなどは今のところ設置されておらず、利用者は階段を使って上り下りするしかありません。1985年ごろまでは有人駅でしたが、現在では無人駅となっています。
土合駅でビールを熟成するプロジェクトは、土合駅周辺でグランピング施設などを手掛けるDOAIVILLAGE(土合ヴィレッジ、運営:VILLAGE INC.)が、地元ブルワリーらと連携して行っている取り組み。2022年5月にはここで熟成したビールを振る舞うイベントも行われました。
さらに、DOAIVILLAGEは土合駅の旧駅務室をカフェ「駅茶mogura」に改装して営業中。往年の雰囲気が残る空間でおいしいコーヒーなどを楽しむことができるそうです。
編集部では土合駅でのビール熟成などの取り組みの経緯について、DOAIVILLAGEに話を聞きました。
――DOAIVILLAGEはその名の通り、土合駅周辺でグランピング施設を営業するなど、ここでの活動に力を入れていますね。どういうきっかけで土合駅周辺での事業を行うことになったのでしょうか。
DOAIVILLAGE JR東日本さんが無人駅の活用について模索しているという話を伺ったのがきっかけでした。弊社は船でしかいけないキャンプ場や耕作放牧地など、いわゆる僻地、秘境と呼ばれる場所でキャンプサービスを行っております。お話を伺った際に、うちのサービスがマッチするのではないかと感じたのが始まりでした。
その後、JR東日本さんのアクセラレーションプログラムに正式に採択され、土合駅にて営業をさせていただく運びとなりました。
――なるほど。では、土合駅でビールを熟成させようと考えたきっかけを教えてください。
DOAIVILLAGE 先ほどお話した経緯で、弊社では土合駅周辺でのグランピング事業、駅茶moguraの運営を始めました。その後、無人駅であるこの駅をもっと活用していきたいと思っていたところ、土合駅の地下ホームは年間を通して気温がほぼ一定(15度程度)で熟成に最適だというお話を、みなかみ町のブルワリー「OCTONE Brewing」さんからいただきました。辺境の地、しかも無人駅で熟成を進めるのは面白いのではということで、2020年の冬に第1回目の搬入を行いました。
――そういう経緯があったのですね。では、ここで熟成したビールの特性などがあれば教えてください。
DOAIVILLAGE 特性については貯蔵するビールによっても異なり、ブルワーも予想ができないとのことです。仮に思った通りの味の変化がなかったとしてもそれはそれで面白いよね、ということで始まった企画になります。
――この取り組みはさまざまなブルワリーが参加していると聞きますが、どのようなブルワリーが集まってるのでしょうか。
DOAIVILLAGE ビールを通じて自然について学び、みんなで考えていくことを目的とした「BREWING FOR NATURE」という団体のブルワリーが参加しています。
――ここで熟成したビールはどこで飲むことができるのでしょうか。
DOAIVILLAGE 2022年5月21日に、前述した「OCTONE Brewing」さんが9社のブルワリーに掛け合い、ここで熟成したビールなどを振る舞う1日限りのイベントを行いました。イベント当日は、グランピング施設利用者以外の方も含め、1000人ほどのお客様に来場いただき、大盛況となりました。次回開催日はまだ決まっていませんが、今後も年に1度、その日限り飲めるイベントを開催していく予定です。
――熟成したビールの評判はいかがですか。
DOAIVILLAGE おいしい、面白い、味がまろやかになったなどの声を多数いただいております。ほぼ全てのビールの味がプラスの方に変化したかと思います。
――それを聞いて、ぜひ飲んでみたいと思いました。ところで、土合駅では旧駅務室を改装した駅茶moguraというカフェも営業されていますね。こちらの魅力について教えてください。
DOAIVILLAGE 土合駅は日本百名山の一つ・谷川岳への登山口として知られており、今まで土合駅の利用は山登りの方がほとんどでした。そういった人にも新しい使い方をしていただきたいという思いから、旧駅務室をカフェに改修いたしました。土合駅は電車の本数が多くはないので、待ち時間などにご利用いただいているようです。
カフェの内装については電車好きの方にも今まで通りご利用いただきたく、できる限り閉鎖された当時の雰囲気を残しつつ営業しております。このほか、地元の方もたまにコーヒーを飲んだり豆を買いに来てくださっていますね。
――ありがとうございます。最後に、土合駅周辺のグランピング施設についても教えてください。
DOAIVILLAGE 駅徒歩0分の立地ですので、手ぶらで電車で来てすぐに自然を楽しめる、キャンプ初心者でも安心して過ごせるのがポイントです。
土合駅周辺は豪雪地帯で、地元の方たちも「冬に行く場所じゃない」といわれるような場所でしたが、弊社がサウナを作り、温まってから雪でクールダウンするという体験を提供したところ人気を博し、デメリットをメリットに転換することができました。
この他の珍しいポイントとしては、マシュマロのような形のインスタントハウスに宿泊できることが挙げられます。このインスタントハウスは、東日本大震災の際に仮設住宅の代わりになるテントとして考案されたもので、4時間ほどで立ち上がるようになっており、雪国でも耐えうる仕様になっているのが特徴です。
この他にも、DOAIVILLAGEでは「土合朝市」を定期的に開催。こちらはみなかみ地域や群馬県の魅力を発信するイベントで、地域のさまざまなお店が出店し、コーヒーや、パン、ケーキ、野菜、アウトドア用品の物販などを行っています。秘境駅であるにもかかわらず、1日に1000人前後の人が訪れるなど、県の内外からも注目されるイベントになっているそうです。
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