近年、海賊版漫画サイトなどの報道で話題に上ることも増えたコンテンツ違法アップロード問題。被害を受けたクリエイターは、海外のサイトに削除申請を行うなど、対処に負担を強いられることもままあります。
そんなクリエイターに代わって、2次元コンテンツのダウンロード販売サービス「DLsite」などを運営するエイシスは違法アップロードへの対応を行っています。
同社は2014年から、自社サービスに関わるコンテンツの違法アップロードについて、無料の削除要請代行サービスを提供。クリエイターとユーザーから申請を受け付け、削除要請代行を行い、また独自の監視システムで24時間インターネットを巡回し、削除要請を行っています。
同社によると削除要請代行を始めた2014年7月から2022年9月末まで、累計でGoogleへのDMCA(デジタルミレニアム著作権法)申請は400万件以上、違法アップロードサイトへの削除要請はおよそ300万件に上っています。
同様の施策を行う企業は他にもありますが、エイシスは定期的に活動内容を報告するなど、特に積極的に違法アップロード対策に取り組む姿勢を表明しています。この取り組みについて同社に詳しく聞きました。
サークルの手間や心理的な負担をなくすために
違法アップロードを「クリエイター、ユーザー、そしてコンテンツ市場に大きな影響を及ぼす社会問題」として取り組むべき重要な課題と捉えてきたエイシス。違法アップロードの問題は2000年代後半から存在していたものの、2010年代に入ると広告収入を目的とした大規模なサイトが台頭し、作品名で検索すると違法アップロードサイトが検索結果の上位にヒットするケースも出始めて、世間でも話題に上るようになってきたといいます。
その一方で、削除依頼はクリエイターが手作業で行う必要があり、手間に加えて英語で申請する負担、申請者の情報開示を求められるという心理的なハードルがありました。
「この対応を法人として行えないものか模索する中で、違法アップロードの削除業務に対応しているパートナー企業とつながることができたため、まずは一部のサークル様の協力のもとで削除依頼の代行のトライアルを行い、一定の効果を得られました」(エイシス)
その後同社は本格的な対策活動をスタート。以降はパートナー企業と連携しながら、自社開発の監視プログラムの運用を軸に活動を行っているとしています。
累計で数百万件に上る申請件数ですが、対応している社内の対策チームのメンバーは約9人。違法サイトの監視は独自プログラムを活用して自動化し、検出したサイトを社内のスタッフが確認。簡単な削除申請業務はプログラムで自動化しており、複雑な作業はパートナー企業に委託することで、少ない人数で対応できる体制を構築しているそうです。
実際、どのくらい削除されているのか
申請や通報の件数は、徐々に増えているといいます。エイシスの直近2年のDMCA申請件数を6カ月ごとに比べた数値は下記の通り。
- 2020年10月〜2021年3月末:3万4443件
- 2021年4月〜9月末:3万5285件
- 2021年10月〜2022年3月末:3万6181件
- 2022年4月〜9月末:3万7023件
「サークルさん・ユーザーさんからの通報は、違法アップロードに関連する報道(漫画村、ファスト映画など)の時期と連動して大きく増える傾向が見受けられます。話題に接することで、みなさまの問題意識が高まり行動に移すきっかけとなっているのだと捉えています」(エイシス)
申請のうち実際に通ったのは、エイシスのデータをもとにした大まかな数字によると、GoogleDMCAでは6割強が検索候補から除外され、違法サイトからの削除は7割ほど。
さらなる対応として、「ファイルの削除要請に応じないサイトへのさらなる対応として、そのサイトの運営に関わるサーバーやネットワークの会社などにアプローチを行うなどし、削除に応じるよう手を尽くしています」と同社は説明しています。
クリエイターの反応は
この取り組みをクリエイターやユーザーはどのように捉えているのでしょうか? 反響についてきいたところ、クリエイターからは「違法アップロード事例を見かけてもどう対応してよいかわからず困惑されていた方々も、窓口が出来たことで連絡が対策につながるとしてお喜びの声、肯定的なご反応をいただいています」といいます。
また2020年6月から、エイシスではユーザーによる通報(ユーザー登録が必要)を受け付け。違法アップロードを見かけてもどう対応していいか分からなかったユーザーも、窓口ができたことで連絡が対策につながるとしてポジティブな反応が寄せられているそうです。
ちなみに、通報時にどのような情報を提出するといいか聞いたところ、「DLsite」販売中の作品であれば、「DLsite上での作品ページURL」「違法アップロード先の該当URL」をセットで提出してほしいとのこと。手間を軽減できるよう専用の情報提供フォームを設置しているとしています(クリエイターはサークル管理ページの専用メニューから、ユーザーは情報提供フォームから)。
後追いでない対策も
違法アップロード問題について、削除申請のほかに何か考えているのかについても聞いてみました。
エイシスが“間接的な対策”として挙げたのが、2021年12月に開始した「みんなで翻訳」という翻訳サービス。作者の許可を得た作品を有志が翻訳し、作品配信を通して得た利益を関係者に分配するサービスで、非公式に作品を翻訳して違法アップロードする動きに対抗するものです。
「翻訳許可が出ている作品は違法アップロードの被害が少なくなり、抑制効果を実感しております」とエイシス。「これまで行ってきた対策活動は、いずれもアップロードを受けての後追いの対応でしたので、『みんなで翻訳』のような間接的な形でも先行した取り組みを今後も実現していきたいと考えています」
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