学生時代に万葉集と出会い、感銘を受け人生の支えとしている人のエッセイ漫画がドラマチックだとTwitterで注目を集めています。投稿へは記事執筆時点で6200件以上のいいねが寄せられました。
漫画を描いたのは、たぬポンド(@tan_uk_ijiru)さん。数年前に投稿した「夫とのなれ初め(と見せかけて違う)漫画」で描いた狭野茅上娘子の歌が、NHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」で本歌取り(有名な古歌の一節を自作に取り入れる作歌法)されたことで再び注目を集めたため、ブラッシュアップして再投稿したといいます。
これは、たぬポンドさんが大学生のころのこと。相手の事を考えるだけで指先がぎゅっと冷たくなるほどの恋が実ったものの、結ばれた直後に彼が海外留学へ行くことになり、遠距離恋愛になってしまったたぬポンドさん。抜け殻のような日々に出会ったのが、狭野茅上娘子のある歌だったのです。
机に顔を伏せ、ぼんやりしながら大学の講義を受けていたたぬポンドさん。先生が「君がいく 道の長手を繰り畳ね 焼き滅ぼさむ 天の火もがも」と詠んだとき、たぬポンドさんに衝撃が走りました。
この歌は、狭野茅上娘子が流刑になる夫へ詠んだ「あなたが行く長い道のりを手操って、折り畳んで、焼き滅ぼしてしまう。そんな天の火が私は欲しい」という意味の歌。先生は「まぁ遠距離恋愛の歌だね」と続けますが、たぬポンドさんは意味を理解するよりも先にこの歌が心に刺さってきたといいます。
古い時代に詠まれた歌にもかかわらず「未来を手繰り寄せて折りたたんで燃やす」という情熱的で面白い発想が詰まったこの歌と自身の境遇が重なり、「わかりみが深い……!」と感銘を受けたのでした。
授業後、先生へ歌に興味が湧いたことを伝え、いくつか質問をすると、先生はうれしそうに「僕はいつもね、質問に来る学生を『来むといふも 来ぬ時あるを 来じといふを 来むとは待たじ 来じといふものを』っていう気持ちで待っててね……」と、自身の思いを大伴坂上郎女の歌に例えて語り出しました。
これは「来ると言いながら来ない時もあるのに、来ないと言っているものを来るかもしれないだなんて待つのはもうやめよう。今日は来ないと言っているのだから……」という意味の恋の歌。先生は学生たちが質問に来ると言っても結局来ない日がある自身の境遇をあてはめていましたが、たぬポンドさんの恋愛にも重なります。思わず共感のあまり「わかる……!」と天を仰いでしまうのでした。
先生は万葉集には全部で4536首あり、そのうち大伴坂上郎女の歌は84首残っていることや、ウナギや腋毛などユニークなテーマの歌もあることを教えてくれました。万葉集、奥が深すぎる……!
先生が瞳を輝かせて「万葉集は本当に魅力あふれるものです、たくさん読んでもっと好きになってね」と言うと、万葉集に感銘を受けたたぬポンドさんもキラキラの瞳で「先生の万葉集やれるゼミに入信します」と、ゼミを即決したのでした。
こうして万葉集と出会い、今なお人生の支えとしているというたぬポンドさん。その後、帰国した彼に自分からプロポーズをしてめでたく結婚したといいます。万葉集の歌と同じくらいの情熱的なハッピーエンドですね!
漫画には「こういう世界が見えてくるから、勉強って面白いです」「万葉集面白そう……ってなった」と興味を引かれたという声や、「万葉集、そう、古くても今の時代の私たちにもわかる恋心が書いてあるんですよね〜!」「大好きな歌が、こんなすてきなマンガになっている」と反響が多数寄せられています。
たぬポンドさんのTwitterアカウント(@tan_uk_ijiru)では、この他にも日々の生活や育児にまつわるさまざまなエッセイ漫画を公開中です。
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