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24時間365日、年中無休の獣医師のお仕事って……? 「食卓の安全を守る」産業動物臨床獣医師について解説します(2/2 ページ)

元産業動物臨床獣医師の筆者が解説します。

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産業動物臨床獣医師のお仕事スケジュール

診療風景 筆者がやっていた実際の診療風景 ※画像は筆者撮影

 産業動物臨床獣医師の主な仕事は、牛など産業動物の治療や、病気を予防する医療を行うこと。牛の場合、牛の誕生をサポートする繁殖検診や、人工授精・受精卵移植、採卵なども行っています。また、病気の発生を防ぐワクチンの接種や、内臓や卵巣、子宮、泌尿器を診察する直腸検査など各種検査も行います。

 直腸検査は牛によく行う検査の1つです。獣医師が肩まである長い手袋を腕に装着して、牛の肛門に腕を入れて、直腸内を検査します。牛の糞は体格が大きいほど量も多く、直腸検査中に牛が糞を出し、全身糞まみれになることも。大動物獣医師あるあるエピソードです。

 獣医師といえば上記のように診療しているイメージですが、その他にもカルテの作成や証明書の発行など、実際は事務仕事も多いです。診療所によっては事務員の方に事務仕事を手伝ってもらう必要もあります。

【主な業務内容】

  • 診療
  • 繁殖検診
  • 人工授精・授精卵移植
  • 採卵
  • 治療削蹄
  • ワクチン
  • カルテの作成、証明書の発行など事務仕事

業務の1日の流れ

子牛に点滴中 子牛に点滴中 ※画像は筆者撮影

 毎日8時〜9時の間に出勤し、その後ミーティングや電話の受付、診療の割り振りを行って準備をしたら、午前診療がスタートします。13時までに診療を終えたらお昼休憩ですが、時間が無い事も多いため、診療車の中で簡単に済ませるか食べられないこともありました。1時間のお昼休憩をはさんで、17時ごろまで午後の診療、手術などを行います。午後の診療を終了したら、19時ごろまで片付けや事務作業、検査など。19時ごろに仕事が終わっていれば帰宅です。

 ちなみに牛の診療はペットと違い、診療車で往診に行きます。なぜなら牛は体重が600キロを超える個体もいて、動物病院へ連れていくことが難しいため。そのため診療所は、事務仕事や薬の在庫を置くための簡素なつくりの場合が多いんです。

糞便検査 糞便検査 ※画像は筆者撮影

 牛の獣医師は牛の体調や出産などで呼び出されるため24時間365日の年中無休! 夜は当番制です。診療に呼ばれたらすぐに往診へ向かわなければいけません。毎日がめまぐるしく、気が付いたら夜だった、なんてこともよくありました。

 ちなみに1年目の大晦日、私は夜間当番を担当。23時過ぎたあたりに診療の連絡が入り、診療先は家から車で1時間ほどかかる場所でした。年越しを診療車の中で過ごしたのは印象深いです。さらに、その診療は難産の牛で経腟分娩できず……。先輩と明け方まで帝王切開することになりました。次の日の元旦は、朝から仕事だったので大変だった思い出があります。

牛用体温計 牛用の体温計 ※画像は筆者撮影

産業動物臨床獣医師のやりがいは?

 前述した通り牛の獣医師は年中無休なため、体力的にとても大変な仕事です。当番の場合は夜中に診療したうえで次の日も仕事なので、丸2日働き続ける日もあります。しかし重篤だった牛が治ったり、難産の牛を助けられたりしたときは大きな達成感がありました。また、普段勉強していたことが実践で役立ったときは、とてもやりがいを感じます。

担当していた牛 担当していた子牛 ※画像は筆者撮影

 獣医師は人間の医師と違い、研修期間の制度がありません。つまり、技術が成熟していなくても、すぐに診療に出る事が可能です。 小動物の獣医師は上司が身近にいることが多いため、もし分からないことがあれば即時質問しやすい環境です。一方、大動物獣医師は各自診療車で往診に回るため、分からないことも1人で対応しなければいけないケースが多いです。私の場合、入社して1カ月で職場の獣医師が退職したため、入社2カ月で1人で診療にまわることになりました。はじめは技術も未熟だったため、1人で行って、牛への静脈注射に2時間かかってしまうことも……。

 診療のついでに牛の妊娠鑑定を頼まれても、分からないことも多かったです。しかし、そんな中でも失敗と経験を積み重ねて、全てを現場から学べることがやりがいにもなりました。

 牛を救えたときや農家さんに感謝されたとき、「この仕事をやってよかった」と心から感じる場面が、この仕事の醍醐味なのだと思います。

放牧牛たち 放牧されている牛たち ※画像は筆者撮影

 普段の生活では、牛に直接触れる機会が少ない方が多いと思います。しかし牛は牛乳や牛肉を提供してくれる、私たちにとってとても身近な生き物。産業動物臨床獣医師は牛の診療を通して、みなさんの食卓の安全を守るお手伝いをしているのです。本記事によって、牛や牛の獣医師に対して少しでも興味をもっていただけると幸いです。

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