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ハイなクマが大暴れ! 映画「コカイン・ベア」レビュー 実話の先に待ち受けていたのはまさかの優しさでした(1/3 ページ)

クスリ、ダメ絶対(反面教師的な学び)

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 クマがコカインをキメた衝撃の実話を映画化した「コカイン・ベア」が9月29日より公開されている。

ハイなクマ大暴れ映画「コカイン・ベア」レビュー まさかの実話の先に待ち受けていたのは優しさでした 「コカイン・ベア」 2023年9月29日(金)よりTOHOシネマズ日比谷、渋谷シネクイントほか全国公開 配給:パルコ (C)2022 UNIVERSAL STUDIOS

 本作のジャンルは「人間が次々に殺される」という由緒正しきモンスターパニック(アドベンチャー)もの。その殺され方はおおむねグロく、血しぶきやモツ(内臓)も出るサービスもある。そんなゴア描写が満載の不謹慎な内容ながら、後述するように「クスリ、ダメ絶対」をたくさん学べる教育上たいへんまっとうな映画でもある(※R15+指定)。

 ライオンに(ヒョウにも)襲われた経験で有名な松島トモ子は、この映画に「あの時のライオンが『コカイン・ライオン』じゃなくて良かった」という、ものすごく説得力のあるコメントを寄せていたりもする。そう松島が思った理由は、映画本編を見ればよりはっきりと分かることだろう。

 この「コカイン・ベア」については以上のことを期待すればOK。他に言うことはなくてもいい勢いであるが、過激でキャッチーな触れ込みだけに、短絡的に映画化すると安っぽくなってしまいそうなところを、本作はちゃんとした工夫と技術でしっかり面白い娯楽作に仕上げていること、そして「優しい」作品になっていることを心から称賛したい。それらの理由を記していこう。

「コカイン・ベア」本予告

死んでしまったクマへの鎮魂歌かもしれない

 まず、本作の着想元となった実話について、公式サイト掲載の文言を載せておこう。

「1985年9月11日の朝。麻薬密輸人のアンドリュー・カーター・ソーントン2世がFBIに追われ、セスナ機からコカインが入ったバッグを投げ捨てた。しかし、こともあろうに体重80kgのクマが、その白い粉を食べてしまった後に亡くなった」

 そう、現実ではクマはコカインを食べて、ただ死んでしまったのである。このこと自体が「クスリ、ダメ絶対!」をストレートに学べる出来事ではあるが、それだけで映画にできるはずもない。

ハイなクマ大暴れ映画「コカイン・ベア」レビュー まさかの実話の先に待ち受けていたのは優しさでした (C)2022 UNIVERSAL STUDIOS

 脚本家のジミー・ウォーデンは、「クマが薬物の過剰摂取で死ぬだけの話にするつもりはなかった。気が滅入るから」「その代わりに大勢の人間を殺させることを考えたんだ」「コカインを摂取したクマが森で人を殺すさまざまな方法を考え出すのは、今まで脚本を書いた中でもっとも楽しかった」と語っていたりする。

 その結果として出来上がったのが、麻薬王一味、子ども2人と母親、警察、レンジャーと分かりやすく色分けされた人間チームが、コカインをキメたクマのいる森の中で七転八倒の大慌てをするという、やはり王道のモンスターパニックもの。「実話は冒頭部のみで、あとは全部フィクション」という思い切った内容になったのである。

ハイなクマ大暴れ映画「コカイン・ベア」レビュー まさかの実話の先に待ち受けていたのは優しさでした (C)2022 UNIVERSAL STUDIOS

 この方向性を安易に感じる方もいるかもしれないが、個人的にはここにこそ「優しさ」を感じた。何しろ、現実のクマは、どれだけ危険なものかも知らずにコカインを摂取して、ただ死んでしまった哀れな被害者なのだ。そんな物語なんて、確かに誰も望んでいない。だからこそ、この映画では「現実で死んだクマを、フィクションの中くらい気持ちよくハイにさせて大暴れさせてあげようじゃないか!」という、まるで「IF(もしも)」を叶えてくれた映画、はたまた「レイクエム(鎮魂歌)」にすら思えたのだ。

ハイなクマ大暴れ映画「コカイン・ベア」レビュー まさかの実話の先に待ち受けていたのは優しさでした (C)2022 UNIVERSAL STUDIOS

ハイなクマ大暴れ映画「コカイン・ベア」レビュー まさかの実話の先に待ち受けていたのは優しさでした (C)2022 UNIVERSAL STUDIOS

 ちなみに、現実のクマの体重は80kgだったそうだが、この映画では200kg超の殺人マシンへと設定を変えたそうだ。もちろん劇中のクマは本物ではなく、膨大な視覚効果の作業およびモーションキャプチャーにより生み出されたものである。この世に本当にいるとしか思えないリアルな造形かつ、現実では絶対に見られないであろうコカインをキメまくる一挙一動がとってもかわいい。そのコカイン・ベアをよみがえらせるための本気ぶりからも、作り手の優しさ、いや愛を感じずにはいられないではないか。

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