川に生息する“サバ”の姿がYouTubeに投稿され、記事執筆時点で16万再生を突破しています。投稿は「初めて見ました!」「貴重な動画」「めちゃカッコイイ見た目で感動!」と反響を集めています。
話題になっているのは、北海道水辺の会さんが投稿した川の生態調査の動画です。投稿者さんは水辺で釣りや自然観察をしながら水生生物の生息状況を調査し、状況に応じて外来種の防除活動を行っています。
調査のターゲットは通称“カワサバ”と呼ばれる魚。サバは通常、海に生息しているはずですが……川にいるサバというのはいったいどのような魚なのでしょうか?
この川に来るのは1年ぶりだという投稿者さん。前回訪れたときには、かつてこの川に多く生息していたヤマメ・イワナ・ニジマスなどがほとんど見られず、ほぼ“カワサバ”だけの生態系になっていたといいます。このことを「とんでもない事態」であると表現しているところから、カワサバが喜ばしい存在ではないことがわかります。
小さな滝つぼや生い茂る草木の下をすくうように網でガサゴソすると、在来種の「フクドジョウ(コイ目フクドジョウ科)」など、たくさんの小魚が入ってきます。カワサバは深みになっているくぼみなどに隠れていることが多いそうで、出没しそうなスポットを探りながら慎重に進んでいきます。すると……?
3匹も網にかかったことに投稿者さんが「おお〜!」と声をあげたのは準絶滅危惧種の「ヤチウグイ(コイ目コイ科)」です。以前この川の5キロほど下流で見かけたことはあるそうですが、今回のスポットでは初めての遭遇だといいます。在来種であるため川にいることが好ましい魚であり、声が弾みます。
スピードの速い魚影を見かけるとうれしそうに追いかけ網を差し入れる投稿者さん。お次にかかったのは、「ヤマメ(サケ目サケ科)」でした。ヤマメは在来種で、環境の変化次第で準絶滅危惧種に指定される可能性のある「留意種」と呼ばれるもののひとつなのだそうです。1年前には見られなかった川に戻ってきてくれたということは、とっても喜ばしいことなのです。
他にも留意種の「ハナカジカ(スズキ目カジカ科)」や、驚くほどまるまる太った健康的なヤマメなど、川がよい状態であることを示す魚にたくさん出会うことができました。「だいぶ生態系がかわった」とつぶやく投稿者さん。1年前はたくさんいたという“カワサバ”はもうこの川にはいないのでしょうか……?
ラストチャレンジは大きな滝つぼで行います。水しぶきをあげる滝つぼのすぐそばで泳いでいる、大きくすばしっこい魚影に網を差すと……?
ついに“カワサバ”が網にかかりました! その体をじっくり見てみると、複雑な模様を持っていることがわかります。実は“カワサバ”というのは正式名称ではなく、サクラマスとアメマスの交雑種。ざっくりと言えばイワナとヤマメの雑種を指す通称です。そのため、見た目や顔つきはヤマメに似ていますが、背中にイワナゆずりのパーマークと呼ばれる模様が多く入っているのだとか。このゴマサバ模様が通称“カワサバ”の由来となったのだそうです。
カワサバの誕生には複数のパターンがあるようで、本州では他のイワナ類とヤマメもしくはイワナ類とサツキマス(アマゴ)の交雑種もカワサバと呼ばれているのだとか。それにしても、本当に不思議な姿をしていますね……!
こんなにキレイな姿をしているカワサバですが、実は繁殖能力がありません。そのため、生まれた時点で世代を絶やすことになってしまうやっかいな存在なのです。北海道では他のサケ科魚類の交雑も確認されていますが、カワマスとアメマスの交雑種(ジャガートラウト)や、カワマスとオショロコマの交雑種(名称なし)をのぞき、基本的に交雑種は繁殖能力を持たないのだといいます。
投稿者さんによると、交雑が起こる人為的な原因として、堰堤(えんてい)建設によって川を自由に行き来できなくなってしまう遡上障害や放流などにより本来生息環境の被らない2種が混棲してしまうことなどがあるのだそうです。他にも自然的な原因として、水源の枯渇や流れの変化などによる河川環境の変化によっても起こる場合があります。
今回調査した川では宅地開発による土砂の流入があったといい、その翌年からカワサバしか見られなくなったようにも思えるのだとか。ひとつの仮説ではありますが、環境の変化によって交雑が起こり、一時はカワサバだらけの川になってしまっていたことが考えられるのです。人為的な出来事が自然環境にもたらす影響は大きく、その変化はまさに水面下で静かに起こっていたのかもしれませんね。生態系がもとの状態に戻りつつあるとのこと、本当によかったです。
投稿者さんのYouTubeチャンネル「北海道水辺の会」では、自然のありのままの姿を映した動画の数々を公開中。のぞいてみれば、人間が自然と上手に共存することができているのかどうか、答え合わせをする機会になるかもしれません。
画像提供:YouTubeチャンネル「北海道水辺の会」さん
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