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神奈川県相模原市で猫74匹の多頭飼育崩壊 行政・大学・獣医師会・ボランティアが一丸となり命を救う姿に反響(1/3 ページ)

官民、学生たちが一体となって協働しています。

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 神奈川県相模原市で猫74匹の多頭飼育崩壊が発生。相模原市、麻布大学、相模原市獣医師会、保護猫ボランティア団体、企業が一丸となって対応する姿がX(Twitter)に投稿され、反響を呼んでいます。編集部は、投稿者である保護猫ボランティア団体「たんぽぽの里」代表に話を聞きました。

相模原市の住宅で74匹の多頭飼育崩壊が発生

 環境省が2020年に実施した調査によると、動物を2頭以上飼育している飼い主に関して複数の住民から苦情が寄せられた世帯数は全国で年間2149件、1自治体あたり平均約20.5件だったとのこと。また、動物愛護管理部局が抱える多頭飼育問題の課題を整理した際に、上位に来た5つは「飼い主が生活に困窮しており、引取りや不妊去勢の手数料を支払えない」「飼い主が動物の所有権を手放さない」「多頭飼育に関する情報が入ってこない」「飼い主とのコミュニケーションができない」「人員が不足している」としています。

参照:環境省「人、動物、地域に向き合う多頭飼育対策ガイドライン〜社会福祉と動物愛護管理の多機関連携に向けて〜

 今回多頭飼育崩壊が起こったのは、相模原市で1人暮らしをしていたある飼い主の家。相模原市に相談を寄せたことがきっかけで発覚しました。Xには、糞尿と毛にまみれた部屋の様子や、おびえた表情で見つめる猫たちの姿が投稿されています。

猫たちの現場
保護時の猫たちの様子

 一刻も早く猫たちを保護しなければならない状況でしたが、相模原市の一時収容施設の収容数は最大で30匹。すでに12匹が収容されていたため、18匹しか収容できない状態だったそうです。

相模原市、麻布大学、相模原市獣医師会、ボランティア団体が協働

 そこで市から協力要請を受けたのが、ボランティア団体保護猫シェルター「たんぽぽの里」でした。まずは子猫8匹と母猫1匹を「たんぽぽの里」が緊急保護することで、市が飼い主から「全猫たちの不妊手術に同意するサイン」をもらうことに成功します。

子猫たち
緊急保護された子猫たち

 その後、「たんぽぽの里」は第2回捕獲対応で38匹の猫たちを保護。飼い主が「猫たちを手放す」と言ったタイミングを逃さないために、「たんぽぽの里」に併設している猫専用病院「たんぽぽキャットクリニック」(旧あだぷしょんぱぁく)の外来対応を急遽ストップし、スタッフを総動員して猫たちに対応しました。現在、「たんぽぽの里」では23匹の預かりをしています。

 さらに、「たんぽぽの里」の医療母体である「たんぽぽあだぷしょんぱぁく」と獣医療行為に係る協定書を締結している麻布大学の学生たちも多数駆け付け、猫たちのオペやケアに協力。麻布大学では15匹の手術を行ったそうです。

おびえる猫
おびえる表情です

 また、獣医師会の動物病院では手分けして46匹の手術を実施。相模原市と相模原市獣医師会が、崩壊現場に対して獣医療連携を行えるよう関係各所間を調整する、獣医師会からの働きかけにより、企業からペットシーツなどが支援提供されるなど、官民・そして大学が一体となって、猫たちの命を助けるために取り組んでいます。

 今後の予定は、まずは全ての猫たちにシャンプー、マイクロチップ、寄生虫駆除薬をほどこし、終了した猫からそれぞれの保護先に移動。手術等の初期医療を終えた猫たちは、12月9日に相模原市保健所主催で行われる緊急譲渡会に参加する予定とのこと。

 何匹かの猫は、行政や家族が見守って猫の飼育環境がしっかりと整い次第、元の飼い主に戻される予定だそうです。

「たんぽぽの里」代表に話を聞いた

 編集部は、「たんぽぽの里」代表に話を聞きました。

――今回の多頭飼育崩壊の対応で、相模原市、麻布大学、相模原市獣医師会、ボランティア団体の連携が非常によくとれているように思いました。いつごろから連携がとれるようになったのでしょうか。きっかけがあれば教えてください

たんぽぽの里代表:相模原市では、行政に入った相談事案が、相談者の許可を得てボランティアに協力依頼として共有されます。今回のケースのように常に行政とボランティアが協働しており、それぞれの立場で意見を出し合い、問題解決をはかっています。

 相模原市と相模原市獣医師会の獣医療連携は、相模原市に猫一時収容施設(定員24匹)ができた際にスタートしました。今回の多頭崩壊現場から、行政・獣医師会・ボランティアが協働してレスキューの方法を検討しています。獣医師会の協力を得られた事で、素早く対応ができたと思います。

 ノミだらけ、ひどい尿臭の猫たちをそのまま獣医師会にお願いする事ははばかられることから、獣医師会の初期医療前にたんぽぽキャットクリニックでシャンプー、マイクロチップ、ノミ取りを対応しました。市の予算に限界がある為、これらの費用は新しい飼い主が見つかった際に受益者負担としてお願いする予定です。

 そして麻布大学との提携に関してです。猫の行動学の研究のため、麻布大学の学生さんたちがたんぽぽから猫を預かって観察をしたことがありました。その際にお世話になった教授に医療面での相談をしたところ、麻布大学に話をつなげてくださり、話し合った結果提携のお話をいただきました。

 協定のお話をいただいたときは、ボランティアの私では深く内容が検討できない為、たんぽぽキャットクリニック院長の椿が大学との架け橋となり現在にいたります。協定では、「麻布大学に所属する獣医師監督の下、スチューデント・ドクターとして認定された獣医学科の学生が、『たんぽぽあだぷしょんぱぁく』に自治体から全権委任を受け、搬送された猫・小型犬に対して、避妊去勢手術を含めた獣医療を行う」としています。

――現在一番困っていることはなんでしょうか。また、読者に伝えたいメッセージがあれば教えてください

たんぽぽの里代表:保護した猫たちのフード(ドライ、ウエット)とケージ、トイレ砂が足りない状態です。

 相模原市は猫たちの保護場所がない状況でも、収容拒否はしません。それは行政、麻布大学、獣医師会、ボランティアとの連携がとれていて、動物の福祉を1番に考えてくださる方が集まっているからです。他の地域では、警察事案でも収容を拒否したり、ボランティアに丸投げしたり、多頭飼育崩壊が起こっていても現地に犬猫をそのままにしてしまったりするケースが見られます。

 「マンパワーが足りないから」と収容拒否するのではなく、もっと出来ることを考え、チャレンジしていただく事を切に願います。

(了)

 保護猫ボランティア「たんぽぽの里」は、2005年の立ち上げ以降、約1万匹以上の猫と300匹の犬を保護してきました。今回の多頭飼育崩壊に関する援助を受け付けるため、Amazonほしい物リストを公開中です。また、クラウドファンディングのプロジェクトでも「命の線引きをせず全ての猫たちを救いたい」と支援を募集しています(11月30日23時終了)。 

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