「冷やし中華始めました」→本当に“始まった”のっていつ? 夏の風物詩・冷やし中華の“発祥”や“名称の広がり”を調べてみた(1/3 ページ)
中華といいつつ日本発祥です。
夏によく見る「冷やし中華始めました」の張り紙。毎年の風物詩ですが、この料理が生まれたころ、すなわち冷やし中華が本当に“始まった”のはいつなのでしょうか。
発祥には諸説あり
冷やし中華発祥の地については複数の説があります。よく挙げられるのは、仙台の龍亭と東京の揚子江菜館です。両店ともに、こんにちの冷やし中華の原型といわれるメニューを昭和10年前後に開発し、それぞれ「涼拌麺」「五色涼拌麺」という名前で売り出しました。
ちなみに、“涼拌麺”という料理は中国にもありますが、日本の冷やし中華とは特徴が異なります。こんにちの冷やし中華ではゆでた麺を水で締めるのが主流ですが、中国ではもともと風を送って麺を冷ます程度だったそうです。加えて、酸味の効いたスープも冷やし中華独特のもの。このような違いから、冷やし中華は“中華”といいつつ日本生まれの料理として扱われます。
また、冷やし中華に夏のイメージがあるのは、ズバリ夏でもおいしく食べられる料理として考案されたからです。例えば、龍亭の公式サイトでは、以下の経緯が紹介されています。
当時の中華料理店では、現代とは違い冷房などもなく、油っこく熱いというイメージの中華料理は敬遠されがちで、 夏場の売り上げ減はとても厳しく深刻なものでした。そこで、暑い中でも食べて頂ける冷たい麺料理の開発に取り組んだのです
なお、揚子江菜館では物理的な冷たさよりも見た目の涼しさが工夫されており、麺自体は常温で提供されます。
じゃあ、いつから「冷やし中華」になったの?
では、当初中国風の呼び名で売り出されたこの食べ物は、いつから「冷やし中華」になったのでしょうか。まず、冷やし中華の“中華”は、「中華麺」を意味します。現在の名称が広まったきっかけとしては、高度経済成長期に発売された家庭用の麺製品の存在が挙げられます。1960(昭和35)年、仙台のだい久製麺が「元祖だい久 冷し中華」を発売。当時としては画期的な麺とスープのセットで、その即席性で人気となりました。1962(昭和37)年には明星食品からも「明星冷やし中華」が売り出され、“冷やし中華”の名が全国区になっていったようです。
夏の定番・冷やし中華。昭和10年代に“始まった”この料理は、誕生から数十年たったいまでも、日本の夏をおいしく涼しく演出し続けています。
参考文献
- 味の素食の文化センター「冷やし中華」
- 増子保志「涼拌麺から冷やし中華へ−冷やし中華はいつ “冷やし中華”になったのか?−」(日本国際情報学会『Kokusai-Joho』3巻1号 2018年7月)
- 龍亭「龍亭のこと」
- 揚子江菜館
- だい久製麺「だい久から生まれた日本初の商品」
文:近藤仁美(こんどう・ひとみ)
クイズ作家。国際クイズ連盟日本支部長。これまでに、『高校生クイズ』『クイズ!あなたは小学5年生より賢いの?』等のテレビ番組の他、各種メディア・イベントなどに問題を提供する。2023年、「Trivia Hall of Fame(トリビアの殿堂)」殿堂入り。著書に『人に話したくなるほど面白い! 教養になる超雑学』(永岡書店)など。
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