ねとらぼ
2025/10/17 17:00(公開)

関智一の一言がきっかけだった──ロボ愛×本格ミステリ小説『タイム アフター レコーディング』が生まれるまで【伊福部崇インタビュー】

 2023年6月、声優・俳優として活躍している関智一さん、長沢美樹さんが座長を務める「劇団ヘロヘロQカムパニー」の第40回公演として上演された「タイム アフター レコーディング」。1978年のロボットアニメのアフレコ現場が舞台となったSFコメディ作品です。

著者の伊福部崇

 そんな「タイム アフター レコーディング」の脚本を担当したのは、放送作家・歌手などマルチに活躍する伊福部崇さん。伊福部さんが再び筆を執り、「タイム アフター レコーディング」を小説として再構成した書籍が、2025年11月29日にKADOKAWAから出版されます。そんな伊福部さんに舞台「タイム アフター レコーディング」の誕生秘話や、小説執筆の裏話など、たくさんのお話を聞くことができました。本記事ではそのインタビューを紹介していきます。

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『タイム タフター レコーディング』の表紙
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とっさに「これを小説化する」って言っちゃった(笑)

──『タイム アフター レコーディング』の出版おめでとうございます。

伊福部崇:ありがとうございます。

──伊福部さんといえば演劇や朗読劇、アニメなどの脚本を多く手がけている印象ですが、小説の出版は初めてですか?

伊福部崇:何かをリリースするのは初めて、つまり刊行されるのは初めてなんですけど、雑誌の連載で、昔やってたアニメのライトノベルみたいなものを少し書いたことはあります。そういうのはあるけど、単行本になったわけでもなく……もう20年くらい前の話ですね。

──なるほど。では、今回この小説が、出版物としては初めてということですが、どんな心持ちで執筆されたのか、まずお聞きしたいです。

伊福部崇:『タイム アフター レコーディング』というお芝居自体が、企画の時から色々と苦しんだ作品でした。設定が二転三転したり、途中で登場人物が増えたりと、いろんなことがあって大変だったんですけど、その分すごくいい作品になって「良かったな」と。芝居って、映像化されたらどうなるんだろう、これも映画化できたらいいのにな、なんて思っていました。ただ、知り合いの映画のプロデューサーにちょっと話してみる、くらいで、言ってるだけでは実現が近づくわけじゃないんですよ。じゃあ自分にできることは何かと思って、「原作小説があった方がいいかも」というのが最初のきっかけでした。「小説ちゃんと書いたことないし、書いてみようかな」と。

 それと、たしか2023年の年末くらいに、ミュージシャンのRAM RIDERと一緒にやっているポッドキャスト番組「ストレージ2000」の忘年会で、RAM RIDERが「来年の目標は?」みたいな話を振ったんです。みんなが目標を言ってて、「俺はない」はダサいなと思って、とっさに「これを小説化する」って言っちゃったんですよ(笑)。言ったからには、っていうのがずっと頭にありました。

 そのあと、急にミステリ小説にハマった時期があって、2024年にnoteにも書いたんですけど、60作品くらい読みました。せっかくたくさん読んだし、これだけ読んでるのにアウトプットする先が特にないなら、「そういえば小説書くって言ってたし、やってみよう」と。それが最初のきっかけでしたね。

──ちなみに、たくさん読んだ中で「作品に一番生きた」「特に好きだった」ものはありましたか?

伊福部崇:作品に生きたかどうかは分からないんですけど、小説にハマるきっかけは綾辻行人先生の『十角館の殺人』ですね。2024年にHuluでドラマ化されるとなって、自分の友だちは好きな人がたくさんいたんですが、自分は読んでなかったんですよ。「ドラマだけ見るのもな」と思って読み始めたら、「こんな世界を知らなかった」と衝撃を受けました。

 あと、早坂吝先生の『○○○○○○○○殺人事件』もですね。ミステリで“ふざける”というか、文学のスタンスをああいう角度でやっていいんだ、という立ち向かい方には影響を受けた気がします。

──ミステリ小説って色々と細かいジャンルがありますが、新本格ミステリにハマっていたんですね。

伊福部崇:そうですね。系統でいうと、本格ミステリの方が好みで、警察ミステリは人がいっぱい出てきて処理しきれなくなるからちょっと苦手ですね。密室や館、いわゆるクローズドサークルの方が想像しやすくて好きです。

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「ゲッタービーム」が誕生のきっかけに?

──では次の話題に。『タイム アフター レコーディング』は2023年に劇団ヘロヘロQカムパニーの第40回公演として生まれた作品ですが、企画のきっかけなどをお聞きできればと思います。

伊福部崇:最初はいろんなアイデアがあって、声優の起源の話、NHKでラジオが始まって、劇団ができて、ラジオドラマが生まれて……という歴史を勉強して、そういう話をしようと思ってたんですが、形になりづらい、展開が作りづらいなと。

 そこで全然関係ない「ゲッタービーム」の話にしよう、という関智一さんのアイデアがあって、ロボットアニメの発声「ゲッタービーム」の言い方を開発したことで、いろんな人の人生が動く話……みたいなのをプロットにしたんですけど、やっぱり形にしづらい。

 そんな中、ロボットアニメのエピソードで、「超電磁マシーン ボルテスV」がフィリピンで人気だった、という話があって、「これがもしかしたら国を動かしたんじゃないか」というような話があったんですよ。そこから着想を得た話をオムニバスの一部として入れてたら、打ち合わせで長沢美樹さんが「これ何?」となって、事情を説明したら「面白いじゃん」と。

 そこから「ターミネーターみたいに未来から来たやつが『ボルテスV』を完成させないようにする話はどう?」と関さんが言って、その設定面白いね、となったのが最初のきっかけでした。結果として1978年が舞台になったのは、この作品のきっかけとなった「ボルテスV」最終回の日から逆算したアフレコ日を設定したから、という流れです。

ゲッタービームとは──1974年から1975年にかけて放送されたロボットアニメ「ゲッターロボ」に登場する必殺技。シリーズ作品が多く制作されている人気作品。
「超電磁マシーン ボルテスV」とは──1977年から1978年にかけて放送されたロボットアニメ。『タイム アフター レコーディング』の作中劇「無限闘志メカ グラハムダーV」はこのアニメから着想。

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