「サラダのドライブスルー」が米国ではやりつつある理由

» 2016年10月06日 06時00分 公開
[橋本沙織ITmedia]

 忙しい時などにファストフードを利用する人は多いだろう。それは海外でも同じで、今や米国における外食の「7割」はファストフードだという。中でもクルマに乗ったままオーダーできるドライブスルーは、筆者が住むクルマ社会の米国では重宝されている。

 しかし、ファストフードには「ジャンク」なイメージがつきまとう。そこで生まれたのがアリゾナ州発の「Salad and Go」だ。「新鮮な野菜をたくさん摂れるファストフードがあれば……」、そんな需要に応える新しいコンセプトのファストフード店である。

「Salad and Go」のレシピ(同社のFacebookページより)「Salad and Go」のレシピ(同社のFacebookページより)
「Salad and Go」のドライブスルー(同社のFacebookページより) 「Salad and Go」のドライブスルー(同社のFacebookページより)

教師から経営者へ 両親の病気が教えてくれた食事の大切さ

 創業者のRoushan Christofellis氏が小学校教師を辞め、2013年に夫とともにSalad and Goを立ち上げたきっかけは、両親の病気だった。「健康は当たり前のことではない」と知った彼女は、ジムに通い、適正体重をキープすることを心掛けたが、毎日の食事が一番重要だと気付く。食べ物に気を配り、自炊をするようになったが、それも長くは続かなかったという。

 「誰にでも経験があると思うけれど、フルタイムで働いた後、帰宅して、空腹の状態で料理をしようと思うかしら」

 Christofellis氏はFast Company誌に対して話す。ドライブスルーなら空調の効いたクルマの中でオーダーして、5分以内には手ごろな価格で手に入れられる。「これでヘルシーなものが食べられたら……」、このジレンマがSalad and Goの着想につながった。

テークアウトとドライブスルーのみ、Salad and Goのビジネスモデル

 高品質な野菜をふんだんに使ったサラダを提供することが彼女のミッションとなったが、従来のドライブスルーの「安さ」「早さ」「手軽さ」に、「おいしさ」「新鮮さ」を持ち込むビジネスモデルを成功させるためには、野菜のコストがかさむ問題をクリアしなければならなかった。

 米国大手カフェ・レストランチェーンの「Panera Bread」では、サラダボウルが約8USドル、同じくメキシカングリルの「Chipotle」では最低でも7USドル台の価格。それに対して、Salad and Goのサラダボウルは約6USドル以下と安めの価格設定となっている。外食産業で一般的な原価率は28%とされるが、Salad and Goは新鮮な野菜にこだわった結果、36%とかなり高い。それでも利益を出せるのは、なぜなのか。

 それを可能にしたのは「サラダの一点特化」と「店舗のミニマル化」だ。商材をサラダに絞ることで他社のようにいろいろな食材を仕入れる必要がなく、契約農家から直接食材を仕入れることで中間マージンを削減する。また、アリゾナ州フェニックスにある6つの店舗は60平方メートルと敷地面積がせまく、サービスもテークアウトとドライブスルーに限定し、店舗維持にかかるコストを抑えている。

 さらに、同社の「高コスト・高品質」を支える取り組みの1つに「物流センター」がある。大量購入した食材を全て一カ所に集めることでコストカットを図り、また物流センターとフェニックス内の店舗6つをクルマで45分以内の距離に置くことで、食材を新鮮なまま届けることとコストの削減を両立している。

オーガニック野菜を使った一流シェフの味、人気の秘密は「こだわり」

 同社のExecutive Chefを務めるDaniel Patino氏は、ミシュラン三ツ星を獲得している「Daniel」など、ニューヨークの有名レストランで勤務したことのある凄腕シェフだ。

 野菜は可能な限りオーガニックを使用し、油は遺伝子組み換えでないものを、またチキンも平飼いのものを使うなど、サラダの素材は徹底して厳選されている。手作りのドレッシングもとてもおいしいと消費者に好評だ。

 レギュラーメニューのほかに、旬の野菜を使ったシーズナルメニューの開発にも注力しているのに加え、子どもに人気のドレッシングと飲み物が付いてくるキッズメニューのミニサイズサラダも好評だ。

 同社のFacebook公式ページのいいね数は3万4000を超え(2016年10月時点)、投稿の中には1000以上の「いいね」や100を超えるシェアがあるなど、順調にファン層を拡大中だ。

9月23日から販売している「クリスプアップル&ベーコンサラダ」(同社のFacebookページより) 9月23日から販売している「クリスプアップル&ベーコンサラダ」(同社のFacebookページより)

 アリゾナ州フェニックスにある6店のほかに、同州内に新たに2店舗をオープン予定と規模拡大を図っており、さらに他州への出店も視野に入れているという。

 この9月には、過去にMcDonald’sとChipotleの元役員だったBobby Shaw氏をCEOとして迎え入れた。同氏は、「Amazonが小売業界の伝説となっているように、Salad and Goがファストフードの常識を覆す。国内の健康増進に貢献したい」と、AndhraNews.comに対して語った。

 前出のPanera Breadは2016年内に人口着色料や甘味料、香料を使用しないメニューに変更すると発表し、Chipotleも野菜メニューを拡充させている。ヘルシー志向のカジュアルダイニングやチェーン店も急激に増え、健康意識がいま一段と高まるクルマ社会の米国で、Salad and Goはさらに頭角を現していくことができるか――。

ライター

執筆:橋本沙織、編集:岡徳之(Livit Tokyo)


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